〜なんかエロい10のお題〜 06.キスから始めて
握り締めたその剣の、柄からも、刀身からも、到底、血とは言い難い色した『血』が、帯のように、筋のように、滴っていた。
セッツァーの握る剣も、エドガーの握る剣も、そうだった。
この場所に辿り着くまでに彼等が討ち滅ぼした数多の魔物達の、余り気持ちが良いとは言えぬ色の体液で、彼等の武器も、コートも、マントも、手元や頬も、染まってしまっていた。
──瓦礫の塔。
誰からともなくそう呼び出した、その名の通り、瓦礫でのみ築かれたこの塔に、『これが最後』と足踏み入れて、どれ程の時が過ぎたのか。
もう、セッツァーにも、エドガーにも、それを計ることは出来ない。
只、今の自分達の有り様、疲れ果て、鉛のように重たくなった体、それらが、相応の時間が過ぎたことだけは教えてくれるけれど。
一晩が過ぎたのか、二晩が過ぎたのか、それとも、数時間も経っていないのか。
彼等にはもう、判らなくなっていた。
…………でも。
行く手を塞ぐ、魔物達との戦いを繰り返し、酷い有り様を晒しながら、疲れ果て、鉛のように重たくなった体を引きずって、足を進めた甲斐はあり。
彼等は今、仲間達と共に、彼等や仲間達が真実討ち滅ぼすべき相手、ケフカへと続く、最後の扉の前に立っている。
……そう、彼等はやっと、その扉の前まで辿り着いた。
瓦礫の塔に足踏み入れて、その扉の前に立つまでの道程は、遠く険しかったけれど。
冒険の旅を始めてから今日(こんにち)までの道程に比べれば、未だ、楽であったと言える。
最後に潜るべき扉は、もう眼前にあって。
この先に進めば、討ち滅ぼすべき敵との対峙が叶い。
長く険しかった、冒険の旅も終わるのだ。
だから、晒している、今の酷い有り様も、疲れ果てた体も。
これで最後、これが最後、そう思えば、幸せ、とさえ言える、取るに足らないものだった。
「…………行こうか」
故に。
その扉の前に集った、彼等や彼等の仲間達は、休むこともせず。
これで最後、これが最後、そんなことを思わせる、その扉を次々に潜った。
…………そう、これで最後。
これが最後。
この、最後の扉を潜って。
その先へと進み。
倒すべき敵を討ち滅ぼせば、何も彼もが終わる。
この、長かった冒険の旅も。
それでも楽しかった、冒険の日々も。
全てが、終わる。
全てが確かに終(つい)えた時、この世界に立ち尽くしてるのが果たして、自分達なのか、それともケフカなのか、それは、判らないけれど。
「……エドガー」
──全てが確かに終(つい)えた時。
この世界に立ち尽くしているのは……と、そうは思いながらも。
扉を次々潜って行く仲間達の背を見送りながら、セッツァーは、エドガーを呼んだ。
「何? セッツァー」
呼ばれた彼も又。
己が名を呼んだ銀髪の彼と、等しい想いを乗せた眼差しをして、応えた。
そうして彼等はどちらからともなく、酷い有り様を晒している身を寄せ合い、無言の内に、接吻(くちづけ)を交わした。
「…………続きは、後でな」
「……このキスの続きを、するつもり、あるんだ?」
「当たり前だろう? キスだけで満足出来るような、可愛いお子様か? お前や俺が」
「それもそうだね。接吻をしたならば、最後まで。……うん、その方が、楽しい」
乾き切った唇同士を、軽く触れ合わせて。
触れ合わせたそこを、呆気なく離して。
セッツァーはエドガーの紺碧の瞳を、エドガーはセッツァーの紫紺の瞳を、それぞれ覗き込みながら、彼等は始めたキスの続きを、この戦いの後に、との約束を交わした。
──これで最後、これが最後、その扉を潜って。
全てが確かに終(つい)えた時、この世界に立ち尽くしているのは、自分達だから。
End
後書きに代えて
…………これでは、『キスから始めて』、ではなく、『キスを始めたら』ではないのか? 自分。
お題と中味、ずれてないか……?(遠い目)
──ラストバトル前に、ってシチュエーションは、割と好きなので、このパターンは、初書きではないような憶えがありますが……。
挙げ句、やっぱし色気はないですが……。
ま、まあ、いいか……。
…………この、色気よりもバトル、なMy思考、何かとならんかな。
──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。