〜なんかエロい10のお題〜 07.無理矢理
耐えかねたように、酷く立腹した顔で、がたりと椅子を鳴らして立ち上がり。
「もう、我慢出来ないっっ!!」
エドガーは身を乗り出して、セッツァーに訴えた。
「………………判ったから、落ち着け」
希有な程に長く、そしてきつい堪忍袋の緒を、いい加減緩めざるを得なかったのだろうエドガーの剣幕に、内心で仰け反りながらも、セッツァーはエドガーを宥めてみた。
無駄だろうな、とは思ったけれど。
一応の抵抗をしてみよう、そう思って、セッツァーは、『努力』だけはした。
「だってっっ。私には心に誓った人がいるから、何処の誰との縁談を持ち込まれても、絶対に首を縦には振らないと言い続けて来たのにっ! そりゃ……、そりゃね、私が心に誓った人は、同じ男の君だ、なんて言ったら、誰にも顔を顰められるかも知れないけどっっ。お前はフィガロの国王だって、そう言われればそれまでだけどっ。私にだって、自分の思う人と好き合うくらいの権利はあるっっ。──もー嫌だ、もー御免だ、これ以上、国の為だけに犠牲を払うなんて冗談じゃない。何も彼も、放棄してやるっっ。家出してでも、無理矢理にでも、それくらいの自由、認めさせてやるーーーっ!」
だが、セッツァーの、慰めという努力も虚しく、エドガーの剣幕は、益々激しさを増し。
「家出、ってお前……。それが仮にも、一国の王の言うことか?」
「子供じみていようが何だろうが、それくらいのことしなきゃ、あの頑固ジジイ共には堪えないっっ! それともセッツァー、何かい? 君は、あの喰えないタヌキみたいな頑固ジジイ共に、私との中を無理矢理裂かれても、黙って涙を飲むとでもっっ? 私が政略結婚の道具に使われても、黙って見ているだけだとでもっっ?」
「……そんなことは言ってねえだろうが」
「じゃあ、その態度は何だと? ……ああ、そう、そうか。よーーーー……く判った、所詮、私に対する君の愛情は、その程度でしかなかったんだ」
ぎゃあぎゃあと、彼は、セッツァーが耳を塞いでしまいたくなる程の大声で、誠に飛躍し過ぎた理論を吹っ掛け始めた。
「エドガー……。お前なー、俺に、どうしろってんだよ」
「別に、どうもしなくていい。もう私は、我慢の限界なんだ。こうなったら、どんな手を使ってでも、例え、無理矢理にでもっ! あの頑固ジジイ共に、私と君の仲を認めさせてみせるからっっ!」
そうしてエドガーは、ガンっ! と力一杯テーブルを叩き、力強く、激しく間違った決意を固めたこと示す、握り拳を作る。
「……判った、判った、好きにしろ……」
こんな馬鹿げた話に、真面目に付き合っていられるかと、セッツァーは、誠、気の無い返事をした。
──どうせ、溜まりに溜った苛立ちを爆発させて、自分でも何を言っているのかよく判らないことを、勢いに任せて喋っているだけなのだ、好きなだけ喚かせてやれば、その内落ち着くだろうと、そう踏んで。
……でも、怒り大爆発中の恋人のこの剣幕が収まらず、曰くの家出とやらを本当に実行し、秘めるしかない自分達の関係が、成り行きに任せて暴露され、結果、どうやって収めたらいいのか判らぬ修羅場が、己の身に降り掛かってくることがあったら。
その時は、エドガーに望まれるまま、甘んじて、その修羅場の中を泳いでみるかと、ぼんやり彼は、考えた。
そうなった時は。
深窓の国王陛下を無理矢理に連れ去る悪しき獣に、己がなればいい、そう思って。
End
後書きに代えて
無理矢理、とのお題から、最初に想像したのは、まあ……、うん、Not合意な、えろっちいシーンのお話でしたが(笑)。
軽いノリに走ってみた。
お題を裏切ってみるのも、又一興かと思いまして。
悪い裏切り方のような気もしますけけどね(笑)。
──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。