その低い声は、抑えようのない怒気を孕んでいて、仲間達は咄嗟に、京一を嗜める言葉を絞ることが出来なかった。
「京一……。……『ひーちゃん』じゃなくなってるよ。龍麻、って俺のこと呼んでる」
「龍……ひーちゃん……」
「俺のこと、龍麻って呼ぶ時の京一って、大抵、普段使わない頭使って、血が上ってるからさ。……駄目だよ、落ち着かないと。…………でも、ありがと」
「……そう……だな…………」
けれど、それまでの強張った顔を、ふ……っと緩め、龍麻だけは穏やかに笑い、親友を宥めた。
「……………………蓬莱寺。御主は、御主の師匠によく似ておるの」
龍麻に笑まれて、膨れ上がらせたモノをすっと納めた彼へ、好々爺の笑みを取り戻した龍山は、何処かからかうように言った。
「……っ! 冗談じゃねえ! 誰があんな馬鹿………って、え……? じー様、あいつを知ってんのか……?」
すれば京一は、カッと怒鳴り掛けながら、はた、と、告げられたことの意味に気付く。
「彼奴もな、十七年前、客家の村にいた。儂等と……弦麻と共に戦った、一人じゃよ」
「あいつも……。馬鹿シショーも、か…………」
「そうじゃ。それも又、運命。そして宿星の導き。…………今の御主達には、運命や宿星など、碌でもないモノとしか思えぬやも知れん。実際、運命も、宿星も、何時の世も決して優しくなどない。じゃがの、決して捨てたものでもない。御主達がそうして巡り逢ったのも、宿星の導きと思えば。……そうじゃろう……?」
『出来事』の時、京一の師も共に在ったことを彼へと伝えて、龍山は、龍麻達を見回した。
「……そうですね。俺もそう思います。運命だって、決して悪いものばかりじゃないと」
「うん! ボクも! 宿星のお陰で皆と巡り逢えたんなら、それは、良いことだって思う。……今までの数ヶ月、辛いことも沢山あったけど、皆と一緒だったから、ここまで来られたんだもん」
彼の視線に答えて、醍醐と小蒔は、俯かせ加減だった面を、はっきりと持ち上げた。
「はい。それは、私も思います。辛い時も悲しい時も、皆と一緒だったから、って……。……でも、龍山先生。どうして、『黄龍の器』である龍麻君を、その『凶星の者』は…………」
葵も又、力強く龍山へと頷きながらも、不安そうな上目遣いを見せた。
「……それに関しては、儂よりも遥かに詳しい者がおるでの。新宿中央公園に行って、楢崎道心から話を聞くと良い。『狂星の者』に関しても、『黄龍の器』に関しても。……数年前に中国から帰国したのに、儂等にも挨拶一つせん不義理者で、破壊僧じゃが。その道には儂等の誰よりも長けておるし、十七年前の戦いの折には、弦麻と共に、先陣を切って戦った男じゃしの」
「破壊僧って、あれだろ? よーするに、生臭坊主って奴だろ? 大丈夫なのかよ……」
「案ずることはない。儂が保証しよう」
尤もな葵の不安に対して、旧友を懐かしむ嬉しさを滲ませながら龍山は答えて、破壊僧? と顔を顰めた京一へも、にっこり笑ってみせた。
「有り難うございました、龍山さん。明日の放課後にでも、道心さんに会いに、中央公園へ行ってみます」
──話は随分と長くなってしまったし、もうこれ以上、龍山に語れることはないのだろう、と。
龍麻は頭を下げ、暇を決めた。
龍山に見送られつつ庵を後にし、言葉少ないまま竹林を抜け、一旦、彼等は全員で、新宿駅前まで赴く。
「………………あのな、明日のことなんだが」
駅東口広場の片隅にて、明日の放課後、改めて新宿中央公園へ行こうと彼等が決め合っていたら。
徐に、醍醐が口を開いた。酷く言い辛そうに。
「何? 醍醐」
「その……中央公園で道心さんよりの話を聞くのに……俺達だけじゃなく、如月とアランとマリィにも、声を掛けたいんだが、いいか……?」
「如月とアランとマリィ……?」
「何で、その面子なんだ? 俺にゃ、よく繋がりが見えねえぜ?」
らしからぬ、酷く辿々しい言い回しでの醍醐の窺いに、龍麻はきょとんとし、京一は、何故その組み合せだと眉を顰めた。
如月もアランもマリィも仲間だから、明日、共に道心の所へ行くのは構わないが、どうして『その面子』かと。
「実はな…………」
すれば醍醐は、十月最初の週末、修学旅行の土産交換会をした日、如月から聞かされた話を皆に伝えた。
「じゃあ……醍醐クン達は、四神の宿星を持ってるんだ……」
「成程な。……お前等四人が、時々、ミョーーな意思疎通や団結力見せてたのは、だから、か……。随分変わった組み合せだと思ってたが……」
「……ああ。あの時如月は、このまま何事もなければ、それは俺達だけで、と言っていたから、今まで黙っていた。それは、すまないと思っている。だが、俺も不用意に皆を不安にするのは、と思ったしな……。けれど、これ以上は、と考えたんだ。『黄龍の器』が、黄龍の宿星を持つ者、という意味なのかどうなのか、それは未だ判らんが、四神の宿星を持つあの三人にも、聞いておいて貰った方がいい話なんじゃないかと……」
「そうだね……。それは、俺も賛成。この先、どんな話を聞かされるか、何を言われるか判らないけど、黄龍がどうのとか、四神がどうのとか関係なく、俺達が『凶星の者』と戦わなきゃならないのは間違いないんだし。だったら、一緒に戦ってくれてる皆にも、知っておいて貰った方がいいかもね」
「私も賛成だわ。……全員に声を掛ける訳にもいかないでしょうから、明日は、私達と如月君達で道心さんの所に行って、お話を伺って、内容次第で、私達から残りの皆に話すのがいいんじゃないかしら」
醍醐よりの打ち明け話を聞き終え、仲間達はそれぞれ想いを口にし、なら明日は、如月達にも声を掛けて、中央公園へ行こう、と決め直し。
「マリィには、私から伝えておくわ」
「如月とアランには、俺が連絡を付けておく」
「うん、判った。宜しくね、葵、醍醐クン」
「連中に宜しくな。タイショー」
「有り難う、醍醐、美里さん。……それじゃ、又明日」
彼等はそれぞれ、帰宅の途に着いた。