そんな彼女の顔を、たっ……ぷり一分近く眺めてから、徐に向き合い見詰め合い、何かから逃避する如く、京一と龍麻は、無い知恵を絞り始める。
「…………冗談きついぜ、裏密」
「……御免。一寸考えさせて…………。……ええと。『五人目』は絶対に裏密さん達がやるだろう、って話になって。実際、『五人目』はいて。…………でも。でも! 氣は確かに裏密さんや桜井さんや高見沢さんのもので……」
「読み違えた……なんてことは、有り得ねえよな……」
「うん。だって、読み取った氣が誰のものだったかって、俺と京一の間では一致してるじゃん。読み違えじゃないよ。けど、如月が、三人の誰も教室の真ん中から動かなかった、って証言してて」
「……あ、だけどよ。さっき、高見沢が、自分の『お友達』が出て来た訳じゃないのに、っつったじゃんよ。ってことは、『その類い』じゃねえってことだろ?」
「そっか。そうなるよね。……ん? だとすると、『五人目』って……?」
「それによ。どうして、ラストの周回で、本当だったら誰もいない筈のトコにお前は立ってたんだ? 何で、俺はお前の肩が叩けたんだ?」
「そんなこと、俺にだって判らないよ。俺は唯、ひたすら、『五人目』に肩叩かれたら進んで、醍醐の肩叩いて、ってやってただけなんだから」
「だよなぁ。俺だって、如月に肩叩かれたら進んで、『五人目』の……。……う。あんま、考えたくなくなって来た……」
「ねえ、京一。俺達、何か勘違いしてるとか、そういうオチない? ホントに、俺の肩叩く前に京一が立ってたのは、黒板の左横の角だった?」
「残念ながら、間違いはねえよ。お前こそ、何か勘違いしてねえ?」
「してない。って言うか、京一が勘違いしてないなら、俺が、一つ前の周回の時に、醍醐の肩叩いてからあそこまで引き返さない限り、そんなことにはならないじゃん」
まるで、お見合いでもしている風に、膝突き合わせて向き合って、額を触れ合わせんばかりに顔を寄せ、二人は、何とかして『納得』のいく解釈を捻り出そうと、ブツブツブツブツ呟き続けたが、どうしても答えは出ず。
「す、すまない。俺は用事を思い出した。先に帰らせて貰うっ。又なっ!」
ぎゅーーーーー……っと両手で耳を塞いでも聞こえて来る話に、もう限界だ! と立ち上がった醍醐は、テーブルの上に自分のラーメン代を置くや否や、そそくさと王華を出て行ってしまった。
「……僕も、失礼するよ。店が心配になって来たから」
醍醐の『戦線離脱』を切っ掛けに、言い訳を口にしながら如月も腰を上げ、「神社に寄って……」とか何とか小声で洩らしつつ、一足先に帰宅し。
「……………………きょ、京一」
「……何だよ」
「観たいと思ってた映画がレンタル開始になったから、今日、帰りにそれ借りて、家で観ようって約束したよねっ!? 家、泊まってくだろうっ!?」
「お、おうっっ。したっ。そんな約束したよな、今朝っ! だから泊まってくぜ、勿論っ! っつー訳で、俺達も帰ろうぜ、龍麻っ!」
「うん……っ。じゃ、じゃあ、そういう訳だからっ。御免、又っ!」
「又なっ。連絡するからよっっ」
すーーっと、これ以上考えたくないと言うように、如月までもが陳腐な言い訳と共に帰ってしまったのを受けて、今日の夜は、二人でレンタルビデオを観る約束だったんだ、との即興の建前を掲げ、空元気を絞った龍麻と京一も、三人の少女を残し、脱兎の如く、王華から去って行った。
「揃いも揃って、情けないなあ……」
「ねぇ。あんなに怖がらなくてもいいのにぃ」
「ホントだよ。如月クンは、怖いってよりも、お祓いしなきゃ、とか思ったからみたいだけどさ。それにしたって。──…………で? ミサちゃん、真相はどうなのさ」
「あ、舞子も知りたいぃ。結局、何であんなことになったのぉ?」
自分達はもしかしたら、それと知らぬ間に、正体不明なナニモノかと、延々、あの『遊び』をしていたのかも知れない、と悟り、次々逃亡した少年達に呆れの溜息を付いて、小蒔と舞子は、ミサに尋ねた。
「んっふふ〜〜〜。ローシュタインの回廊って言うのはね〜、元々はね〜、悪魔崇拝の人達がやってた儀式の一つなの〜。だから〜、要するに〜」
すればミサは、二人へと、しれっと語って。
「……え、じゃあ、『五人目』って…………」
「京一君が肩叩いてぇ、ダーリンの肩叩いてたのはぁ、そういうモノってことぉ?」
「あれ? だけど……、そういうのって、そんなに簡単に降りてくるの?」
それを聞き、ということは、『五人目』の正体は……、と小蒔と舞子は頷き掛け、が、その途中で小蒔は、頷きを小首傾げに変えた。
「黒魔術の儀式は〜、そんな〜に簡単じゃない〜」
「………………ん? ということは?」
「本当に〜、ミサちゃ〜んは〜、雨が止むまでの退屈凌ぎでも出来れば〜、って思ってただけなのに〜。四人して勘繰るから〜。一寸〜、『器用』なこと出来るのを呼び出してみたの〜。そんなに期待されてるなら応えなきゃって思って〜。呼んじゃえば〜、後は〜元々は黒魔術の儀式なあれの流れに乗せちゃえばいいだけだから〜。ん〜ふ〜ふ〜」
彼女のその疑問にも、ミサはケロリとした調子で答え。
「なーんだ。結局、変に勘繰った四人の自業自得かあ」
「駄目だよねぇ、皆してぇ。でもぉ、ダーリン達の顔色がぁ、どんどん悪くなってくの見てるのは、ちょっぴり面白かったぁ。えへ」
「言えてるねっ。最初の内さぁ、あんなに自信たっぷりに、ああだこうだ言ってたのに、結局、あの様だったもんね。ボクも面白かったよ」
「人のこと疑うから〜、ああいう目に遭うのよ〜〜」
本当に、男って、肝心な時にだらしないよねー、とか何とか言い合いながら、王華を出た三人は、今日の出来事を、葵と亜里沙にも『告げ口』しよう、と高い声で笑いつつ、家路に着いた。
──この数日後。
『お部屋様』事件の詳細を教えられた亜里沙が悪ノリし、『旧校舎詣で』の際、龍麻や京一達は、又もや、『怪談大会』に強制参加させられることになって。
面白がった少女達全員が、少年達全員を脅かすことに、迸らせるにも程がある、と言えた情熱を注いだので、真神学園旧校舎教室を会場とした『第二回怪談大会』は、阿鼻叫喚と化して。
……その夏。
以降、彼等の間で『怪談大会』が開かれることはなかった。
End
後書きに代えて
学生時代、夏休み、と来れば、一度はやっとかなきゃ駄目だろう、怪談ネタ、と思ったので、ちょろっと(笑)。
怖くも何ともない話なので、怪談系お嫌いな方でも大丈夫かな、とも思いまして。
……ミサちゃんと舞子ちゃんのいるトコで、怪談やっちゃアカンと思うなあ、私。
それにしても情けないぞ、野郎共(笑)。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。