通りすがり、たまたま騒ぎを見掛けて、路地裏に飛び込んで来たコスモレンジャー達は、異形と化したモノ達に驚き、龍麻達の強さにも驚き、戦いが終わった後、彼等のことをやけに気に入った様子で、「あんた達が、こんな連中と日々戦い、世界の平和を護っているなら、俺達もそれに加わるぞ!」と言い残して、高らかに笑いながら帰って行った。

「インパクトの強い人達だったね…………」

「あ、ああ、まあな……。…………ええと、だ。あいつ等のことは取り敢えず放っといて」

「……あ、うん。……さっきの言葉、気になるよね。……そうだろう? 醍醐」

「勿論だ。連中が言っていた、『竹林に龍を捕らえて待つ』という奴……。竹林の龍……。……龍山先生のことでなければいいが……。いなくなった筈の鬼達が現れたことだって……」

「………………行ってみようよ。その方が早いよ。おじいちゃんが無事だったら、それはそれでいいじゃないか。ね? 醍醐クン」

「そうね。そうしましょう、皆」

どうにも調子の狂うコスモレンジャー達と別れ、路地裏を抜け、駅方面へと向かいながら、変生したチンピラの一人が言い残したことを思い出していた彼等は、自然足を速め、走るようになって、抜け道の中央公園を使い西新宿へ出て、竹林の中の龍山の庵へと駆け付けた。

「龍山先生!」

「おじいちゃんっ!」

「じい様、無事かっ!?」

引き戸をぶち壊さんばかりに、静寂に包まれたままではあるらしい庵に彼等が飛び込めば、庭に面した縁側に腰掛け、当の龍山は、酒を嗜んでいた。

……傍らに置かれていたのは、一本の徳利、そして、二つの杯。

「先生、ご無事でしたかっ?」

「相変らず賑やかじゃのう、お前等は……」

のんびり、細やかな宴を楽しんでいた風情の彼の姿にホッとしつつ、勢い込みながら近付いて来た醍醐に、軽く笑いながら龍山は言って、眼差しだけは厳しく、す……っと腕を伸ばし庭先を指差した。

「九角……天童………………」

指先に釣られ、一同が、何も無い虚空へと瞳を向ければ、虚空はユラ……と揺れて、彼等の目の前で見る見る内に、かつて、九角天童だった鬼となった。

「…………どうして……? 確かに、俺達が倒した筈なのに…………」

この世から消え去った筈の異形の姿に、龍麻も、他の者達も、呆然となれば。

「あの時に、死んだものがあるとすれば。それは、『ヒト』としての俺だろうよ。『俺』の中に醜くぶら下がっていた、『ヒト』、としての……」

…………鬼は、愉快そうに嗤ってみせると、又、あの刹那のように、戦いを始める為の構えを取った。

やけに挑発的に。

「怨嗟の念は、未だ消えず、か……?」

「……怨嗟ね。そうかもな、じい様の言う通り。…………だがな! そこを曲げてでも、成仏しろや、天童っ!」

ポツリ、と洩らされた龍山の呟きを聞きながら、来い、と招き寄せるように腕を振った鬼へ、何時の間にやら刀を抜き去り、真っ先に挑み掛かったのは京一。

「蓬莱寺京一。……貴様が言うか、それを」

「おうよっ。万に一つ、俺がてめぇに倒されることがあったら、俺は黙って成仏してやるよ。……少なくとも、てめぇの前にゃあ祟って出ねぇっ!」

神速と言える疾さで打ち下ろされた京一の刀、それを受け止めた天童の長く鋭い鬼爪、その二つは、一度、ギンッとぶつかり合って直ぐさま、ギリギリと音を立てて押し合う。

「大層な覚悟だ」

「理由があるからな」

「………………理由か。……何かを護る為か? その為に、覚悟を携えおにをも斬るか?」

「……てめぇにゃ関係ねぇ」

言葉を交わしながら、長く鍔迫り合いを彼等は続け。

「……っ、京一っ!」

何時までも、そんな力比べが続く筈は無いと、天童目掛けて龍麻が蹴りを放った。

「一人で突っ走ることないだろっ!?」

「……ああ。悪い、助かった、ひーちゃん」

「ホントにもうっ! そんなに、相棒のこと信用出来ないんだ?」

「そーじゃねえ。ちぃっと、頭に血が上っちまってさ」

「短気だもんねえ、京一。……ってことで、今は納得しておいてあげるよ。──行くよ!」

「応っ!」

重い蹴りに弾き飛ばされ、天童が姿勢を崩した隙に、があっと龍麻は噛み付く風に京一に喚き、今度は二人揃って……否、仲間全員で、天童へと立ち向かった。

「敵わねえなあ……」

この世との、二度目の決別を迎えて、天童は。

人だった、在りし日の姿を取り戻しつつ、笑いながら呟いた。

「俺は、貴様等には敵わなかった。……だがな。これで終わったと思うなよ。何故、再び、この世に鬼が現れたと思う? 何故、こうして俺がこの世に生き返って来られたと思う? 俺一人の力じゃあ無理だった。これ程に強い、怨嗟と想いがあっても。……『この意味』が、判るか? ──…………真の恐怖はこれからだ。精々、貴様等の大切なモノとやらを護ってみせるんだな。もう、安息は何処にもないぜ…………」

笑いを続け、呟きを続け、眼前の龍麻達ではなく、何処か遠い、とても遠い、『何か』を見ている瞳をし、今生の最期に葵をそこに映して、彼は、再び塵となる。

「………………ねえ、あの人……」

「……ああ、桜井。……あいつは何で、あんなことをわざわざ俺達に言い残したんだろうな……」

「判らない……。判らないけれど……、もしも刻が違ったら、私達とあの人は、違った出逢いが出来たのかも知れないわね……。こんな出逢い方や別れ方じゃなく……」

散って行った天童の亡骸を追って、小蒔や醍醐や葵がぽつり言えば。

「彼奴は、お前達と戦って死ぬるのが……そんな最期が、望みだったんじゃよ。だから、ここへ来た」

今生では、『これが道』だと龍山が説いた。

「…………真の恐怖は、これからだって」

「安息も、何処にもないとさ」

「……ま、なるようになるよね。なるようにしかならないんだし」

「………………なるようにしてやる。何度でも」

仲間達の言葉、龍山の言葉、それを聞きながら、塵となった彼を何処かへ運び去って行った風だけが通り抜ける竹林を、その上の夜空を、唯じっと、龍麻と京一は見詰め続けた。