ギャンブラー、というそれを、生業として生きる人種も。
 決して根っからの、愚か者な訳じゃない。
 唯、馬鹿みたいに、スリルと、勝利から得られる恍惚と、『僅かの金品』のみを求めて、カジノに入り浸る訳じゃない。
 そんなことを繰り返していたら、あっという間に己の首が締まる。
 そうして静かに、野垂れ死にの運命を辿るのがオチだ。
 多分、大抵の人間が、ともすれば忘れてしまいがちなことなんだろう。
 ギャンブラーという人種は、『何も知らない』相手の、身ぐるみを剥がして歩くのが、商売なのだ、と。
 その為になら、如何なる手段も厭わないのだ、ということを。
 ──だから。
 常勝無敗、と謳われた俺の手の中にも、たった一つしかない、命、という名のチップを張った勝負から、少なくとも、勝負に乗るのは無謀ではない、と判断した『勝ち目』が失われて行くのを、俺は許せなかった。
 ────この世界から、何が失われようとも。
 そんなこと、俺の知ったこっちゃない。
 何が正義で何が悪か、そんなこと、俺に関わり合いはない。
 俺は、唯。
 セッツァー・ギャビアーニ、という名を持って。
 ギャンブラー、という肩書きと、飛空艇乗り、という肩書きの二つを背負い、己の思うがまま、生きていければそれで良かったし。
 今でも、それさえ叶うなら、何がどうなろうと、どうだっていい。
 ガストラ帝国が世界を支配しようが、リターナーがレジスタンスを成功させようが、俺が俺として生きる世界があるなら、俺はそれで構わなかった。
 ……なら、そんな風に考えるお前が、何故、冒険の旅とやらをさすらう連中に与したのだ、と言う奴らもいるんだろうが。
 仲間、ではあるあいつらが、俺に語って聞かせた『事情』は、決して、不利なだけのそれではなかったし。
 そこに、『勝ち目』はあるだろう、と計算も出来た。
 何より。
 どうせ、好きなように生きるなら、より、好き勝手に生きられる世界を求めるのが、人情ってもんだ。
 ギャンブラーという生き物は、決して、それのみで生きている訳じゃねえが。
 スリルと、勝利から得られる恍惚と、『僅かの金品』を求めて、カジノに入り浸るというのも、又、真実だから。
 ────そう。
 俺が、俺の翼であるブラックジャックにあいつらを乗せてまで、帝国相手の大勝負に出たのは、それだけの理由だった。
 俺の求めるモノを、俺の手で掴んだ、という『充足感』も得れらそうで。
 だから、正直な処、こんなことになるなんてのは、予想外ではあった。
 そもそも、好きなように生きられればそれでいい、という立場を、物心付いてからずっと貫き通して来た俺が、他人の生き方云々に、反吐が出そうになる程の苛立ちを覚えることが、予想外ではあったんだ。
 ……好きなように生きること、それは、『輪』の中で生きて行くよりも遥かに、他人との折り目を迎える機会の増える生き方だ。
 好きに生きる、という俺の人生の中に立ち入っても来られない連中との折り目など、一々過ごすのは、結構鬱陶しいから。
 ならいっそ、鬱陶しい物など端から避けて通ればいい、との思いに辿り着くのは、俺の中では、至極真っ当な理屈だ。
 ………………なのに。
 にも関わらず
 あの、ベクタで会食会が行われた夜。
 視線と視線がぶつかった瞬間、互い、誰にも悟られぬよう、密かに微笑み合ったエドガーと、レオ・クリストフ、という将軍の姿を見た時、何がどうしてどうなったのか、俺自身にもさっぱり判らないが……ああ、この二人の間には、個人的な何かがあったんだな……と悟ることが叶って。
 それとなく、二人を見続けていたら、もしかして、エドガーと、帝国の将軍は……と、そんな疑惑に思い満たされ。
 何処となく、それが。
 気に入らないと言うか…………。
 …………そうだな。
 結局の処、気に入らなくて。

 

 

 

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