約束の時間ジャストに、マリアと杏子もやって来て、都合七名となった彼等は、公園の奥の方の桜の木の下に空きスペースを見付け、そこで夜桜見物をし始めた。

早く公園へ着くことだけに捕われていた龍麻と、最初からそんなこと考えもしなかったらしい京一の他は、皆何かを持参していて、三名の少女達は、主賓の緋勇君は兎も角、あんたの手ぶらは許さない! と、遅刻者に科せられる筈だった罰ゲームを彼へと押し付けた。

故に、そこまで言われるんならと、何を思ったのか彼は、

「この俺の、鍛え上げられた体を披露してやる!」

と叫び、上半身裸になって、珍妙としか言えない踊りを踊り出し、早くも出来上がっていた周囲の酔っ払い達をも巻き込んで、彼等は、誠賑やかな、アルコール抜きの宴を暫し続けた。

「か、風邪引くって……。いい加減、シャツ着た方がいいよ……。……あ、あはははははは! も、駄目、腹痛いっ! ホンッと、馬鹿な奴ーーー!」

何時まで経っても馬鹿な振る舞いを止めない京一へ、脱ぎ捨てられたシャツを投げ付けながらの龍麻も、込み上げる笑いを抑え切れない。

「だーかーらーっ! 何度も言わせんな、言葉を選べ、緋勇! 馬鹿って言うなっ!」

「……ひーーーっ。腹筋痛いーーー!」

「聞いてんのか、俺の話っっ」

「き、聞いてる……。じゃ、じゃあ、馬鹿じゃなかったら、何て言えばいいんだよ……」

「そーさなー……。……宴会部長?」

「宴会部長ってよりは、太鼓持ちって感じだよ。……俺、一生忘れないね、今日の蓬莱寺の上半身裸踊りっ。ブラボー。ハラショー」

「……何処の言葉だ、それは」

龍麻を筆頭に、腹を抱えて笑い転げる一同を尻目に、京一は平然とした顔で何時も通りの軽口を叩き、が、流石に冷えて来たのか、シャツと、短ランと言われる部類の、丈の短い校則違反な学生服を着込み直した。

「いいよ、蓬莱寺。お前、最高」

「……そこまで受けて貰えれば、俺も本望だ。見応えあったろう? 真神一の伊達男、神速の剣士と名高い俺様の体は。見料高いぞー?」

「…………御免、そこまで褒めてない。それに、お前曰くのナイスバディを堪能してる暇もなかった。笑い過ぎで腹痛くて」

そうして宴は少しずつ、笑いだけは絶えない、が穏やかなそれへと変わって行く。

そろそろ、お開きの時も近そうだった。

「……ん?」

「あれ、何だろうね、何か向こうの方で騒ぎが起きてるよ」

「ミサちゃんの占いのこともあるし。本当に、日本刀騒ぎでも起きてたりしてね」

が、引率者であるマリアが、腕時計と一同を見比べつつ、もう時間も遅いから、と言い出すよりも早く、醍醐と小蒔が、公園の反対側で起こったらしい騒ぎを聞き付け腰を浮かせ、杏子は又、余り質が良いとは言えない冗談を口にする。

「……俺、一寸見て来るよ」

彼等より少し遅れて喧噪に気付き、杏子の言葉より、誰よりも早くここへやって来た理由を思い出した龍麻は、少々顔を曇らせながら立ち上がった。

「付き合うぜ。酔っ払いが喧嘩でもしてやがるなら、こいつで一発ぶん殴れば収まるだろうしな」

「俺も行こう。何となく、気になるし」

釣られたように、京一と醍醐も後に続き。

「あっ! ボクも行く!」

「私も一緒に行くわ」

「あたしも! スクープかも知れないし!」

「……私は、貴方達の保護者ですよ。貴方達が行くなら私も行きます。危険なことはさせられないから」

少女達もマリアも、共に行くと言った。

当然のことながら、女性達が荒事に巻き込まれるかも知れない『野次馬』に同行するのを、少年達は渋ったが、結局、押し切られ。

一同揃って、騒ぎの場所へと駆け付け、そこで。

……ミサの『不吉な予言』の通り、杏子の縁起でもない話の通り、目の焦点をおかしくした一人の男が、血に塗れた剥き身の日本刀片手にフラフラと彷徨い歩いている姿を見た。

「まさか、あれ、本当に…………?」

彷徨う男の様、夜目にも痛い鮮やか過ぎる血の色、それ等に、少女達は息を飲む。

「…………お前。その刀で、人を斬ったな……?」

が、京一は、狂刀を携える男を真っ直ぐ見据え。

「緋勇。……いいな?」

醍醐も、男から目を離さず上着を脱いだ。

「京一、お前も」

「言われなくても。任せろ」

「美里、桜井……」

「……ボク達だって、一緒に戦うよ」

「私もよ。旧校舎の時から生まれたこの力は、こういう時の為に使うような気がするの」

ぱさりと上着を地面へと捨てた醍醐は、小蒔と葵を振り返って、下がれ、と言い掛けたけれど、ショックから立ち直った二人の少女は言うことを聞かず。

「仕方無いな……。……遠野、マリア先生を頼む」

「……………………来るよ」

友人達のやり取りを、何処か遠くに聞きながら、龍麻は、制服のポケットに何時も押し込んである手甲を己が手へと嵌めつつ、血に濡れた刀を構えながら近付いて来る男の前へと、一歩だけ踏み出た。