〜なんかエロい10のお題〜

09.風邪ひき

 

 

 冒険の旅の日々に身を浸していた頃覚えた術が、こんな所で役に立つとは思わなかったと、少しばかり焦りながら、エドガーは飛空艇ファルコンを操り、最も近い街の郊外に艇を下ろした。
 些か乱暴に下ろされた際の振動が、未だ収まらぬ内に彼は、甲板より駆け出しキャビンへ飛び込み。
「直ぐに戻るからっ」
 と一声だけ掛けて、ファルコンを出て街へと走り、何とか見付けた町医者の看板を掲げる家から医師を無理矢理引き立てて、又、ファルコンへと戻って。
「セッツァーっ! お医者様連れて来たからっっ」
 息を切らしてけたたましく、エドガーは、艇長室の扉を開けた。


 その日、エドガーは、セッツァーと逢瀬をしていた。
 待ち合わせた時から、余り顔色が良くないな、とエドガーは思っていたのだけれど、顔色の悪い当人に、大丈夫だと言い張られたので、彼自身がそう言うならと、空の散歩に出掛けたものの。
 空を駆けている内に、セッツァーの顔色は益々悪くなって、とうとう、彼は倒れ込んでしまった。
 なので、エドガーは大慌てでファルコンを操り、街へと走り、医師を引き立てて来た。
 だが、医師の見立ては単なる風邪で、「大丈夫ですよ」の言葉と、施して貰った処置に、彼はホッと胸を撫で下ろした。
 だから、高い熱を出して、一人寝台に横たわるセッツァーの枕辺に腰下ろし、看病を始めたエドガーの面は、平素のそれだったが。
 濡らした冷たい布を取り替えつつ、汗ばんだ肌に張り付くセッツァーの長い銀髪を掻き上げる彼の瞳は、酷く曇っていた。
 そうしてやがて、甲斐甲斐しかった看護の手は止まり、酷く曇った紺碧の瞳からは、見る見る雫が溢れ、溢れたそれは、ぽたりと、セッツァーを覆う掛け布の上に落ちた。
「セッツァー……。君がいなくなったら私は、生きていけないのだから…………」
 薄い呻きを上げて、苦しそうに眠る恋人を見遣り、泣き濡れ始めた彼は、決して届きはしないだろう声を、小さく洩らす。
「脅かさないでくれ……。君にこんな姿を見せられると、君がいなくなった後の世界に、私は一人残されるのかって、途方に暮れるじゃないか…………」
「たかが風邪だろう……? 大袈裟な奴だな…………」
 と、届く筈ない呟きに、咳混じりの掠れ声が重なり。
「……セッツァー?」
「どうってことない……。直ぐに治る」
 ゆっくり、気怠そうに持ち上がったセッツァーの手が、濡れた瞳を見開いたまま、聞かれた、と酷く狼狽えた表情になったエドガーの手に重なった。
「お前を置いては、何処にも行かないから。安心しろ……」
 そうして彼は、熱の籠った熱い手に、僅かな力を込めて。
「……うん。判ったから、眠って…………」
 たったそれだけのことで、酷く疲れたように、肩で息をし始めた彼の手を、エドガーは、強く握り返した。

 

End

 

 

 

後書きに代えて

 

 ストレート過ぎたかなあ…………。
 エドガー寝込ませた方が楽しいかな、とも思ったんだけど。
 セッツァー寝込んだ方が、エドガーには堪えると思って(あっ)。
 ──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。

 

   

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