〜なんかエロい10のお題〜 05.二人きりの密室
人間様よりも、機械の塊でしかない飛空艇の方をより愛しているだろう? と言いたくなる程いそいそとした風情を見せて、セッツァーが、飛空艇ファルコンの機関室の扉を潜る度、セッツァーよりも尚、人間様より機械の塊の方を愛している、との己が評判を『上手く』利用して、エドガーは何時も、その後を追う。
そうすれば仲間達は、何時だって、
「ああ、やっぱりあの二人は、生き物よりも機械の方がいいんだ」
と、正しいけれど正しくない納得を見せて、自分達を放っておいてくれると、知っているから。
──セッツァーが、ファルコンの機関室に閉じ篭るのは、本当に機械達の機嫌を取る為にであることもあるし、そうでないこともある。
でも、そんなセッツァーの後をエドガーが追い掛けるのは、大抵の場合、飛空艇の持ち主に便乗して、物言わぬ部品達と戯れたいからではなく。
お世辞にも、恵まれているとは言えない居住空間しか有さない、狭い飛空艇の中で、仲間達の目を気にせず、セッツァー……──恋人と、二人きりになれるからだ。
無骨な機械に埋め尽くされたその部屋には、ロマンティックな雰囲気の欠片もないし、休むことなく働く機械達が立てる騒音が、かなり耳障りだけれど。
それでも、誰にも邪魔されず、自分達だけのひと時が持てる、という、最大の利点が機関室にはある。
だから、用があろうとなかろうと、エドガーは恋人の後を追い掛け、セッツァーが、どんな目的でその部屋に向ったか否かもお構いなしに、『悪戯』を仕掛ける。
作業を始めようとしているのか、それともそうではないのか、広くもない、騒音に満たされた部屋の直中に立って、取り敢えずは辺りを見回す彼の背後に忍び寄り、背を流れる長い銀髪を引っ掴んで、無理矢理にでも振り向かせ。
問わずとも判っているくせに、何時も何時も律儀に、「何だ?」と、渋い顔をしつつ見遣ってくるセッツァーへ、ほんの少しばかりの背伸びをして、エドガーはキスを仕掛ける。
…………そうしてやれば。
「ホントに、お前は…………」
心底呆れ返った風になって、心底呆れ返った溜息を洩らしながらも、必ず、誘惑に負けた素振りを作ってセッツァーは。
己の前では、エドガーという名の、常に愛情を注がれていないと臍を曲げる、我が儘で、傍若無人なお猫様でしかない恋人の相手を勤め始める。
内心のみでほんの僅か、我が儘で、傍若無人なお猫様は、どうにもこうにも世話が焼けると、そう思うことも彼にはあるけれど。
お猫様はこれまで、注がれる愛情を無条件に信じるのは危な過ぎる世界で生きてきていて、何も考えず、何の計算もせずに受け止められる、無条件の愛情に、恐ろしい程飢えていると、彼は知っているので。
もっともっと、手放しで甘えられる愛情を頂戴と、全身で訴えてくるお猫様を、満足してくれるまで、彼は構う。
キスだけを交わし、抱き締め合うのみで、時を過ごすこともあるし。
耳を裂く、騒音ですら掻き消せない嬌声を上げさせるやり方の時もあるけれど。
何れにせよ、エドガーという名のお猫様が満足するまで、彼は。
──叶うなら、こんな、ロマンティックの欠片もない、騒音だらけの場所ではなくて。
色恋を語り、愛情を注ぐに相応しい場所でと、そう思いながらも。
今はこれが精一杯の、二人きりの密室で。
End
後書きに代えて
うむ。やっぱり色気はない(笑)。
ははははは…………(乾笑)。
……なんちゅーか、この話、一寸ふらついてる話だなあ……。
──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。