日付けが、一月二日に変わって少々が経った時。

甲太郎と九龍の二人は、共に、生まれたままの姿でベッドに横たわっていた。

色気も何も無いシチュエーションでキスを交わした後、結局、そのまま彼等は『事』に傾れ込んだ。

出逢ったあの日から過ごした約三ヶ月間、ドタバタと過ごして来た毎日のように、ドタバタと過ごし、些細ではあったけれど喧嘩もした二〇〇五年の元旦──九龍の『仮』の誕生日の終わりを、丸く治める風に。

………………否、その一日を、幸せと共に終えるように。

「んーーーー………………」

────実際に、その一日の終わりを迎えた彼等と、彼等自身に『幸せ』を齎した『事』が終わった後。

微かに熱の名残りを留める、ほんの少しばかり疲れた顔をしながら、九龍は、狭苦しい、シングルサイズのベッドの上で寝返りを打った。

「……九龍」

ポリポリと頭を掻きながら、デロっとだらしなく体を捻る九龍のその様の何処にも色気は無いが、それは、傍目には、の話で、甲太郎の目には、少々艶っぽく映ったらしく。

半分程己に背を向けた九龍の腰に、甲太郎は伸ばした腕を絡ませ、己の方へと引き寄せた。

「うー……。甲ちゃん、もー勘弁して……」

自身に絡み付いた恋人の腕が、明確な意思を持っているのに気付き、ペイ、と蠢く指先を払い落としながら、九龍は辞退を申し入れる。

「そこまで励んだ憶えは無いが?」

「それでも。日付けも変わっちゃったしさー……。明日っつーか、今日っつーか、兎に角、二日の日は、皆や兄さん達と、初詣行く約束してるしさー……。だから、もう……寝ないと…………」

「随分、薄情なことを言うな、九ちゃん」

「……ハクジョーとか、そういうんじゃなくってさ…………。眠いし……。初詣、楽しみだし……、俺、初詣、初めて…………。……あー、もー駄目。マジ眠い…………」

「ったく…………。仕方無いな」

辞退の理由を並べ立てている間に、本格的な睡魔が九龍に訪れたようで、うつらうつらしつつ、酷く間延びした声で、彼は、第二ラウンドのお誘い辞退を続け、彼の辞退の理由の一つだった、初詣はお初、との一言に、甲太郎の方が折れた。

「うん……。お休み、甲ちゃん……」

八割方寝惚けた頭で、甲太郎が意を汲んでくれたことだけは理解し、九龍は、にへら……と笑って再び寝返りを打ち、抱き枕にすべく、傍らの彼に抱き付き。

「九ちゃん。お前の意思を尊重してやった、俺に対する仕打ちがこれか……?」

折角、堪えてやったのに、と、甲太郎は顰めっ面をした。

けれども、彼の苦情も苦い表情も、『抱き枕』に懐きながらムニャムニャ言い出した九龍には届かなくて、一つ、溜息を吐いた彼は、一転、苦笑を拵え、今から朝が来るまでは抱き枕の立場に甘んじる覚悟を決めると、腕の中の躰を抱き直した。

「甲ちゃ…………」

そうされて、躰が軽く揺れた所為だろうか、九龍は、落ちたばかりの眠りの淵から微かに戻り、薄くだけ瞼を抉じ開け、舌っ足らずに甲太郎を呼ぶ。

「ん?」

「おねだり通り、甲ちゃんに、歌、歌って貰えて、嬉しかったんだー……」

「…………そうかよ。そりゃ、良かったな」

「うん……。だかさらー、こーちゃーん……」

「……何だよ」

「子守唄ー…………」

「……………………お前、何処までねだり倒す気だ?」

「んー? ……とことん、な感じ…………? ……駄目…………?」

「……っとに、お前は………………」

すとん、と眠りに落ちる筈だったのを邪魔される格好になった所為か、九龍は子供返りしたかのように、子守唄を歌え、と我が儘を言い始め、そんな彼の駄々捏ねに、甲太郎は深い深い溜息を吐いたけれど。

ぶつぶつ文句を零しつつも、彼は、抱き竦めた九龍の背を、母親が赤ん坊にしてやる風に叩きながら、彼の耳朶に口許を寄せ、ご所望の子守唄を、呟くように歌ってやった。

……尤も、歌詞もメロディもきちんと覚えている子守唄など、甲太郎には皆無だったので、彼の歌うその歌は、激しくいい加減な、歌とも言えない歌だった。

それっぽい、が、珍妙な詩に、詩吟に聞こえる節が付いているような……、本当の幼子に聴かせたら、多分泣き出すだろう代物。

「えへー…………。……なー、こーちゃん……。来年、も…………────

けれども、そんな歌を耳許で聴かされたというのに、九龍は嬉しそうに、はにかむように笑んで、今度こそ眠った。

「………………お休み」

真実の眠りを得るや否や、ふご、と間の抜けた寝息を立て始めた彼に、就寝の言葉を落とし。

甲太郎は、第二ラウンドの『お預け』を喰らった時から身の内で燻っている熱を、何とか何処かに逃がしてしまおう、でなければ眠れそうにもない、と、少しばかり虚しい努力を始めた。

End

後書きに代えて

うちの九龍@記憶喪失で昔のこと覚えてません、の自己申告に基づく誕生日(1/1)に起こった馬鹿騒ぎ。

ロゼッタちゃんとハントくんを愛でてみたかったんです!(真っ向勝負な告白)

好きなの。大好きなの、ロゼッタちゃんとハントくん!

後は、うちの甲太郎が歌うことを嫌ってないって話&奴に歌を歌わせてみよう、ってことで書いてみたです。

本当は、この辺、本編の中に組み込みたかったんですが、どうしてもその余地が見付けられなかったので、こちらで。

やっと、本編の中で敷いたまま回収出来なかったこの部分の伏線、回収出来た(汗)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。