それが、本意であれ、不本意であれ。
 フィガロという国の王、エドガー・ロニ・フィガロ、という名を持つ私の世間一般的な見方の一つに、『女性との浮き名を流して止まない』、というそれがあるのを、私だって知っている。
 己の行いを振り返った時、そう言った風評が立っても不思議ではないだけのことをして来た、程度の自覚は、私にもある。
 恐らくは、数多、と例えても差し支えない数の女性達と浮き名を流すこととなった間には、良かったことも起こったし、悪かったことも起こった。
 私『が』女性達に手酷い目に遭わされたこともあるし、女性達を、私が手酷い目に遭わせたこともある。
 国王、などという商売に、十年以上も従事して来ているから、幾ら私が、王族、というものに生まれついてしまったが為、市井の本当の現実を知らなかろうとも、全くの世間知らずという訳でもなく、寧ろ、極普通に、平凡な幸せの中で暮らす限りは、お目に掛かることすらない、『汚い』世界、『汚い』事情、そういった分野には、長け過ぎる程に長けている。
 故に。
 色事の上でも、普通に生きていれば知らずとも良い、『この世の本当の事情』という奴の上でも、私は決して、何も知らない幼子に等しい訳ではない。
 …………けれど。
 さも、己の目の前にいる生き物は、訳の判らない、不可思議な生き物、というような顔をして、侮蔑するように嗤って。
 作られたばかりの、真新しい、石の墓前で、そうするのが当たり前…………という暴挙を為すような男が、この世にいるとは思ってもいなかったし、自分がその暴挙を受ける側になるなどと、思ったこともなかった。
 ──けれども、彼………──友であり、仲間であると信じていた……そう、確かに私はその時まで、そう信じていた彼、セッツァー・ギャビアーニは。
 私には、想像すらなし得なかった暴挙に、呆気無く及べる男だったらしく。
 あの日。
 今にも冷たい雨が降り出しそうな、暗く、どんよりとした重たい空の下。
 強い訳ではないけれど、余り穏やかとは言えぬ『そよ風』に揺れる、緑の草の上に、私を組み敷き。
 私が何を言おうが、聴く耳一つ持たず、どんなに抵抗も、あっさりとはね除け。
 葬られたばかりの死者が眠るそこで、衣装も、屈辱から逃れる為の凶器も奪い、思うまま、乱暴に、好き勝手に………………言葉で例えるならば、貪るように。
 ………………彼は……私を、犯した。
 私の躰を、思うように、好き勝手に、酷く乱暴なやり方で以て、物のように扱い。
 彼は、私を犯した。

 

 

 

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