冒険の旅の終わり。
眼下に映る瓦礫の塔へ、人々が、いざ乗り込もうとする段となっても。
仲間達は誰も、何一つとして疑うことなく、『傍迷惑』なやり方で、自分達は恋人同士だったのだ、と宣言してのけたエドガーの言い分を信じていた。
意趣返しの為にエドガーが始めたその茶番に、ずっとセッツァーが付き合っていたのだから、仲間達がそれを疑うことなくとも、致し方なかったのかも知れない。
だから、あれから、沢山の出来事が起こって、沢山の波瀾を乗り越えて、漸く、瓦礫の塔へと乗り込めるのだ、となっても、仲間達はセッツァーとエドガーの二人が、恋人同士であると信じていて。
茶番を『終わりに出来ない』二人も又、そうであれ、と振る舞っていた。
この。
子供が、無邪気に作り上げた墓のような。
そんな印象を与えて来る塔へ、飛空艇から飛び移り、いざ、乗り込むと言う段になっても。
長い旅を共にして来た仲間達は、男同士であるにも関わらず、恋人同士だという二人の関係を微塵も疑わずにいたから。
「一緒に行けば?」
……とか何とか……そんな風な、二人にしてみれば、『要らぬ気遣い』を注ぎ、セッツァーとエドガーの二人を『見捨て』、さっさと飛び下りてしまっていた。
「最後の最後まで、お前と共に、ってか。……ぞっとしねえな。これが終わればもう、全てが終わる、そんな時にまで、お前のツラ拝みながら行くたぁな」
──向こうで逢おう。
そんな台詞を残し、眼下目指して、ファルコンの甲板より身を踊らせた、仲間の背中を眺めながら。
ボソっと、セッツァーが言った。
「ぞっとしないと言うのには、私も同感だ。……ま、でも。これで最後なのだし。これが終わればもう、何も彼も、というのには間違いないのだから。これが最後の茶番だと思えば、どうと言う程のこともないだろう?」
気に喰わなさそうに、ぶつぶつと零し始めたセッツァーの声を聞き付け、エドガーも又、肩を竦め。
が、考え方を変えればいい、彼はそう言って、気楽な雰囲気を漂わせた。
「……ま、そうとも言うがな」
だから、それもそうか、とセッツァーは、エドガーに倣って肩を竦め。
片手を付いて、軽々手すりを乗り越えると、コートの裾を翻し、トン…………と身軽に、瓦礫の塔、そんな名の場所へ、飛び下りた。
「行くぞ、とか何とか、言えないのか、あの男は。愛想くらい振りまいても、罰は当たらないだろうに」
しなやかな生き物のように、『偽りの大地』に降り立った人の後を、エドガーも追う。
セッツァーが、塔へと乗り移った際に描いた軌道をなぞるように、彼がふわりと、そこに舞い降りれば、着地の瞬間、佇んでいた碌でなしから、優雅な態度で右手を差し出され。
「…………どういうつもりだ?」
訝しがりながらも、己へと伸ばされた指先に、自らの指をエドガーは重ねた。
「俺達は『未だ』、恋人同士なんだろう?」
エドガーが口にした問いに。
セッツァーは、にやりと笑って答え。
「言って欲しかったんなら、言ってやる。これが最後だからな。……行くぞ」
重なり合ったエドガーの手を強く掴むと、唯ひたすらに、奥だけを目指して走り始めた。