二人だけで潜った五階層分の『収穫』を、後日に如月骨董品店へ持ち込めば、タクシー代くらい余裕で出るからと、学園を出て直ぐ、気合いと根性で拾った流しのタクシーに乗り込み、桜ヶ丘へ急行し、院長の岩山たか子に、渋々ながらも二人は泣き付いた。

彼女の手早い診察の結果、京一は肋骨を二本、龍麻は鎖骨を、それぞれ単純骨折していると判明し、霊的治療を施しつつ、「ひょっとして、二人揃って『何か』に襲われでもしたのか?」と訊いてきた彼女に、彼等が、事情をかなり曖昧に誤摩化しつつ伝えれば。

「はあ?」

……と、たか子は先ず呆れ、直後、処置室を揺るがす程の大爆笑をし始めた。

「何で、そんなに笑いやがるんだよ、ババア……っ」

「俺達、そこまで笑われるようなことした覚えはないんですがー……」

何故、彼女がそうまで笑っているのか、京一にも龍麻にも理由が判らず、彼等はムスっと拗ねたような顔付きになったが。

「若いってな、いいことだねえ。ああ、愉快だ」

ひたすら、小山の如き体躯を揺らしつつ彼女は笑い続けて、「治療は終わったから、とっととお帰り」と、若い彼等を病院から追い出した。

「腹立つぜ、ババアめ……」

「何がそんなに可笑しかったのかなー。俺達、変なことしたかなー……」

ポイポイと、何かを捨てるように追い出された桜ヶ丘を後にし、午後十時近い頃合いの夜道を、とぼとぼ、二人は辿る。

「あーー、くそっ。結局、お前との決着付けられなかったぜ……」

「もう一寸だと思ったんだけどなあ……。やっぱり、あれって引き分けかなあ」

「引き分けかあ? 肋骨よりも鎖骨折られる方が、程度は重たくないか?」

「何言ってるんだよ。それ言うなら、一本よりも二本折られる方が、程度は重たいじゃん」

「俺が狙った場所の方が、急所に近い」

「そんなことない。俺の方が近い」

「いーや。俺の方が未だマシだ。だから、引き分けじゃなくって、六:四で俺だろ」

「よく言うよ。俺の方がマシだって。大体、歩合で言うなら、俺が六で京一が四じゃん」

「…………俺だって」

「…………だから、俺だってば」

「……龍麻。現実は、ちゃんと認めろ?」

「……京一こそ。寝惚けない方がいいよ」

「てめぇなーーーっ!」

「何だよ、そっちこそーーっ!」

────人気の少なくなった夜道を、肩並べて行きながら。

二人は、誠に低次元な言い争いを繰り広げ始めた。

「京一の、意地っ張りの天邪鬼ーーっ!」

「んだとぉっ!? そう言うお前は、頑固者の減らず口だろうがっ!」

後一歩で近所迷惑、な大声を張り上げて罵り合い。

二人揃って、

「お前なんか、親友じゃなくてライバルだっ!」

と、胸の中でのみ毒づき合ったが。

……それでも。

「……決着、きっちり付けるまでやろうぜ」

「勿論。言われなくったって、俺はそのつもり」

「吐いた唾、自分で飲むなよ」

「京一こそ。後で泣き見たって知らないからね」

「おーおー、よく言うぜ。……で、何時にする?」

「明日でいいんじゃ?」

「おっしゃ。そう来なくっちゃな。忘れんなよ? ──あーーー、そりゃそうとよ、龍麻。腹減らねえ?」

「あ、うん。減ってる。どうする? もう一回、王華行く?」

「それもいいけど……、面倒臭──

──あー、判った判った。じゃ、家で夕飯にしよう」

──それでも二人は、進める足の向く方向を変えようとはせず、並べた肩も離そうとせず。

やっぱり、こいつが一番の親友。

そう思い合いながら、夕飯のメニューを検討しつつ、仲良く夜道を辿った。

一番の親友が、一番の好敵手。

一番の好敵手が、一番の親友。

……それは、もしかしたら、とてもとても幸せなことかも知れない。

End

後書きに代えて

何処までもひたすらに、お二人さんの青春の一ページ、な話(笑)。

……若いわ(渋茶啜り)

──年中、ではなくとも、或る程度は、京一と龍麻、立ち合いをしてるんじゃないかな、とワタクシは想像する訳です。

高校時代も、中国行ってからも、日本に帰って来てからも。

年追う毎に、彼等も一応は『分別』ってのを付けるんでしょうが、こういうことに関しては、年々、悪化の一途を辿りそう(笑)。

でも、この人達が本気の立ち合いなんかしたら、傍迷惑以前でしょうね。何たって、黄龍様と剣聖殿の組み合わせ。

ちょい、「無敵?」なレベルに達した頃の京一と龍麻の立ち合いも、書いてみたい気もしますけどね。この話よりは、大人の立ち合いになるでしょうから、多分(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。