自分達は、一寸恥ずかしい青春模様を描いちゃったりなんかしたのかも、と京一も龍麻も思った『一晩』が明けた翌日。
彼等の身の上に、様々な意味で衝撃的な出来事が起こった。
朝、登校途中でコンビニに寄り、いそいそと京一が買い求め、学校で、休み時間になる度、龍麻を付き合わせては、えへら……とだらしなく笑みながら眺めていたグラビア雑誌に載っていたアイドル、文京区・鳳銘高校一年C組舞園さやか当人と、彼女の同級生の、霧島諸羽という少年に、彼等は出会ったのである。
──何時も通り、ラーメン屋にでも寄って帰ろうかと通学路を辿っていた途中、裏道の方に高校生の一団を京一が見付け、その一団が、可愛い感じの少女と、真面目そうな少年という組み合せのカップルを脅しているらしいと気付いた彼等は、放っておくのは可哀想だと仲裁……否、売られてもいない喧嘩をわざわざ買う為、「喧嘩かっ?」と嬉々とした京一を筆頭にそこへ割り込んだ。
見るからに、典型的な不良タイプの一団へ向け、京一と醍醐がそれぞれ名乗れば、彼等の有名も悪名も知っていた不良達は、真神の蓬莱寺と醍醐が出て来たんならとその場より逃げ出し、どんな形にせよ、窮地を救って貰う格好になった少年少女は、彼等に礼を告げ、そこでやっと。
龍麻達は、眼前の少女が、高校生アイドル舞園さやかであることに気付いて仰天した。
今をときめくトップアイドルが何で新宿の裏路地なんかで、と訊けば、たまには普通の高校生として遊びに行きたいと言った彼女と、彼女の細やかな我が儘を聞き届けた、自称『一応、彼女のボディーガードのつもり』の霧島は、新宿に遊びに来て、そこで、以前からストーカーのようにさやかのことを追い掛け続けている、『熱烈過ぎるファン』の一人、中野区・さぎもり高校三年の、帯脇斬己の『後輩』達に見付かり、連れて行かれそうになっていた処だったと、さやかと霧島は口々に事情を語って、「そういうことなら、一緒にラーメンでも食べに行こうよ」と言い出した小蒔の提案通り、一行は王華へ行くことになった。
ファンの、アイドルのさやかちゃんが、目の前でラーメン食べてるー……、と、思わず拝むように両手を合わせて祈り始めた京一に、小蒔が鉄拳をくれる傍ら、龍麻達が言い出した、帯脇のことで困っているなら相談に乗ろうか? との言葉より、彼がどうもおかしな『力』を持っている風だとか、さやか自身にも『力』があるらしいとか、そんな話になり、自らの歌に乗せて『癒しの力』を届けることが出来る自分を不気味がらないのか、と言う彼女に、龍麻達も又、全員『力』を持っているから、と打ち明け話をして。
名前を聞いただけで、不良達が逃げて行く程の実力があると知った京一のことを、恐らく、見栄えも理想とする所だったのだろう、霧島が、
「蓬莱寺さんって、格好良いですよね。緋勇さんだってそう思うでしょう? 僕、憧れちゃいます。……これから京一先輩って呼んでもいいですか! 僕を弟子にして下さい!! あっ、僕のことはこれから、諸羽って呼んで下さって構いませんから!」
……と言い出して、醍醐や葵や小蒔はこっそり、霧島の正気を疑うような瞬間もあるにはあったが、概ね、その日の王華での一幕は無事に下り、帰り掛け、霧島とさやかを送って行った駅で、『噂の帯脇』と出会す、というようなこともあれど、まあ、その日はそれ以上何事もなく終わり。
が、後日。
帯脇達に襲われ重傷を負った霧島が、通りすがりの少年に助けられ、桜ヶ丘に担ぎ込まれるという事件が起こった。
京一、という名前と、さやか、という名前だけを繰り返す少年の囈言から真神へと駆け込んで来た舞子にそれを知らされた龍麻達は、きっと霧島のことだと桜ヶ丘へ駆け付け、霧島を襲ったのは帯脇と知り、さやかを護るべく、文京区の鳳銘高校へと向かった。
桜ヶ丘の院長たか子の話では、霧島の負った怪我は、獣による裂傷としか思えず、毒も検出され、又、何かが憑いている気配もある、とのことだったので、やはり、帯脇に絡む何かは尋常ではないのだろうと、相応の覚悟を決めて乗り込んだ鳳銘高校は、教師も、生徒も、警備員に至るまで、何かに取り憑かれているような様子を見せており、そんな中、屋上にてさやかに乱暴を働こうとしていた帯脇を龍麻達が倒せば、冥い望みも果たされずに討ち倒された彼は、突如、大蛇へ変生した。
蛇と化した彼は、己を八岐大蛇と言い、さやかを櫛名田比売と呼び。
重傷を負っているにも拘らず、無理矢理桜ヶ丘より脱走して駆け付けた霧島を、須佐之男と呼んだ。
又、今生でも我を邪魔するのかと。
……大蛇なった帯脇が、何故そのようなことを言うのか一同には理解出来なかったが、理由は後だと、再び彼と戦い。
破れた大蛇──帯脇は、人の姿へと戻って、八岐大蛇と融合すれば、不死身になると教えられた、俺はお前達に負けたが、『獣』になりたいと思っているのは自分だけじゃない、と言い残して屋上より飛び下りた。
………………が、確かに龍麻達の目の前で投身自殺を図った帯脇の遺体は何処にも発見されず、この先も、こんな出来事が続いて行くなら、私達も緋勇さん達の戦いに協力させて下さいと言い出したさやかと、さやかを護る、その一念で、自らに眠っていた『力』を呼び覚ました霧島を仲間に加え、一応、その謎だらけだった事件は終わった。