『色』が変わったのは。
それから、一年程が過ぎた頃だった。
世界は壊れ、全てが一変し、生涯背負い続ける筈だった、『翼』を失い。
俺は今まで一体、何をやって来たのだろう……と。
らしくもなく、打ち拉がれていたあの頃。
再会したセリスやマッシュが、口々に語ったように、こんな世界だからこそ見なければならない夢など、どうでもよく。
世界を救う夢を見なければ、との御託なんざ、興味も持てず。
俺が失ったのは夢ではなくて、俺そのものだった……と内心では思いながらも。
『捨て切れなかった』からこそ離れられなかった、コーリンゲンの外れの、ダリルの墓へと向かう理由が、これで出来るかも……と、セリス達の言うことに、納得し、立ち直った振りを、俺はしたけれど。
夢や未来、と言った言葉一つで、最後に俺は、『自身』を失ったのかも知れない、という想いが、早々簡単に消える筈もないから。
あの時の俺は何処までも、弱気なまま、在った。
──そんな訳だから。
コーリンゲンの村の片隅で飲んだくれていたあの時には、気付きもしなかった──尤も、後になって知ることになった──が。
どうして、弱気になっていた俺に、あいつ曰くの『蛮行』に及んだ理由を聴かせろとエドガーが詰め寄って来たのか、知る由もないまま、投げやりに、『犬死に』するつもりはない、という俺の理屈──それを言えば、満足するだろうと思ったから──を語ってやって。
暫し、時が流れた後。
自分達の本当の関係を、仲間達の前で明らかにしてしまおう、と。
綺麗に微笑みながら言ったエドガーに、接吻くちづけをされ。
自分達は実は、一年も前から恋人同士だったのだ、と鮮やかにあいつが言ってのけた瞬間。
俺は、何も彼もが、静かに、刻の彼方へと消え去って行くのだろう、そんな自分の考えが、どれだけ甘いそれだったかを、コーリンゲンの村の酒場で、エドガーと再会した刹那より、密かに思い知らされ続けていたのだ、と悟った。
…………徹底的に。
それを、悟らされた。
正直な感想を、先に告げてもいいなら。
これだけは、間違いなく、言える。
仲間達の前で、『恋人同士』という茶番を打って、キスまでしてみせたあいつの理屈を聞かされ。
…………そう来るか、と。
そう思った。
『結構』な意趣返しをひねり出したもんだ、と。
俺という男も大概碌でなしだが、あいつも、俺に勝るとも劣らない碌でなしだ、と。
俺は、そう思った。
肉を斬らせて骨を断つつもりか、と。
その為に、自分自身を俺の鼻先にぶら下げもするのか、と。
何処か、愉快な心地にさえなった。
そうして、俺は。
覚えた、その愉快な心地の勢いを借りて、お前にその覚悟があるんなら、恋人同士らしいことでもしよう、と、あいつを『苦しめ続ける』遊びも覚えた。
何処までそんな風に、意地を張り通していられるか、見てやろう、とも思って。
所詮は『愉しい遊び』の一つでしか、ないと思って。
………………さて。
エドガーの奴と、『恋人ごっこ』を始めて、一体、幾晩が過ぎたろう。
あれから、どれだけの時が流れたろう。
冒険の旅、と例えられるだろうそれに、身を投じている俺達の周りは、一瞬足りとも止まることなく、目まぐるしく移ろいだが……さて。
あれから、幾晩が過ぎだろう。
あれから、何度、俺は、あいつを抱いたんだったろうか。
俺達を取り囲む周りが、目まぐるしい変化を見せて行っても、そこに、『時の流れの実感が、伴ってはくれない程の星霜が、流れた訳ではないのに』。
あれから、幾晩が過ぎ。
あれから、何度、俺達が躰を重ねたのか。
俺は、思い出せない。
…………恋人の真似事を、俺とエドガーが始めたあの夜より、今日までを振り返っても、俺に判ることは少ない。
……覚えていることは。
思い出せることは。
…………唯。