──『真神学園・旧校舎』 入口前
「多分、二百階コースでも『底』には辿り着けないだろうからー……。……氣の技じゃない分効き目が薄いってのは気になるけど、皆守君の《力》は、ここの異形にも通用するって判ってるからいいとして。葉佩君……。……うーん、『普通の銃』で、異形って倒せるのかなあ……?」
「ああ、大丈夫ですよ、龍麻さん。異形には銃が通用しなかったとしたって、俺、荒魂剣と和魂剣、引っ担いで来ましたから。心配ご無用でっす! あれは秘宝ですから、異形にも効く筈ですよ。銃みたいに遠距離で戦えないのが、俺的には一寸、ですけど」
「……そうだ、ひーちゃん。何ならよ、物は試しって奴で、九龍の持ってる弾に、氣、籠めてみようぜ。そうすりゃ、異形にも通用すんじゃねえの?」
「………………お、成程。京一、ナイス。うん、試してみる価値あるかも。駄目元だしね」
「応用の幅が広過ぎると言うか……、無茶苦茶だな、あんた達の『力』は」
「あっは。甲ちゃん、素直なご意見で。でも、無茶苦茶でもいいじゃん。お便利なんだからさ」
「……さっさとしねえか、餓鬼共」
「あ、はい。すみません、京梧さん。一寸だけ待って下さい」
「すいません、お待たせしてまーす。──えっと……。弾は、今、兄さん達に渡したので全部でー……。……うん! 風呂敷代わりになる麻布も、三、四枚はある。偉い、俺っ」
「九ちゃん? お前まさか、『拾い癖』発揮する気か?」
「当たり前じゃん、甲ちゃん。何言っちゃってんの。ここ、色々とお宝が拾えるんだしょ? だったら、拾って歩かなきゃ。『底』までの長旅に役立つ物とかあるかもだしさー。後で、換金出来るかもだしー」
「あーもー! とっととしねえか、ヒヨッコ共っ!!」
「……………………京梧さんってさ、京一よりも短気?」
「多分。これも、蓬莱寺の血って奴なのかもなー。……ん? 短気なのが蓬莱寺の血なら、おっとりなのは緋勇の血か? ひーちゃん?」
「俺に訊かないでくれよ……」
「……だから! 置いてくぞ、お前等っ!」
────直ぐそこの足許の鉄板を引き開ければ、何時でも異界に飛び込める、その縁に立って、五人は賑やかに、ぎゃんすか言い合いながら、『底』へと潜る為の準備を進め。
もうこれ以上待てない! と痺れを切らした京梧が一足先に、青年達や少年達はその後を慌てて追う形で。
黄昏時。
『異界への口』へ飛び込んだ。
──『旧校舎』 三〇階層
「うっへー…………」
「どうした? 九ちゃん。へばって来たか?」
「うん……。駄目元の、氣封じ込めて貰った弾がちゃんと異形にも効いてくれてるから、想像よりは楽だけど……。……もー、何なんだよ、ここー! 天香の遺跡よりもきついじゃんかっ。へんてこりんなの、うじゃうじゃ出るしー!」
「俺は、初めてここに叩き込まれた時に、四十階まで連れてかれた。一月からの三ヶ月、嫌って程、この中引き摺り回された」
「…………甲ちゃん、御愁傷様。……あー、でも、兄さん達の強さの理由の一端を垣間見たって言うかー。こんな所で年中『遊んで』たんなら、強いのも道理って奴だぁねえ……」
「葉佩君、ブツブツ言ってると、却って疲れるよ?」
「まー、いいじゃねえか、ひーちゃん。言わせといてやれよ。ブチブチ言えるだけの余裕が、未だあるってこった」
「ほう……。言うようになったじゃねぇか、馬鹿弟子。馬鹿弟子のくせに。昔のお前だったら、真っ先にブツブツ零してただろうによ」
「うるせーなっ! 何年前の話してんだ、馬鹿シショーっ!」
「そうさなぁ……。……彼此、十五年は昔の話だな。未だてめぇが、風呂ん中で俺に大人しく頭洗われてた頃だから……──」
「──だからっ! そんな大昔の話を持ち出すんじゃねえよっっ」
「うわっ。京一にもそんな頃があったんだ! 信じられない!」
「ひーちゃん! 今の話は忘れろ、頼むからっ!」
「…………本当に、元気な連中だな。体力馬鹿共め……」
「……うん。…………甲ちゃん、俺、頑張るよ。ここにいたら、兄さん達や京梧さんみたいな、体力の塊になれる気がして来た」
────『底』を目指しての、『道中』序盤戦。
初めて旧校舎に足踏み入れた九龍だけは若干の疲れを見せ始めていたが、未だ、皆、余裕があった。
大刀を振り、拳や脚を繰り出し、銃を構えながら、ああでもないの、こうでもないの、賑やかに言葉を交わせていた。
──『旧校舎』 一八〇階層
「葉佩君、大丈夫?」
「何……とか……。うっひゃー……。未だ、半分過ぎたばっかなんですよね……? 何処の拷問部屋ですか? ここ……」
「甲太郎、お前は? 平気か?」
「俺は、未だ。この辺りまでなら、あんた達に何度か引き摺って来られたからな」
「引き返すんなら、今の内だぞ、餓鬼共」
「じょーだんきついですよ、京梧さん。後半分乗り切れば『底』ですしっ! ──そりゃそーと。ここって、本当に階層状になってるんですかね? それとも、見掛けだかなのかなー……」
「さー、真相はどうだか。何階、って呼び方も、便宜上みたいなものだしなあ……。それに俺達、そんなこと考えたこともないし。ねえ? 京一?」
「ああ。コーコー三年の終わりまでは、単なる修行場、としか思ってなかったしな。龍命の塔が、っての知ってからも深くは考えなかったし。シショーなら知ってんじゃねえの?」
「ふむ……。真相は、どうなんです? 京梧さん」
「俺が知る訳ねぇだろ。俺やひーちゃ──龍斗達が初めて潜った頃から、ここはこんなだ。『底』まで行きゃあ、黄泉まで続いてるって噂の『路』になるがよ」
「この世の理から外れた場所のことを検証しても、意味は無いぞ、九ちゃん」
「確かに……」
「それよりも、餓鬼共。そろそろ口閉じろ。でねぇと、本気でへばるぞ」
────ひたすらに潜り続けて、『底』を目指し続けて、もう間もなく、二百階、の声を聞く、と相成っても。
未だ、そこそこには誰もに余裕があった。
無駄口を叩く元気もあった。
尤も、九龍はいい加減、口先を滑らせていないと疲れが誤摩化せない、と言った様子だったし、甲太郎も、肩で息をする姿が目立って来ていたが、それでも、この辺りまでは未だ、皆、顔付きにゆとりがあって。
………………でも。