色も光も上下もない、冥いだけの闇の中に、自分はいるな、と判り。
夢かな? と首を傾げれば。
……直ぐそこに、何やら、ほんわかと暖かいモノが在ることに龍麻は気付いた。
そこだけが、妙に暖かいな、と振り返れば、振り返った『其処』は、やはり、ほんわかと薄く光り始めたようだった。
何となく、凄ーーーーー……く、馴染みがある、これ、と。
ほんわかと暖かく、ほんわかと薄く光る『其処』を、彼は暫し、ぼんやりと眺め。
……あ、と。
ポン、と軽く、手を打ち鳴らした。
……否、打ち鳴らそうとした。
が、片腕は、どうも『何か』をしっかりと掴んでいるようで、己は、がっちりと掴んだ『何か』を、決して手放す気はないらしい、と悟り。
まあ、いいや、と。
『何か』をしっかり掴んだまま、打ち鳴らし損ねた片手を、ほんわかと暖かく、ほんわかと薄く光る『其処』へと伸ばした。
────『これ』は、『京一』だ。
『其処』は、『京一』のいる場所だ、と。
何の躊躇いもなく。
──すれば、直後。
『其処』へと手を伸ばした直後。
彼の瞳の裏に、眩しい光が飛び込んで来た。
天井から己を照らす、蛍光灯の、光が。
『夢』の世界から目覚めたばかりで、何が何やら全く判らないのに、一体何が遭ったのか、ドアップで迫って来た親友は、お帰り、お休み、と言い置いて、上半身を伏せるや否や、ガー……と寝始めてしまったから、きょとん、とする以外、龍麻には術がなく。
「京一? 何寝てるんだよ。京一ってば! ────………………え……? 比良坂さん…………?」
その体を揺すりながら、傍らに立つ少女を見上げた龍麻は動きを止め。
「大丈夫ですか? 龍麻さん。お体の方、平気ですか?」
「……え。……あ、うん。大丈夫。有り難う…………」
困ったように、恥ずかしそうに笑む彼女へと、目を見開いた。
何故、彼女がここにいるのだろう。これは、『夢』の続きなんだろうかと。
……が、直ぐに、確かにこれは現実だと悟った彼は、走馬灯のように、『それまでの世界』を思い出す。
ぼんやりとした意識の中で、夢だ、と思っていた先程の暗闇も、その手前にあった『世界』も。
「…………あ、れ……? 俺が今まで見てた夢って、夢じゃ、ない……?」
「……はい。夢じゃありません。夢みたいな世界でしたけど。……でも、本当の世界は、『ここ』ですよ」
「そっか……、やっぱり…………。──……えっっ? 一寸待って、今日は何日……?」
思い出した『世界』は、記憶の中で徐々に鮮明さを増し、紗夜の顔を眺めている間に、鮮明さは、鮮明、ではなく、リアル、となり。
現実に戻る直前、紗夜に言われた科白までをも、己の中より手繰り寄せた龍麻は、はっと、声を張り上げた。
「今日は、二十七……じゃないわ。もう、二十八日よ。十二月二十八日になったばかり」
彼の、大声の問いに答えたのは、葵。
「あれから、三日も経ってる……?」
「ええ、そうよ」
「もしかしてその間、この馬鹿、ずっと起きてた? ひょっとして、あれからずっと、寝てない?」
「……ええ…………」
思い出した、現実に起こった出来事、手繰り寄せた、もう記憶の中にしかない世界、出来事より過ぎた時間、眼前の紗夜、そして、枕元に突っ伏して寝ている京一。
それらがやっと、一本の糸のように繋がって、龍麻はガバリと跳ね起きた。
「迷子にならないように待ってるって、そういうことだったんだ……。……本当にもう、京一はっ! ──御免っ、醍醐、紫暮っ! この馬鹿、ベッドに寝かせるの手伝って!」
跳ね起き、ベッドより飛び下りて、何でこんな物が繋がってるんだと、パパっと点滴の管を己より引き抜いた彼は、何故か勢揃いしている──としか、彼には思えない──仲間達へと首を巡らせ、手伝えと、醍醐と紫暮を指名する。
「お、おう」
「……ああ」
起きて、しかもそんな風に動いて、大丈夫なのか? と皆は口々に言ったけれど、
「平気! 元気! 腹減ってるだけ!」
と龍麻は一蹴し、ゲシゲシと、乱暴にベッドへと持ち上げられても起きない京一の腰を、シーツの中央へ行くように押した。
──だから、目覚めた龍麻が騒ぎ出した所為で、病室内には、ざわざわとざわめきが広がり。
暫し、辺りは騒がしさに包まれ。
「…………………………お前達は……」
それを嗅ぎ付けてやって来たたか子に、ダンっ! と室内に踏み込まれた、異形のモノ達にも怯むことない、誠、肝っ玉の太い少年少女達は、マズい! と、身を竦ませた。