そう大した広さはない、その部屋の円卓にて。
「要するに。今回の事態が如何なる進展を見せれば、我々にとって有利に働くか、と云う部分だけだろう? 今、この場で語るべきは、それだけの筈だ」
一人目の男が云った。
「同感だな。そんなことは、この場の誰もが、承知している。唯、それに伴う諸問題を、どうするか、と云っているんだ」
男の言葉に答えて、二人目の男が云った。
「力だけで押し進められる程、簡単な話ではないだろう。相手も、馬鹿ではないだろうし。誇らしくも腹立たしいことに、『素晴らしい』までに、ペンは剣よりも強しであろうとする国だ、我が祖国は」
二人目の男の弁に頷いて、三人目の男が云った。
「……確かに。その部分をどうやって押さえるか、は…誠に厄介と云えば厄介だ」
二人目と三人目の男の意見に、一人目の男も、賛同を示した。
「どうするべきか……」
「あちらが勝手に煽ってくれれば、話は簡単なのだがな……」
「……なら、煽って貰うとするかね? 些か、乱暴な手ではあるが」
「…それが、手っ取り早かろうな。その為に…………」
「そうだな。その為、に…………────」
そして彼等は、視線と視線を交わし、頷き合って……────。
今、世界中の注目を集めている南方の一地方に、恋人や、弟や、友が、旅立ってしまった、約十日後。
エドガーは、城の自室でノートパソコンを立ち上げ、ぼんやり、画面を眺めていた。
──恋人からの連絡は、今だ無いから。
何度繰り返しても結果は同じ、と判っていて、それでも彼は、PCや携帯が、セッツァーからのメールを受信していないかと、確かめることを止められなかった。
己が君主と云う立場である以上、非常事態が起これば、それが耳に入らぬことは有り得ぬから、彼の地で彼等は無事にやっていると、理解は得られるけれども。
直接の連絡、と云う確信は持てず。
かと云って、腹黒い『タヌキジジイ』達──要するに三軍それぞれの最高責任者達に、己と恋人の秘めたる関係を知られてしまった時のような失態は、もう二度と犯せぬから、彼と連絡を取るべく、影で働き掛けることも出来ず。
唯々、砂漠の祖国より、最愛の人を案ずるしか、彼には出来なかった。
なのに、しなければならないことは、山のようにあって。
平和の為に働き掛ける君主としての立場は、貫き通さねばならず。
恋人や家族や友人の無事に心砕くように、彼等と同じ危険地帯に居る全ての兵士達とその家族達へも、心は砕かれるから。
様々なことを抱えなければならない、エドガーのその日の顔色は、どんなに取り繕おうとも、誰もが怪訝そうに覗き込んでしまいたくなる程悪かった。
けれど、君主としての公務を、こなして行かぬ訳にはいかなかったから。
一通のメールすら受け取ってはくれないパソコンの電源を落として、支度を整え、警護の者達と共に、彼が城を後にした──翌日。