現在の東京拘置所の前進に当たる、巣鴨拘置所──通称・巣鴨プリズンは、戦後、GHQに接収された後、数年を経て返還され、現在の葛飾区小菅に拘置所が移管されてより再び数年を経てから、サンシャインシティへと姿を変えた。
その、サンシャインシティの更に一角にある小さな公園が、かつての戦犯等の死刑場跡と言い伝えられており。
又、取り憑かれるようなことになったらいけないからと、絵莉だけは帰宅させた後、一同がそこへ踏み込んでみれば、確かに、火怒呂と名乗る憑依師はいた。
火怒呂は、京一達の憑き物があっさり落とされたことを少しばかり悔しがり、が、直ぐに彼等へと嘲りをくれ、与えられたこの『力』があれば、世界をも己が手にすることが叶うと言い出した。
「……ちょう待ち。おんどれ、一体誰にそないなこと教えられたん? 誰にそないなこと吹き込まれて、誰にその『力』を与えられたんやっ!」
「貴様に、『あの男』のことを教えなくちゃならねえ義理はないっ!」
「やから、その『あの男』っちゅうんは、一体誰なんやっ! とっとと白状しいやっ!」
「うるさいっ!」
壊れているとしか思えぬ野望を語る火怒呂に、何故か目の色を変えて劉は食って掛かり、が、彼の求める答えを火怒呂が話すことはなく、戦いは始まる。
これまでの戦いの中で、絶妙なコンビネーションを作り上げた真神学園の五人は言うに及ばず、青龍刀が得物の劉や、西洋剣が得物の霧島と、日本刀が得物の京一の相性も又良く、戦いはテンポ良く進んで、無事、龍麻達の勝利で終わった。
……だが、今度こそ何も彼も白状させたると、劉が腕捲りをした時には、もう火怒呂は逃走した後で、池袋通り魔事件はこれで解決なのだろうが、又謎ばかりが残った、と。
何処か拍子抜けした風に、皆肩を落とした。
「…………ま、色々言うてもしゃあないわ」
「そうだな…………。……通り魔事件はこれで解決なんだろうし。ラーメンでも食べて帰るか」
「おっ、ええな。池袋でええんなら、わい、美味い店一軒知っとるで。そこ行こか?」
しかし、落ち込んでみてもと、劉と京一が明るく言い出し。
「あ、いいね。たまには王華じゃないラーメンっていうのも」
龍麻も又、にこにことそれに頷く。
「そやろ? その代わり、今度その王華とかいうラーメン屋、わいも連れてってーな。あんさん等とは、長い付き合いになりそうやし」
「長い付き合いって……。劉、お前、俺達がやってる戦いに首突っ込むつもりかよ?」
「わい、あんた等のこと気に入ったんや。な? ええやろ? 緋勇はん。……いや、龍麻はん。龍麻のアニキ! 蓬莱……京一はんも、ええやろ?」
「アニキ、って言われてもー……。そりゃ、俺は別に構わないけど……。って言うか、俺に訊かれても……」
「おっしゃ、なら決まりや! これから宜しくな、アニキ。京一はんも。……ほな、ラーメン屋行こかーー」
「…………う、うん……。──…………いいのかなあ? 京一。劉まで……」
「いいんじゃねえの? 奴が自分で言い出したことだしな。それによ、ひーちゃん。ちぃっと想像してみな」
「何を?」
「劉に関西弁で捲し立てられて、眉間に皺寄せるだろう如月のツラ。……あいつ、関西弁は苦手だっつってたからな。……見物だぞー。楽しみだな、今月末の宴会」
「あっはは、そうかも! うん、そうだね、ここの処、月末の定例会もちゃんとやれてないしね。今月末は、ぱぁっとやりたいよね」
そうして彼等は、劉を仲間に加え、彼お勧めのラーメン屋へ向かうべく、サンシャインシティを後にした。
…………ああでもないの、こうでもないのと他愛無いことを皆で語りつつ、夜を迎えた池袋の町並みを辿り出して、が。
道行く速さを落とした京一だけが、ふっとその輪より外れ、立ち止まり、戦いが終わったばかりの地を振り返る。
覚束ぬ街灯だけに照らされる、薄暗い公園を振り返る彼の面に色はなく、気配すらも褪せていた。
何かを見詰める瞳は思い煩いに揺れ、肩に担いだ刀を掴む指には必要以上の力が籠り、唇は何かを叫び出したそうに震えて。
「……京一?」
「………………あっ? ……あ、ああ……。悪りぃ、ひーちゃん」
ギリっと噛み締めた彼の奥歯が鳴った時、追い付かない彼を連れに戻って来た龍麻の手が、ポンと彼の肩に乗って、 ビクッ! ……とその体は小さく弾んだ。
「…………………………何か、遭った……?」
「いや、そうじゃねえ。そうじゃなくてよ……その……」
「京一。……約束したじゃん。誤摩化しとか、隠し事とか、俺は嫌だって」
「…………判ってる。判ってっけど……。………………悪い。今は未だ言えねえ……。必ず、必ずひーちゃんには話すから。話せるようになったら、必ず。──だから、悪りぃな。すまねえ、龍麻……」
余りにもらしくないその様子、その顔色に、眉を顰め、心配そうに龍麻は問うたが、京一は、今は何も言えぬと首を振るばかりで。
「……判った。……待ってるからさ。話したくなったら話してよ、京一。一人で抱えてるのが辛くなったら、俺、幾らでも話聞くから……」
「ああ。お前には、必ず……。──……っと、連中待たせちまってんな」
「うん。行こう、皆待ってる」
これは、絶対に口を割らないなと確信した龍麻は、理由を問い質すことを諦め、代わりに、何時の日か、の約束をさせ。
京一の手首を掴んで、待ち侘びている皆の所へ戻った。