〜なんかエロい10のお題〜

08.屋外

 

 

 どうしようもなく気怠い体を捩って、酷く重たい瞼を何とかこじ開けて、寝台の片隅へとノソノソ這い、寝所の窓を覆う、厚いカーテンの向こう側に瞳を凝らしたら、今日もいい天気だ、とエドガーには判った。
 布地の隙間越しに射し込む光の角度から、思っていたよりも長い時間眠り込んでしまって、もう間もなく、午前と言うよりは、昼、と言った方が相応しい時間になることも、彼は悟った。
 だから、やはりノソノソ、体を丸めたまま右手だけを動かし、身を覆っていた薄くて白い布地を巻き付けた彼は、はしたないよなあ、と思いながらも。
 これっぽっちの遠慮も見せず、巻き付けた布地の端からすらりと伸びた、白い足を振り上げて。
 ガッ……と、己と共に、同じ寝台にて眠り込んでいた男──セッツァーの腰目掛け、情け容赦なく、振り上げた足を、踵から落とした。
「…………頼むから、もう少し愛情の感じられる起こし方をしてくれ……」
 そうしてみれば、目を覚まさざるを得なかったのだろうセッツァーが、寝過ぎた、何処となく腫れぼったい瞼を薄く開き、文句を言い始めて。
「優しく、耳許で囁くようにしてみても、君が起きた試し、ないじゃないか」
 エドガーは、文句に文句を返して、身支度を整えるべく、腰を浮かせた。
 だが、片手で布を押さえながら彼が中腰になった途端、寝覚めの様子から、覚醒は未だ未だ先だろうとエドガーは踏んでいたセッツァーの腕が、思い掛けない速さで伸びて来て、彼はバランスを崩し、寝乱れたシーツの上に背中から落ちて、そのまま、セッツァーに抱き込まれた。
「どうせもう、こんな時間だ。それに、今日は誰も邪魔しには来ないんだろう? だったら……──」
「──だったら、何? 往生際悪く、未だ寝るつもり?」
「…………そうじゃなくて」
「…………………………。まさかと思うけど。君、未だ『頑張る』気かい……?」
「悪いか?」
「私はこんなに気怠いのに? こんなに腰が痛いのに? 労りとか、恥じらいとか、慎みとか、何処に置き去りにして来たんだい、君は」
「……踵落としで俺を起こせる、気合いも体力もあるだろうが」
「それとこれとは、話が別。……全く…………」
 緩く、けれど力強く自分を抱き込んで来た腕は、とてもとても誘惑に満ちていたけれど、誘惑に落ちた先にあるモノは、昨夜の延長と知って、エドガーは、キリっとセッツァーの腕を抓り上げ。
 これだって、幸せの一つだけれど、と、誘惑の腕をすり抜け寝台より降りて、伸びを、一つした。
「セッツァー。何処かへ出掛けようよ」
 強ばった体を解す為に伸ばした腕を下ろさず、そのままクローゼットの扉を開いて、適当に引っ掻き回し、適当に衣装を引きずり出し。
 彼は恋人に、誘いを掛ける。
「出掛ける? 何処へ」
「散歩」
「空の?」
「いいや。普通の散歩」
 取り出した衣装を一旦床へと落とし、セッツァーが夕べ脱ぎ散らかした服を拾って、投げ付けて。
 漸く覚悟を決めたように、嫌々ながらも支度を始めた恋人を振り返り、エドガーは、散歩、と言った。
「散歩ねえ……」
「そう、散歩。今日は、お天気が良いようだから」
 そして彼は、軽い音立て、寝所の窓辺を覆う、カーテンを開いた。


 厚い布越しに、垣間見た通り。
 その日は、晴天だった。
 ……尤も、エドガーの故郷、フィガロは、大抵の場合、晴天に恵まれる場所なのだけれど。
 その日の天気は、格別良い天気に思えて、空を行くでなく、地上を歩こうと、セッツァーを誘い、散歩を始めた彼は。
 怠そうに、欠伸を噛み殺しつつ歩くセッツァーの指先と、己が指先を絡めた。
「…………お手々繋いで、散歩か?」
 手と手を繋がれて、セッツァーは、互い、良い歳なのに、と、苦笑を浮かべたけれど。
「いいじゃないか、たまには」
 にっこりと笑んで、エドガーは、絡めた指先に、僅かの力を込めた。


 厚い布に覆われた、薄暗い寝所の中で、二人、愛を語らう幸せは、確かに幸せで、誘惑だけれど。
 格別と言える天気の良い日、日射しの下で、手と手だけを繋いで歩くのも、悪くない幸せ。

 

End

 

 

 

後書きに代えて

 

 ……御免、変化球過ぎた?(汗)
 ──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。

 

   

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