〜なんかエロい10のお題〜

03.一夜のあやまち

 

 

 迷いの森の中。
 現れては消え、現れては消えとする、魔物達と戦っている最中、仲間達と逸れ、結局そのまま、セッツァーとエドガーの二人は、その深い森の直中で、一夜を過ごすことになってしまった。
 昼尚暗く、得体の知れない魔物や獣ばかりが徘徊する森の奥で、只ぼんやりと夜を過ごす訳にはいかないから、何とか二人は洞穴を見付け、そこに潜り込み、暖を取るのと、獣達を避ける為の火を焚きつつ、朝が来るのを待った。
 でも、自分達以外には人の気配一つもない、闇ばかりの森の夜は、流れる時間さえも緩やかになるのか。
「……夜が、深いねえ……」
「……そうだな」
「朝は、遠いねえ……」
「…………そうだな」
 小さくなり始めてしまった焚き火を囲んで膝を抱えたエドガーが吐く、時間潰しが目的の、どうでもいい科白と、そんな科白に返される、セッツァーの、気の入っておらぬ科白は、何時明けるとも知れない、真の闇の向こう側へ吸い込まれて行くばかりだった。
「…………交替で少しは寝ておく?」
「それでも、俺は構わないが」
「私も、別にどうでもいいけど。……それとも、下らない話でもしながら、二人で朝まで起きてる? 眠れはしないけれど、一人で眠気に耐えつつ見張り番、っていう苦痛は、感じなくて済むよ?」
「……お前は、どうしたい?」
「そうだねえ……。建設的に考えるんなら、交替で寝ておいた方がいいんだろうけど。幾ら何でも朝になれば、森の出口も探せると思うし。そうすれば、ファルコンは直ぐそこだし。皆も、私達を探してくれると思うしね。体力の温存、なんてこと、余り考えなくてはいいだろうから。……うん、私も、どっちでもいいかな」
「とっくの昔に、夜半も過ぎてるしな。寝るっつっても、今更か。だったら徹夜の方が、未だ楽かも知れない」
「じゃあ、そうしようか」
 ぼんやり、焚き火を見つめながら。
 時折、やはりぼんやり夜の闇を見つめ。
 実のない会話だけを交わしていた二人は、それでもやがて、多少は現実と向き合った言葉をやり取りし合い。
 後三、四時間もすれば朝が来る、だったらいっそ、徹夜をしよう、と。
 眠りを放棄した。
「……さて。となると。どうやって、朝までの暇を潰すか、って話だが……」
「うーん…………。馬鹿な話も、し尽くしたしねえ……。かと言って、深刻な話と洒落込んでみた処で、私も君も、腹の底を晒してみせるような質でもないから、どうせ互い、肩透かしで終わるし」
「おーお。随分な言われようだな。お前が、自分自身を鑑みて語る、腹の底を晒さない質ってのには、至極同感だが。俺まで捕まえて、一纏めにするな」
「……どうして。私は本当のことを言っただけなのに。私よりも、君の言い種の方が失礼じゃないか」
「何で。てめえ自身で認めてんだろう? てめえのその質。だったら俺の言ってることは、真っ当以外の何物でもねえじゃねえか。……大体な、お前は俺の、何を知ってるっつーんだよ」
「……………………ああ、言われてみれば。考えてみたら私は、君のこと、余り知らないかも知れないなあ。……変な話だね。もう随分と長い間一緒に、こんな旅を続けてるって言うのに。君、自分のこと、滅多に話さないからなあ。……ま、だからこそ、君は私と一緒で、原の底を見せないタイプだって、私は信じてるんだけどね」
 眠ることは、もう諦めよう。
 そう決めるや否や、二人は互い、馬鹿な話はし尽くした、と言いつつも、『馬鹿な話』を延々続け。
「……まあ、な。俺が、自分の身の上を語らない、それは、言われても否定のしようがない。本当のことだから。別に、隠してる訳でも、ないんだが」
「…………そうなんだ? まあでも、率先して、君の身の上話を聞こうとは思わないよ。身の上話なんて、所詮は昔話だし、そんな昔話がどうあろうと、君は君だもの。今の君を知って、そして知れれば、私はそれで充分」
「お前、今の俺には、興味があんのか?」
「そりゃ、勿論。仲間だし。教えてくれると言うなら喜んで」
「じゃあ、知ってみるか? 一番、手っ取り早い方法で」
 ────冗談めいた、馬鹿話の延長。
 これも又、冗談だ、そんな顔をして。
 不意にセッツァーは身を動かし、隣で膝抱えていたエドガーを、押し倒してみせた。
「………………君、お酒か何か、隠し持ってる?」
 いきなり、そんな暴挙を働かれ、目を丸くしながらも、至極冷静にエドガーは口を開く。
「いいや?」
 だからセッツァーも、至極淡々と言葉を返して。
「……ふーん。酔っ払ってる訳じゃないんだ。……じゃ、質の悪い冗談?」
「さあ。どうだろうな」
「………………本気?」
「……さあ?」
「……あのねえ、セッツァー」
「何だ。俺としては、そろそろ黙って欲しいんだが」
「そういうこと言える立場じゃないだろう? 判ってないね。──どういうつもりで、こんなこと仕出かしてるのか、私には判らないけれど。止める気がないなら、覚悟を決めた方がいいよ? 後になって、あの時のことは一夜のあやまちだった、なんて言ったら、命ないよ?」
「……お前、結構良い度胸だな。……安心しろ。後になってお前が、あれは一夜のあやまちでした、御免なさい、と泣き入れて来ても、俺は聞く耳持たねえから」
「…………どうだか」
「……俺のこと、良く知らねえんだろ? 伊達や酔狂でお前押し倒す程、俺も馬鹿じゃねえって、教えてやるよ。……朝になったら、一夜のあやまちで済ませた方が良かったって、後悔するかもな、お前の方が」
「…………処で、セッツァー」
「何だよ。色気のねえ、うるせえ口だな」
「こんな森の中で二人して、こんなことに耽って。獣に喰われたら、どうしようか」
「……それまでの運だった、ってことだろ、俺も、お前も」
「…………色気がないのは、どっち?」
「お前。…………だから。もういい加減、黙れ」
 ──茶飲み話か何かのように。
 今日までの『何も彼も』を塗り替える出来事の始まりを、そんな風に受け止め合って、セッツァーとエドガーの二人は。
 流れる時さえも緩やかな、夜の闇満ちる深い森の中で、『一夜のあやまち』であって、『一夜のあやまち』でない情事に、耽り始めた。

 

End

 

 

 

後書きに代えて

 

 双方、『遊び人』風にしてみたら。
 ……まー、あっけらかんとしてること、このお二人さん……。
 あっけらかんとし過ぎてて、色気も何もない(笑)。
 ──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。

 

   

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