クラスの出し物と決まった『お化け屋敷』にて、同級生全員一致の指名を受け、白塗りお化けならぬ、白塗り吸血鬼に京一が扮することになったりとした、高校最後の文化祭も終わり、明日からは十一月となる十月最後の土曜日。

三十一日。

龍麻達は、又も強引に会場と決めた如月の家にて、一部の者達には、開催されるのが当たり前となった宴会をしていた。

今まで行って来た宴の中で、恐らく、様々な意味で最も盛り上がった宴会を。

……何故ならば、その輪の中に、高校生アイドル舞園さやかの姿があったから。

──その日、一応主賓という立場に位置付けられたのは、十月に入って仲間に加わったコスモレンジャーの三人、さやか、霧島、劉、それと先日誕生日を迎えたばかりの如月だった。

……だと言うのに、一応の主賓であり会場の家主であるにも拘らず、如月は、絶対に何かを企んでいる、と誰の目にも明らかな顔を作った龍麻と京一の手によって、強引に、心底苦手とする関西弁を喋りまくる劉の隣に座らされ、本当は中国人ではなく、生粋の関西人なのではなかろうかと疑いたくなる剣幕で劉に捲し立てられ、露骨に逃げ出し。

舞園さやかの大ファンである紫暮とアランは、テーブルを挟んだ向こう側の彼女に、これ以上は伸びないだろう処まで鼻の下を伸ばして霧島の不興を買い。

何とかスケジュールをやり繰りして宴会に参加した彼女を、少女達はわいわいと囲んで、芸能界の裏話を聞き出したり、アイドルとしての苦労話に同情したりとした。

雨紋は雨紋で、プロのミュージシャンとして将来やって行く為に必要な、心構えその他に関する助言を彼女から貰おうと、殊勝にもメモ帳片手に正座を始め。

……そうこうする内、興が乗ったらしいコスモレンジャー達が、

「俺達のヒーローショーを見せてやる!」

と、庭先で即席ショーを披露し始め。

さやかはさやかで、

「舞園さやか、歌います!」

と、ヒーローショーが終わったばかりの庭先を舞台にプチオンステージを始め、そこへ、舞子や亜里沙が飛び入りして即席ユニットを作ったり、「俺様もー!」と雨紋が乱入して自分達のバンドの歌を披露したり、こぞってさやかとデュエットしたがる者が続出する中、見事その座を射止めたのは、可愛いマリィだったり、といった具合で。

……………………本当に本当に、大騒ぎ、だった。

「嬉しいーーーーっ! 今をときめくトップアイドル舞園さやかの、独占単独インタビューが出来るなんて! 有り難う、さやかちゃん! 真神うちの新聞刷り上がったら、絶対届けるからね!」

「良かったねぇ、アン子ちゃん。舞子もぉ、さやかちゃんと一緒に歌が歌えて嬉しいぃぃ」

「マリィも! マリィも嬉しかった!」

「そうですか? 皆さんにそう言って頂けると私も嬉しいです! …………それはそうと、藤咲さん。藤咲さんって、とっってもスタイル良いですよね。美人だし。……モデルとかされればいいのに」

「いやだ、亜里沙でいいわよ。──モデル、かあ……。そう言われれば悪い気はしないけど。あたしなんかに務まるのかしらねえ……」

「亜里沙ちゃ〜んなら、だいじょ〜ぶ〜」

「え、何々? ミサちゃんの占いに、そんなようなことでも出てるんだ?」

「………………う〜ふ〜ふ〜。知りたい〜? 小蒔ちゃ〜ん。何なら、小蒔ちゃ〜んも、占ってあげようか〜?」

「えっ、あたしもあたしも! 将来、ヒーローとしてやって行けるか、占って欲しいな、裏密さんっ! 新体操の方も、一寸考えないこともないし……」

「あら、本郷さんは、新体操の選手の道も考えてるの?」

「…………ええ、まあ、一寸は……。ずっと、新体操やって来たから。……美里さんは?」

「私は……そうね、私は、教師になれたら、と思ったりはするけれど……」

「教師、ですか。美里様は、きっと向いてらっしゃいますわ」

「将来、かあ…………。オレは未だ、あんまり深く考えたことねえなあ……。家の神社を継ぐのは、雛の方が向きだろうから……うーん……」

────如月が、頼むから止めてくれ、近所迷惑だからいい加減にしてくれと、懇願と言える勢いで仲間達を嗜めなくてはならぬ程の騒ぎが終わっても、少女達は広い座敷の片隅で一塊になって、何時までも尽きないお喋りに興じ続け。

「……かーーーっ。女は元気だねえ……。よくもまあ、あんなに喋り続けられやがんな……」

「それが、女の子の特権とからしいよ、京一」

「俺は今日、こんな風にさやかちゃんと逢えただけで、それでいい。もう充分だ。後のことはどうでもいい。……何時お迎えが来てもいいぞ……」

「……紫暮。お迎え、というのは止めた方がいいぞ。縁起でもない……」

「Oh! 醍醐。Meニハ、紫暮ノ気持チ、判リマース! Greatデス! サヤカ、素晴ラシイネ!」

「そうかあ? そりゃ、さやかちゃんも好きだけど。俺っちは、メジャーの選手の方が……」

「…………お前は、野球馬鹿だからな、紅井」

「何だと、黒崎! そう言うお前こそ、ヨーロッパサッカー馬鹿だろうが!」

「まあまあ、紅井はんも黒崎はんも。喧嘩なんかせんといてぇな。こない、ええ席なんやし。……なあ、如月はん?」

「……あ、ああ、まあ…………。──劉。判ってはいるんだが……何故中国人の君が、そうまで関西弁を喋るんだろうか……」

「あはは。その内慣れるって、如月さん。……それにしても将来かあ……。俺様も、もーちょーっと本腰入れて何とかしねえとなあ……」

「僕は未だ一年ですから、一寸遠いですね、卒業後の話は……」

お堅い醍醐や紫暮の目はあったものの、少年達は縁側辺りに集まって、京一や雨紋が持ち込んだ酒や、如月が台所から引き摺り出して来た酒を、ちびちびちびちび舐めていた。

「卒業したら、か……」

「……ひーちゃんは、何か考えてっか? 進学とか、就職とか」

「んーー、あんまり。未だよく判んないや。……京一は?」

「俺? 俺みたいな適当な奴が、将来の設計なんざ立ててる訳ねえよ」

「…………胸張って言うこと? それ……」

「……確かに」

そんな彼等も彼等で、至極適当なことを言い合っては高らかに笑って。

──十月最後のその日は。

皆、それなりに穏便だった。