余り騒ぎにならぬように、それとなく醍醐を探しながら週末は過ぎ、やって来た月曜。

朝のホールルームが終わる頃、遅刻ではあったが小蒔は登校して来た。

マリアの、具合は、の問いに、もう大丈夫と答える彼女だったが、顔色は暗く、何時もの覇気はなく。

仲間達を避けるように一日過ごした彼女を、龍麻達は、放課後何とか捕まえた。

「どうしたの? 小蒔。何か遭ったの……?」

「桜井さん。桜井さんが休み始めた日から、醍醐も登校して来てないんだ。探してるんだけど、見付からない」

「……醍醐クンが?」

「うん」

「…………醍醐クン……。……でも、御免、ボク…………。ボクには言えないよ……」

屋上へ向かい、葵と龍麻が宥めるように事情を聞き出そうとしても、彼女は深く俯いたまま言葉を濁し。

「……言えよ、小蒔。さもなきゃ俺は、お前を一生恨んじまいそうだ……」

抑揚のない声で、ギリギリ何かを抑え込む風に京一は詰め寄る。

「………………あのっ……。あのねっ……!」

すれば小蒔は泣き出しそうになるのを堪えながら、『あの日』起こった出来事を、ポツポツ皆に語って聞かせた。

「……そんな……。そんなことが…………」

「…………醍醐、探し出さないと」

「そうだな……」

「騒ぎになるとか、もう言っていられないわ。アン子ちゃんや、ミサちゃんの力も借りましょう」

事情を知り、龍麻達は顔色を変え、葵は新聞部へ行ってみようと、小蒔を抱き抱えるようにしながら階下へと踵を返す。

「……先、行っててくれ。後から行くから」

が、京一は少しここに留まると言い出して、若干だけ迷いはしたものの、龍麻は京一と共に屋上に残った。

「………………京一」

「……悪い予感程、よく当りやがる。………………醍醐の奴っ! そんなことが遭ったってのに、一人で何処かに行っちまいやがって……っ。そういう時こそ、俺達を頼ればいいだろうによっ!」

今、屋上にいるのは自身と龍麻だけなのが、彼にそうさせたのか。

何時でも明るい皆のムードメーカーである筈の彼は、その役割を投げ捨てたように激しく言って、ガシャリ、屋上の柵を殴る。

「ちっくしょ……。あの日、俺があんなことしてる間にっ。何で……っ」

「…………醍醐……ああいう性格だからさ。自分に起きたことは、只ならないことだとか思って、なら、俺達に迷惑が掛かる、とかも考えちゃったんだよ、きっと……」

「………………ふん……っ。友達甲斐のない奴……っ」

「そう思うなら、醍醐のこと見付けて、何か言ってやればいいじゃん。……ね? 京一」

「あったりまえだ! 一発、ぶん殴ってやる」

京一の手を取って、もう一度、それが柵へと打ち付けられるのを防ぎながら龍麻が励ましてやれば、彼は何とか何時もの軽口を叩き、逆に龍麻の手首を掴んで、新聞部へと向かい掛け、あ……、とその足を止めた。

「何?」

「増上寺の地下で、ダゴン、だったか? あれと戦った時に、如月の奴が、醍醐から目を離すなって言ってたんだよ。そのこと、忘れてた訳じゃねえんだけど、あの骨董屋、秘密主義だろう? 何でそうした方がいいのかって、肝心なこと言いやがらなかったから、何のことか判らなくってな。……でも、あいつが言ってたことって、このことだったのかも……」

「そっか。……如月、何か知ってるのかな?」

「行ってみるか、骨董屋のトコ。アン子と裏密の方は、葵と小蒔に任せて」

「うん。手掛かりは、沢山あった方がいいしね」

「おっしゃ、決まりだ!」

立ち止まったまま首だけを捻って、京一はもう二ヶ月も前に如月からされた話を龍麻へ教え、なら、と二人はそのまま学園を飛び出した。

王子へ向かう道すがら、葵達にはPHSで連絡を入れ、簡単な事情を伝えて、彼等は如月骨董品店へ飛び込む。

「骨董屋っ!」

「如月っっ」

「…………何事なんだ。二人して、血相を変えて」

引き戸をぶち壊しそうな勢いで店内へ飛び込み、ダブルで己を呼んだ二人へ、如月は酷く嫌そうな顔を作ったが、そんなことに取り合っている暇は彼等にはなく。

「実はなっ!」

「実はねっ!」

京一と龍麻は、口々に事情を捲し立てた。

「醍醐が…………」

「うん。ここに来る途中、美里さん達と連絡取ったら、遠野さんが、それって人狼とか狐憑きの類いじゃないか、って言い出したらしいんだけど……」

「……人狼や狐憑きとは、少し違う。…………こうなった以上、仕方無いな。話すべきなんだろう。──君達は、宿星というのを知っているかい?」

少々忙しなく語られた事情を聞き終え、如月は、とても複雑な面になりながら、己が知ることを話し出す。

「宿星?」

「君達にも判り易く言うなら、東洋の星占いみたいなものだ。……人はそれぞれ、生まれながらにして、宿星と呼ばれる『星』を背負っている。言い換えるなら、運命とか、宿命とかになる『星』を。要するに、絶対に、動かしようも変えようもないまま、持って生まれて来るモノ。又は『力』、だ。宿星の種類は幾つかあるが、醍醐は、白虎の宿星を持って生まれて来た者だ。天の四方を司る、聖獣の一つの。……彼は、そんな運命を持っていて、恐らく、鬼道衆達の暗躍の所為で急激に乱された龍脈が、早過ぎる、彼の宿星による『力』を覚醒させてしまったんだろう。そう考えれば、彼が姿を変えたという話も納得出来る」

「…………何で、んなことを知ってて、んなことをすんなり納得出来んだよ、お前は……」

「事情があるからだ。…………だが、そうだとするなら、彼は今、とても不安定な筈だ。鬼道衆に狙われないとも限らない。……そんな状態の彼が、遠くへ行けるとは到底思えないな。未だ、新宿の何処かにいるんじゃないか?」

「新宿で、あいつが身を寄せられそうな所……………」

「…………あっ! 京一、忘れてた! 龍山さんの所!」

「そうか! あのジジイの所! すっかり忘れてたぜ。──ありがとよ、如月っ」

「御免、急ぐから、又っ!」

要領を得ない話ではなかったものの、如月の話には未だ疑問が残って、何で、と京一も龍麻も首を傾げ掛けたが、今はそれよりも醍醐のことと、二人は又慌ただしく、骨董品屋の店先を飛び出して行く。

「あの様子では、そんなゆとりはないだろうな」

黙って彼等を見送って、如月は、やれやれと、億劫そうに携帯を取り出し、以前、亜里沙が強引に登録して行った、仲間達の電話の短縮番号を押し始めた。