────俺は。
 あの時、サマサの村で、俺は。
 本当は一体、何をしたかったのだろう。
 俺は本当は。
 一体何に、苛立ちを感じていたのだろう。
 その、明確な答えは今でも、俺には見えて来ない。
 ……だが……俺はひょっとしたらあの時、エドガーという存在に、嫉妬を覚えていたのかもな、と。
 そんな風に、あれから月日が経った今は、感じることもある。
 俺が、かつては持っていた、ダリルという存在に近しい、レオという存在を、俺がダリルを失ったように、あいつも失ったとは言え、『昨日』までは確かに、掴んでいた、という事実に、嫉妬したのかも知れないし。
 ダリルを失なくしたあの頃には、『未だ』、俺が持ち得ていた『何か』を、エドガーが持っていた、という事実に、嫉妬したのかも知れない。
 …………どれが本当の理由なのか、今となってはもう、判らない。
 ──が、唯一つ、あれから刻が過ぎた今でも、言えることは。
 俺が、如何なる想いに駆られて、あの所業を成したにせよ。
 俺という男が、どれ程の碌でなしで、どれ程の人非人だったとしても。
 あの時、侮蔑や軽蔑を込めてエドガーに言ってやった、前に進む為の、無理矢理にでも生きて行く為の、『何か』を与えてやる、というそれは、かろうじて叶った、ということだけだ。
 結果としてそれが、良かったのか、悪かったのか、それも俺には判らないが。
 『勝ち目』のない勝負をする、馬鹿なギャンブラーなどこの世にはいない。勝負から、『勝ち目』を逃さない為なら、如何なる手段も厭わない……という、俺の『思惑』に乗って、あいつは俺に想いを傾け始めた。
 憎しみや、恨み辛み、というそれを、あからさまに注がれることは、俺にとっても気分の良い話じゃないが。
 一応は、そんなことを言えた義理ではない立場に、俺はあるのだろうし、憎まれようが、恨まれようが、俺の知ったこっちゃねえし。
 何よりも俺は、不利なだけの勝負に、当たり前のように負けて、犬死になんざするつもりは、更々なかったから。
 ……多分、まあ……良かったこと、ではあったんだろう。
 ──犬死にと、野垂れ死には、明らかに別物だ。
 『スリル』というモノの先で待ち構えていたモノの為に、命を落とすのを、躊躇いはしないが。
 スリルなんてモノはそもそも、勝つかも知れない、負けるかも知れない、そのギリギリの一線上に存在するもので、どう足掻こうが、運命の先に待っているモノは『死』という場所に、スリルなんざない。
 例え、エドガーや、エドガーが後生大事に抱えていた『何か』や、そんなエドガーに、かつての自身の幻影を重ねたかも知れないことが、『全て』の発端だったとしても、犬死と野垂れ死には別物であり、スリルは『スリル』であるからこそ、スリル、という俺の理屈が揺らぐことはないから、そう言った意味では確かに、エドガーが何とかでも歩き出したことは、喜ばしいこと……だったんだろう。

 …………ああ、俺は。
 俺は、歩き出したエドガーを横目で眺め。
 世界が崩壊したあの頃、確かにそう思っていた。
 何時か、『何も彼も』が、『なかったこと』のように。
 刻の彼方へと、消えて行くのだろう、とも。

 

 

 

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