だが。
待ち合わせの午後八時を三十分以上過ぎても、京一も亜里沙も、公園に戻って来なかった。
……ひょっとしたら、遠くまで探しに行ったのかも知れないと、もう三十分だけ待って。
午後九時過ぎ、これ以上待てないと、龍麻達は今度は、京一達を探した。
が、何処を探しても二人の姿はなく、亜里沙当人から聞いていた住所を頼りに、彼女の自宅を訪れてもみたが、応対してくれた彼女の母親には、男の友達と一緒に救急箱を取りに来て、又出掛け、そのまま亜里沙は帰って来ていない、と言われてしまった。
その為四人は再び街を彷徨って、しかし何処にも、京一や亜里沙の行方を知る手掛かりはなく。
「…………今夜はもう帰ろう? もうそろそろ、終電になっちゃうよ。幾ら何でも……。ね? 美里さんも、桜井さんも、ご両親に叱られちゃうし」
戻るしかなかった公園の片隅で、時計を見遣った龍麻は、どうしようかと言い合い始めた葵達を諭した。
「でも……龍麻君……」
「大丈夫。置き去りにしたって、京一は怒らないよ。自業自得だし。明日は学校なんだし。……だから」
けど……、と言い掛ける彼女達を微笑みで押し切って、龍麻はさっさと駅へ向かい始める。
故に、顔を見合わせ躊躇いながらも、三人もその後に続いた。
学生が利用するには不自然な時間帯の電車にコソコソ乗り込んで、新宿駅で下車し。
「じゃあ、又明日」
別れ難そうにする三人へ、片手を上げて明るく言い、龍麻は踵を返した。
醍醐の姿も葵の姿も小蒔の姿も見えなくなる所までトコトコ進んで、振り返り、彼等がいないこと、気配すらしないこと、それを確かめてより、バッと彼は走り始める。
わざわざ、先程利用したのとは違う改札へ廻って、もどかしそうに切符を買い、終電へ飛び乗り。
「行かせなきゃ良かったかも知れない……っ!」
舞い戻ったあの公園にて彼は、京一との別れ際を思い出した。
思い出して、涙混じりになった声で呟いて、真夜中の住宅街を一人彷徨い始めた。
──東京で、新宿で、真神で、初めて出来た友人、蓬莱寺京一。
これまでの数ヶ月で沢山の人と知り合い、沢山の友人が出来たけれど、誰よりも、何よりも大切だと思う友。
仲間で、親友で、相棒で、大事な大事な、とても大事な…………。
……なのに。
その姿は今宵、何処にも見当たらない。今宵に限って見当たらない。
何処を探してもいない。
PHSも繋がらない。
何度、京一へと繋がる短縮ボタンを押しても、コールセンターの録音が、馬鹿みたいに、「お客様のお掛けになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない所にある為、掛かりません」と、それだけを繰り返して来る。
…………他の仲間へ、連絡を取ってみようかとも思った。
もしかしたら誰かの所へ、京一か亜里沙の何方かが、連絡を入れているかも、と。
でも、そんな考えを、龍麻は直ぐに捨てた。
自分にも連絡を寄越さない彼が、他の誰かの所へ連絡を取っているとは、どうしても思えなくて。
唯、彼の姿を求めて、彷徨うしかなかった。
「京一、京一……京一っ!」
……人気が全く途絶えた路地裏を彷徨って、搾り出すように彼の名前を呼んでも、応えは決して返らなかった。
あの時、咄嗟に京一の服を掴んだのは、虫の知らせだったのかも知れない、なのに何故、自分は彼を行かせたのだろう、と。
龍麻はひたすら、己のみを責めながら、当てもなく足を動かし。
…………やがて、夜が明けた。
人通りが少しずつ戻り始めた街中で、彼は一人だった。
……だがもう、ここでこうしている訳にはいかないと、彼はトボトボ、駅への道を辿り始める。
今日、自分が登校しなければ、今度は醍醐達が自分を心配する。
彼等とて、京一と亜里沙のことを思っているだろうに、この上、自分のことまでも、彼等に思い煩わせる訳にはいかないと龍麻は思った。
辛いけれど、苦しいけれど、悲しいけれど、何事もなかったようにして。
京一の馬鹿のことだから、何処かでオネーチャンに引っ掛かったのかも知れないよと、明るく笑い飛ばして。
皆の前では一日を過ごさなくては、と。
何度も何度も、彼は自分に言い聞かせながら真神へ登校した。
そして実際、心配そうに自分を見詰め、案ずるように京一と亜里沙のことを語る三人の前で、龍麻は完璧と言える程、普段通りに明るく振る舞ったが、仲間達はそんな龍麻の振る舞いを、本心からの物とは信じていないようだった。
………………故に。
仲間達の誰にとってもその日は、とても重たい一日だった。
なのに。
もしかして、もしかして……との祈りも虚しく、一日の授業が終わり、放課後がやって来ても、京一は、三年C組に姿を見せなかった。
彼のいない一日は呆気無く終わり。
夕べのように、再び夜はやって来て。
……何処へ行ったらいいのかなんて、これっぽっちも判らないけど。
どうしたらいいのかも、これっぽっちも判らないけれど。
京一を、探しに行こう。……そう決めて。
龍麻はその夜も又、一人真夜中の雑踏へと紛れた。