もう、それ以上の話を、御門からもマサキからも引き出すことは出来なかったし、出来る雰囲気でもなかった。
村雨と芙蓉は、始めから何も知らぬ風だったし。
故に、何はともあれ、これ以上放っておく訳にはいかない阿師谷を追い掛けようと、一同の話は纏まって、彼が逃げ帰ったであろう先へ、自分達の何方かが案内すると、御門と村雨が言った。
何方か片方のみしか龍麻達に同行出来ないのは、代々伝わる力によって、この国を影で支えて来た一族の跡継ぎ、という立場故に、暗殺者に狙われてばかりの日々を送るマサキを護るのが、彼等の第一の使命だから、が理由だそうで。
でも。
何方が五人に付き合って、何方がマサキの許に残るかを、御門と村雨が言い合い始めた時、当のマサキが、御門と村雨と芙蓉の三人揃って、五人に力を貸すように、と説得を始めた。
その為、暫しの間、軽い一悶着も起きたが。
「僕だって『力』があるのに、この足の所為で、皆さんと一緒には戦えない。この街を護るって、重たい使命が緋勇さん達にはあるのに。……だから、ね? 清明。祇孔。芙蓉も。僕の代わりに、緋勇さん達に力を貸してあげて。僕なら大丈夫。清明が張ってくれた結界を破れる者なんて早々はいないし、芙蓉以外の十二神将だっているんだし。……全てのことが終わるまでは。お願いだから」
「…………マサキがそうまで言うんなら、俺は構わないぜ。緋勇の先生達は、俺も気に入ったしな。面白そうだし」
「全く……。面白いとか面白くないとか、そんなことで決められる話ではないでしょう? しょうがない人ですね、村雨。…………ですが、私も行かせて頂きましょう。マサキ様の、達ての願いでもありますし。もしかして貴方達なら、『星』の並びをも変え、マサキ様の足を治す光明を、私に見せてくれるかも知れない」
最終的には懇願に近くなったマサキの言葉を受けて、御門も村雨も、龍麻達に協力を申し出てくれた。
御門が、絶対の主である芙蓉も。
「有り難う、三人共。…………処でね」
彼等のそれを、至極嬉しそうに受け止め、が、直後。
ボソボソゴニョゴニョ、龍麻は京一と醍醐と頭を付き合わせ、小声で何やらを言い合い、うん、と揃って頷いて、三名の代表者の如く龍麻がマサキへと向き直った。
「何ですか? 緋勇さん」
「秋月君って、毎日色々、忙しいかな? 立場的に、スケジュールびっしりだったりする?」
「……は? え、ええと……まあ、確かに普通の人よりは忙しいと思いますけど、毎日毎日、そういう訳でもないですよ?」
「そう? じゃあさ、今月の二十九日とか、時間作れる? 年末だけど」
「予定を空けてくれということなら、空けますよ」
「わ、良かった! その日さ、仲間皆で忘年会しようと思ってるんだ。だから、良かったら秋月君達も来ないかな、って思って」
「え? でも、僕は…………」
「遠慮だけは絶対しないでね。俺達、もう仲間なんだし。たまには、普通のコーコーセーらしいこともしようよ」
己を振り返るや否や、にーーっこり笑って、何を思ったのか、忘年会! と龍麻は言い出し、マサキはきょとんと目を見開きはしたものの。
「…………はい」
嬉しそうに笑いながら、頷いた。
「……緋勇君。何を言い出すかと思えば…………。そのような席に出て、マサキ様に何か遭ったら──」
「──大丈夫だ。……御門なら知っているだろう? 飛水家を。会場は、飛水家の末裔の自宅だ。ここ程ではないだろうが、結界もそこそこは張られてる」
「だけどよ…………」
「……村雨。その、飛水の末裔な。骨董屋なんだけどよ。僕は、世俗のことなんか何も興味ありません、ってツラしてやがるくせに、麻雀が大の好物でな」
勝手に話を纏めてしまった龍麻へ、御門も村雨も、顔色を変えて異議を申し立てようとしたが、二人の『待った』は、醍醐と京一の『説得』によって遮られ。
「勿論、芙蓉さんもだからね!」
「楽しみだわ。皆で、年忘れをしましょうね」
成り行きに、全く付いて行けない芙蓉を、小蒔と葵が取り囲んだ。
「益々、賑やかになんなー、恒例の宴会」
「楽しみだねー」
「きっと、色々面白ぇぞ。──じゃ、何はともあれ、目の前の敵でも叩きに行くか。出来ることから一つ一つ、ってな」
「うん。……あのオカマな彼に攫われた皆の、仇取らなきゃ」
そうして彼等は明るく──努めて努めて、明るく。
手を振って、マサキに別れを告げてより、浜離宮を後にした。
阿師谷を追い掛け向かった、かつての阿師谷本家の本邸跡に当たる、江東区富岡の富岡八幡に張られた結界内にて、今回の事件だけではなく、それ以前から色々と、御門や村雨達とは個人的にも家系的にも因縁深い、阿師谷や彼の父である阿師谷導摩や、彼等親子が操る式神達との戦いを無事制して。
阿師谷親子に、『黄龍の器』のことを教え、『黄龍の器』を手に入れれば、世界を手に入れるに等しいと唆した『黒幕』がやはりいたことも、彼等は知って、その後。
未だ夕方だから、このまま龍山の所に行くなら車で送る、と言ってくれた御門達に、何故か龍麻は断りを入れた。
龍山の所へ行くのは、後日改めてにする、と。
その返答に、僅か御門は不満そうな顔付きになったが、敢えて、なのか、何も苦言は呈せず。
なら、と。
総勢八人が乗り込んでも楽勝なロングサイズのリムジンで、新宿駅まで送ってくれた。
…………龍麻以外の四名の正直な胸の内は、出来る限り早く龍山を訪ねて、全ての真相を知りたい、とのそれだったが。
誰よりも心中複雑なのだろう龍麻の言い分を汲んで、一日置いた、月曜の放課後、龍山の許を訪れようと決め、新宿駅前にて解散をした、が。
本当に気軽に行き来出来る距離にそれぞれの自宅がある龍麻と京一は、当たり前のように家路を共にして、結局、何時も通り。
龍麻が乞うでなく、京一が求めるでもなく。
そうするのが自然であると言わんばかりに、龍麻のアパートへ、二人揃って帰った。