買い出しに出掛けた近所のスーパーより戻って、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら夕飯を拵え、さっさと風呂に入り。

何時だって宵っ張りな京一も、そこそこには夜型の龍麻も、日付が変わる前に布団に潜り込んだ。

そして、翌朝。

二人は、普段よりも少しだけ、遠出をした。

常の彼等の遊び場は、どうしたって新宿で、仲間達の住む街まで繰り出すこともあったけれど、大抵は、東京の中の、見知った場所ばかり。

折角、東京で一人暮らしを始めたのに、そう言えば、東京都二十三区内から出たことがない、ディズニーランドもMM21も行ったことない、と龍麻が言うから。

男二人でディズニーランドは、一寸ゾッとしないので、手近な海でも見に行こうと、二人は電車に乗った。

砂浜のある海は、日帰りでは少々遠過ぎたし、横浜は京一も不案内なので、東京二十三区内より脱出、は結局叶わないけれど、行き先は、お台場を選んだ。

日曜のお台場とて、ディズニーランドに負けず劣らず、少年二人連れという組み合せに酷く侘しさを感じさせたが、彼等の目的は海だったから、侘しさは、一先ず忘れ。

海浜公園から水上バスに乗って、決して綺麗とは言えない東京湾なのに、ちゃんと冬の色を映し出している海を眺め、浅草で船を降り、二人共に余り縁のない下町観光と洒落込んだ後、どうせなら、東京タワーも昇っとけ、と、芝へ向かって東京の街を高みから眺めて。

夕刻過ぎ、新宿へと戻った。

本当に芸がないと馬鹿笑いをしながら、毎度の王華でラーメンを啜り、たまには趣を変えてと、新宿の片隅に今もひっそりとある、一軒の銭湯へ二人は行った。

湯上がりの瓶牛乳のお約束も果たし、湯冷めしない内に、と彼等が揃って帰ったのは龍麻の部屋。

缶ビール片手にテレビを見て、月曜の授業のことや、同級生達の噂話に花を咲かせて。

『女体の神秘』の話も、ちょろっと、こそこそっと、交わして。

彼等は、眠りに付いた。明日の為に。

京一も、龍麻も、一言も口にはしなかったけれど。

何時もよりも、少しだけ特別だった日曜を過ごす為に、二人は敢えて、何も彼も忘れ去った風にしていたけれど。

明日は必ずやって来る、それが判っていたから。

『黄龍の器』、その正体を知らされる、明日の為に。

少しだけ特別だった、けれど、何時もの週末と余り変わらない日曜の夜を、彼等は終えた。

明日、の為に。

迎えた月曜は、朝から時折、雨が舞っていた。

降っては止み、止んでは降って、と、空模様は落ち着かなかった。

けれど、天気予報は、雨は午後には必ず上がると言ったし、傘を差さなくても支障がない程度の雨だったので、京一も龍麻も、鬱陶しい傘を持ち歩くことはせずに登校した。

同級生で溢れる教室、皆と交わす言葉、授業、昼休み、怠惰な午後。

……全てが、何時も通りだった。

放課後を迎えても、尚。

──その頃には、もう。

朝の天気予報が言っていた通り、雨はすっかり上がっていた。

空を流れる雲の色は、未だに、鈍く重たいそれだったけれど。

約束通り。

はっきりしない天気の下の街を歩いて、龍麻達五人は、その日放課後、西新宿の龍山の庵を訪ねた。

十二月上旬も終わろうとしている今、竹林の中にぽつんと建つ、誠古風な作りの庵は底冷えがする為、九月の頃には沈黙していた囲炉裏には火が焼べられていて、パチパチと、激しい音を立てていた。

「……お上がり」

彼等を迎えた龍山は、火を囲んで座るように彼等へと勧め、茶も振る舞ってから。

「緋勇龍麻。御主に、真実を語る時が来たようじゃ……」

パチリ、と、時折火の粉を散らす囲炉裏の向こう側から龍麻を眺め、重々しく話し出す。

……龍麻達が何も言わずとも、何故、彼等が自分を訪ねて来たのか、龍山は、弁えているようだった。

「真実……、ですか」

「そうじゃ。……十七年前の出来事を。儂が、今の御主達と同じ立場だった頃の話を。…………御主の、両親の話を、じゃ」

「俺の、本当の両親を、龍山さんは、知っているんですか?」

「ああ。よく知っておる」

「そうですか…………」

──十七年前と言えば、己が生まれた頃だ、と。

唇を噛み締め、一瞬だけ龍麻は俯いた。

己がこの世に産まれ落ちた時、既に、『出来事』は始まっていたのか、と。

産まれ落ちたばかりの己には、どうしようもない、手の届かない所で。

……けれど、ぼんやりと思いながら俯いたその傍らから、暖かいを通り越し、痛い、と感じられる程の『陽光の如き氣』が注がれて来るのを感じ、落とした視線を龍麻は持ち上げ、再び、龍山と視線を交わした。

彼へと注ぐその視線の片隅に、己を見詰めてくれている、友の姿を留めながら。

「……緋勇弦麻。それが、御主の父の名じゃよ、龍麻」

俯かせていた面を持ち上げた時には。

この場限り、なのかも知れないけれども、龍麻の瞳からも頬からも、不安も戸惑いも拭い去られているのを見て取り。

龍山は、彼の父の名を伝えることより語りを始めた。