全てを打ち明けて、愛してるのだと思うとまで告げ。
 何時でも、ここを立ち去れるようにもなったのに、帰ろうとしないエドガーに、安堵を覚えたのか、幸福を覚えたのか。
 穏やかな微笑みを湛え、辺りの様子でも見て来る、と、セッツァーが出掛けた日。
 雨の上がったあの日より、数日後。
 彼等二人だけで、静かな時を過ごしていた古めかしい館の扉を、叩く音がした。
 

 

「エドガー? 今はこんな季節だったんだな。少し行った所に……──」
 近所の散策から戻り。
 野苺を見つけたと、幾つかそれを摘んで。
 セッツァーが館に戻った時、彼を出迎えてくれる筈の『彼』の姿は、なかった。
 全てが凍り付いた、もう何十年も前の嵐の日のように。
 館は静まり返り、空気の対流さえもなく。
 隅々まで探してみても、愛した人の影すらも、そこには。
「もど……った……のか…?」
 ──エドガーの姿を、探すだけ探して、無為に時を過ごし。
 漸く彼は、その可能性に思い当たった。
「元いた世界に……帰ったのか……?」
 ……と。
 ──現実を、音にして吐き出してしまえば。
 それは、当たり前のことに思えた。
 ストンと、胸の中に、エドガーが消えた事実が、落ちて来た。
 彼が、ここに留まる必要はない。
 勝手にしろ、と云ったのは自分。
 何年も何年も前に、本当は死んでいなければならない筈の愚か者に、何時までも彼が、同性である彼が、付き合う必要など、ない。
 ……彼の存在は。
 もう一度、誰かを信じてみようと、そんな気にさせてくれた。
 愛するとは、こういうことだ、と、そんな想いすら、取り戻させてくれた。
 だから、何も云わずに消えてしまったことを、恨むつもりは欠片もなく。
 むしろ、最大の感謝すら、捧げたいけれど。
 ………………けれど。
 動き出した時の中で、長い長い……長い長い、気が遠退きそうになる程長い間、得たいと想っていた人、得たいと想っていたこと、それらが、一瞬の内に、この手の中から消え去った事実は、彼を、絶望の淵に叩き落とすには、充分過ぎた。
 これが。
 結局、『愛してはやれなかった』女の、本当の呪いなのかと、感じる程に。
 宛てのない彷徨いの果てに、漸く得られた救いが、粉々に砕け散ること、が…………────。

  

   

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