恋人や、弟が、多国籍軍に参加する為、南国へと旅立ってしまった数日後。
国王に即位したあの頃も、今も、仲間達同士の集いの場であるリストランテにて、エドガーは、ティナと二人、恋人に『おいてけぼり』を喰らった者同士の昼食をしていた。
セッツァーのことや、マッシュのことや、今はどうもジドールにいるらしいロックとセリス夫妻のことや……その他仲間達のことを、つらつらと語っている途中。
「…………え?」
シャドウがね、と、ティナが言い出した話に、エドガーは瞳を見開いた。
「…だからね。昨日、シャドウに連絡取りたくて、携帯に電話をしたの。その……どういう風にすれば、マッシュに迷惑が掛からず、連絡が取れるのかしらって…思って……。彼なら、色々な方法を、こっそり教えてくれるんじゃないかしらって、期待して……。でも、繋がらなかったから、リルムの家に電話をしたのね。そうしたら、彼も、情報局関係の仕事で、例の共和国に潜入しちゃったらしい……って、ストラゴスが教えてくれて……」
「彼、も?」
セッツァーやマッシュ同様、直接の戦闘には余り関わり合いがない筈のシャドウまでもが、件のことに狩り出されたと、ティナに語られ。
食事半ばだと云うのに、ナイフとフォークを、エドガーは揃えて皿に置いてしまう。
「そう。彼も、なの。…………どうなっちゃってるのかしら……。本当に、戦争が始まりそうで……。新聞に載ってたTielow通信の記事は、先行きが暗かったから…」
「そうだね……」
「エドガー、貴方何か、知らない? World union最高事務次官や、他の国の人達と、色々と、してるんでしょう? 戦争にならずに、終わるかしら……。マッシュ達……無事に帰って来るかしら……」
本来ならば、今ここで、悠長に食事をしている暇なぞないだろう国王が、それでも、自分へ連絡を取って来たことに、何らかの期待を抱きつつ、ティナは問うた。
「……すまない。答えてあげられることは、余り、ない……。私達が、武力行使を回避する為に働き掛けていることが、真実有効なのかも判らないしね……。軍部の話など、象徴でしかない君主の耳には、中々……」
が、それは、己も知りたいことであり、又、判らないことだ、と首を振った。
「……そう…」
「あの御老体達──三軍の司令官達は、腹の底を絶対に見せないタヌキだから。私がしていることさえ、都合良く利用しそうだ。……ああ、でも。数日後には、このフィガロで、World union最高事務次官達と会見出来るかも知れないから……。その後なら、少しは、色々と判ると思うよ」
「詳しいことは、いいの。話せないことも多いでしょう? 唯……マッシュ、が…………──」
祖国の王である彼さえも、知り得ることは少ないと伝えられ。
ティナも又、食事の手を止め俯き、声を詰まらせてしまった。
「……泣かないで、ティナ。大丈夫。未だ、何も起きてはいないさ。マッシュも、セッツァーも、シャドウも、皆無事に帰って来る筈だよ。間違いなく、ね。……だから、泣かないで。……女性に泣かれるのは、得意じゃないんだ。…………良く、知ってるだろう? 君は私の、未来の義妹なのだから」
ともすれば、彼女の泣き声に引きずられてしまいそうになる心中を覆い隠し、エドガーは、少しばかりの無理をして、華やかな笑みを作り、優しい声音を作る。
「有り難う……。──今日は、連絡貰えて、嬉しかったの…。一人でいると、マッシュのことばかり考えてしまうから。又、時間が取れたら、お食事に誘ってね? 未来のお義兄様」
──恋人の兄の明るい慰めを受けて、ティナは泣き止み、にこりと笑った。
だから、エドガーは、湛えた華やかな笑みに、一層の鮮やかさを添えたけれど。
一人でいると辛いのは、仲間の顔を見て、刹那の安堵を覚えたかったのは……と、そんな彼の中に潜む密かな憂いは、セッツァーが『戦場』に向かってしまってから、それまで以上に華奢に見えるようになった背中の向こう側で、押し殺されてしまった。