──龍山の話は、鬼道衆に関することだった。

鬼道とは要するに、シャーマニズムのことで、我が国では古、卑弥呼がその法を用いて人々の長と君臨していた。

龍脈の力を用いる為、その力が吹き出す上に『塔』を建てて、その強大な力を彼女は操っていたが、強大過ぎる力はやがて歪みを生み、龍脈が齎す陽の氣だけを統べていた卑弥呼の没後、陽の氣の裏側で陰の氣は闇を生み、それが鬼となって姿を現し、この世には戦乱が齎された。

が、そんな時代も遠く過ぎ、何時しか鬼道は失われ、でも。

江戸時代。幕末の頃。人ならざる力を持った者達が、幕府転覆を謀って、鬼道を復活させた。

自らを、鬼道衆、と名乗ったその者達の長、鬼道を復活させた修験者は、名を、九角こづぬ鬼修、と言い………………──

「九角……」

──龍山の説明が、幕末の頃に暗躍した鬼道衆と、その長、九角の名に及んだ時。

ぽつり、葵がその名を繰り返した。

「……水角が倒れる時、九角様、って言ったよね…………」

龍麻は、自らの記憶を辿った。

「九角……。幾ら何でも、江戸時代の亡霊ってこたぁねえだろうが……」

葵と龍麻の声に、京一も、思案気な顔になる。

「…………と、まあ、そういう話じゃ。江戸の頃の鬼道衆と九角と。現代の鬼道衆と九角。……何らかの関係はあると思って間違いはなかろう。……処で、その、鬼道衆の水角と風角とやらを倒したら、珠になったと醍醐の手紙には書いてあったが。持って来ているなら、見せてくれんか?」

『その先』を、知っているのかいないのか、それは龍麻達には判らなかったが、鬼道の話を龍山は止め、珠を見せろと言い出した。

「あ、はい」

一応持って来てくれないかと醍醐に言われていたので、何となくの流れで、これまで珠を預かっていた龍麻は、理由も判らず持参したそれを、龍山に手渡した。

すれば、それを改めた龍山は、この珠は、五色の摩尼と言う物で、江戸の街の礎を築いた天海大僧正が、江戸を護る為に使った宝珠であり、本来なら、五色不動尊から成る、鬼の力で以て邪気を防ぐ方陣に、それぞれ正しく納められていなくてはならない物だから、珠を持って、五色不動尊を巡ってみるといい、と彼等に教えた。

「又、何か遭ったら訪ねて来ると良い」

──そこまでが、龍山の語ってくれた全てだった。

……もしかすると彼は、そこまでしか語ってくれなかった、のかも知れないが、兎に角そこで、龍山の話は終わり、送り出されるまま、彼等は庵を後にする。

「緋勇龍麻。……御主が再びここに来ることがあったら。したい話がある」

去り際、龍山は龍麻だけに向けて、意味深長なことを言ったが、それも又、それ以上明らかになることはなく。

「先生は、龍麻に一体何の話があるのだろう……」

広大な竹林の中を再び辿っての帰り道、醍醐が首を捻った。

「さあ……。俺、全く心当たりが無いんだけど……」

釣られて龍麻も、首を捻る。自身のことだけれど、とんと見当が付かないと。

「易者だからなあ、先生は……。龍麻の相に、何か思う処でもあったか」

「放っとけ。その内、ジジイの方から口を割るさ。それよりも俺は、例の珠の方が気になる」

しかし、何処かに何かを含んだままの龍山よりも、そっちが、と京一は言う。

「何で、連中が倒れると珠になんのか、そんなことは判らねえけどよ。五色不動尊とその珠が、この街の方陣とかの一つなのには間違いねえんだろ? ──不動尊は五つ、でも、俺達の持ってる珠は二つ。……ってことは、だ」

「成程。後三つ、即ち、後三人、鬼道衆はいる、ということか。一人は、あの炎角だとして、後二人…………」

「……ああ。それと、九角って親玉。…………多分、だけどな」

「そうだね……。でも、先のことばっかり考えても仕方無いよ。取り敢えず、明日不動尊行ってみよう」

五つの不動尊と二つの珠、それでは勘定が合わない、と京一は言い出し、醍醐は腕を組んだが、考えてみても、と龍麻はそれを遮って、新宿駅東口前広場に辿り着けば。

「わーーっ! ボク、これから弓道部の皆と昨日の試合の打ち上げなのに! 遅刻するー!」

時間に気付き、小蒔が慌て始めた。

「大丈夫か? 桜井。打ち上げなら遅くなるだろう? 終わるまで、何処かで待っていようか?」

「有り難う、醍醐クン。でも平気だよ! 京一達じゃあるまいし、健全な打ち上げだしね。部の皆と一緒に帰るしさ。じゃあ、又明日ね!」

それを聞き、醍醐は眉を顰めたが、気の遣い過ぎだと小蒔は弾けんばかりに笑って、ダッと駆け出して行った。

「じゃあね、皆。私も、今日はバスで帰るようにするから、平気よ」

彼女に倣う風に、葵も別れを告げて、バス乗り場へと足先を向け。

「なら、解散だな」

「そうだね。お休み、醍醐。又明日ー」

「んだな。又なー、タイショー。気を付けて帰れよ。龍麻もな」

「…………あれ? 京一、どっか行くの?」

「……ああ、ちょいと、な。野暮用。へへへー」

「うわー、何か厭らしい笑い。オネーチャン絡み?」

「ご想像にお任せ致します。……じゃな!」

醍醐は地下鉄へと続く階段へ、龍麻は西新宿方面へ、京一は雑踏の中へ、とそれぞれ消えた。