十月上旬のと或る日の放課後。

各部活の部長会議から逃走して来た京一と、やれやれと、困った顔をしながらも、京一の言い訳に付き合っていた龍麻の二人は、何時ものメンバーと前からしていた約束を思い出し、花園神社で行われる縁日へ出掛けた。

昇降口で行き会ったミサと少々言葉を交わし、彼女も縁日へ誘ったら、又、何時もの謎めいたことを言いながら、何やらを防ぐ手立てを探しに行かなくちゃならないからと、彼女は誘いを断ったので、そのまま別れ、家庭科室で用事を足してから行くと言い出した、葵と小蒔の二人とは花園神社の鳥居前で落ち合うことに決め、醍醐と三人で、一足先に縁日へ向かい。

短気な京一が焦れ始める頃、沢山屋台の物が食べられるようにと思って! と楽な私服の小蒔と、折角の縁日だからと、恥ずかしそうに浴衣でやって来た葵と共に、一行は境内をぶらつき始めた。

じーちゃんがここの宮司と茶飲み友達だから、と手伝いに来ていた巫女姿の雪乃、友達と遊びに来たらしい絵莉、通い始めた中学の同級生と縁日を見に来たマリィ、浴衣でここに来ているらしいマリアを隠し撮りして売り捌こうとしていた杏子、そんな面子と行き会いながら、焼きそばを食べたり、りんご飴を買ったり、玩具を賭けた籤引きをしたりと祭りを楽しんで。

やはり、神社と言えばお神籤だろうと、社務所に行った彼等は、雪乃と共に手伝いに来ていた雛乃から、それぞれ籤を引いた。

よく振って、と雛乃達に言われた通り、馬鹿正直に振った龍麻の結果は大吉で、京一は大凶だった。

……本当に大凶ってあるんだと、感嘆の眼差しさえ仲間達が注ぐ中、神籤の結果に嫌そうな顔をしつつも京一は、「俺はこんなのは気にしないし、運命の類いは信じない」と、それを丸めて捨てようとしたので、慌てて龍麻は止め、雛乃が、「蓬莱寺様は剛胆な方でいらっしゃいますね」と笑いながらも、神社の中で起こることは、全てに意味があると京一に忠告を与えている間に、もぎ取った大凶の神籤を彼は、近くの木の枝に結び付けた。

そうして、楽しんだ縁日の終わり、イベントの一環として境内で行われていたヒーローショーより届いた音楽に、小蒔が耳を止め、Let's Go! ヒーローショー! となったので、「練馬と新宿の平和を守る!」と高らかに宣言する、随分とローカルなと言うか、極端な地元密着型の、コスモレンジャーなる彼等のショーを見て、ショーの山場でふとコスモレンジャー達より感じた『力』のようなものを確かめるべく、終了後、わざわざ『ヒーロー』達に会いに行って、結果、何となく、コスモレンジャーの三人が、『力』の持ち主だろうとそうじゃなかろうと、どうでもいいかー……、と思えて仕方無くなった五人は、別れるでなく、済し崩しにその場より逃げ出し、帰り道、歌舞伎町界隈によく屯しているような、チンピラの集団に取り囲まれた。

「あーーー…………。こいつ等、コマ劇の裏の方の風俗街で、たまー……に見る顔だな」

自分達を尾けている輩に気付き、わざと入り込んだ裏道で、龍麻や醍醐と共に、せーので振り返った京一は、そこに見た顔に、おー、と声を上げた。

「……何で、歌舞伎町の風俗街にいるチンピラの顔なんか知ってるのかなー、京一は……」

「…………言葉の綾って奴よ、ひーちゃん」

「お前は、そんな所でも遊んでるのか……」

「だから、そーじゃねーっての! 色々あんだよ、俺にだって! ……でも、だとすると、こいつらが用事があるのは俺、ってことか」

「色々、ねえ……。でも、そうだとしても、付き合うよ、京一」

「そうか? 悪りぃな。じゃ、軽ーく行きますか」

「本当に、仕方の無い奴だな、お前は。だが、加勢はしてやる」

彼の語る『心当たり』に、疑いの目を送りはしたものの、龍麻も醍醐も手を貸す態度は見せて………………が。

「一寸待ったぁぁっ! ──この世に悪がある限り……」

「正義の祈りが我を呼ぶ……」

「愛と!」

「勇気と!」

「友情と!」

「三つの心を一つに合わせっ」

「今、必殺の! ビッグバンアターーーーーックっ!!」

……彼等を取り囲んでいたチンピラ達の片隅で、先程、花園神社のヒーローショーで聞いた、コスモレンジャー達が必殺技を放つ時の決め台詞がし、ズガン! と数人のチンピラがアスファルトの上にすっ飛んだ。

「君達! 我々、コスモレンジャーが来たからには、もう安心だ!」

「こいつらの相手は、俺達に任せろ!」

「さあ、危ないから貴方達は下がってっ!」

………………コスモレンジャーの、突然の出現、突然の参戦、だった。

──神社裏で、帰宅するからと、練馬区・大宇宙おおぞら高校の制服に着替えていた筈の、コスモレッドこと紅井猛、コスモブラックこと黒崎隼人、コスモピンクこと本郷桃香の三人は、何処で身支度を整えたのか、コスモレンジャーのコスチュームに身を包み、颯爽と、龍麻達とチンピラ達の間に立ちはだかる。

「…………恥ずかしい連中だな、おい……」

「普通さ、必殺技って、最後の切り札なんじゃないのかなあ、ヒーロー物の定石として」

「うわー、黒崎商店スマッシュとか、大リーグストライクとか言ってるよ、あの人達。ローカルなんだかワールドワイドなんだか判んないねー。凄いや」

「京一も龍麻も桜井も、呆れてる場合か。あの三人に、この連中の相手が務まるとは思えん」

「……え、ええ、そうよね。一寸驚いて、見守ってしまったわ……」

とう! だの、やあ! だの叫びながら、金属バットだったりサッカーボールだったり新体操のリボンだったりを振り回し、正義の為の戦闘を始めたコスモレンジャー達に唖然とし、思わず遠巻きにしてしまったけれど、何とか彼等は我を取り戻し、ヒーロー達に庇われながら、ではなく、ヒーロー達を庇いながら、戦い始めれば。

…………チンピラ達は、聞き覚えのあり過ぎる唸り声を放ち、全員が。

鬼へと変生した。