「…………なっ……!」
「えええええーーー!? 劉って、雛乃さんのこと好きだったのかっっ?」
「誰かのこと、想ってるんだろーなー、ってのは判ってたけど……雛乃さんだったんだ……」
「劉が……」
「……雛乃さん、を……」
「そうだったのか………………」
投下された爆弾発言に、劉は声を失い、雨紋は雄叫びを上げ、雛乃さんが相手だったかー、と龍麻はしみじみし、如月と壬生と醍醐は、鳩が豆鉄砲を喰らった如くの表情になった。
「……まさかとは思うが……誰も気付かなかったってかい……?」
「みたいだな。あんっなに、判り易いってのに。どいつもこいつも、色事に関しちゃ朴念仁なんだろうよ」
「潤いがねえってのは、ヤだねえ……」
「ちったぁ楽しみゃいいのにな、女のことも」
そんな彼等を眺め、村雨と京一は、野暮天の塊がいると、憐れみの目を向ける。
「……でもまあ、雨紋も、懸想の相手がいるようだし?」
「タイショーも、一筋だしなー」
「如月は、あれだろ? 同級生の誰だかと、何かあったらしいじゃねえか」
「あー。橘なんとか、だったっけな。確か」
「そうそう、それ。……ってことは、サミシーのは、先生と旦那と壬生だけか」
「壬生だって、その内に花が咲くだろ。そう遠くない未来。……そういうお前はどうなんだよ、村雨。フクザツー……な男心、抱えてんじゃねえのか?」
「………………一時期、女遊びが激しかったらしい旦那にだけは、言われたくねえな」
そうして二人は周囲を置き去りに、しれっと、言いたい放題の会話を交わし始めた。
「ちょ……一寸待ったっ! そこの遊び人二人っっ! え? え? え? 何で? 何で京一と村雨は、そんなに皆の恋愛事情に詳しいんだよ……」
余りと言えば余りなその会話に、一同がピキリと凍り付いて動けなくなる中、唯一遊び人同士の会話から除外された龍麻が、麻雀卓の方へとにじり寄った。
「見てりゃ判るって、ひーちゃん。俺や村雨に言わせりゃ、判らねえ方がどうかしてる。鈍過ぎ」
「鈍い……。鈍い………………。うううううう……」
「先生は、その辺、奥手そうだから。……ま、気にすんな。そういうことに下手に手ぇ出して、揉めるよりゃいいぜ?」
が、京一は龍麻の頭をガシガシ撫でて、村雨は何処となく胡散臭い笑顔を浮かべて、軽く龍麻をいなしてしまった。
「…………揉める? 具体例があるんだ?」
「揉めてる訳じゃねえけど。水面下では、ハラハラドキドキー、な関係があるだろ? ひーちゃん。身近に」
「身近……? あ、あああ! それは俺でも判る! 紅井と黒崎だろう? 二人共、本郷さんのこと好きだもんね。でも、本郷さんは、紅井寄り?」
「判ってんじゃえねか、先生。……って、それくらいは判るか、幾ら何でも」
「…………………………俺は、判らなかったぞ……」
すれば、交わされたやり取りの果て、今度は醍醐が落ち込んだ。
「タイショーに、色恋の聡さは期待してねえ。……してねえ、が。…………お前、小蒔とはどーなってんだよ。いい加減、白状しやがれ」
しかし、京一をしても結構な量の酒が入っている所為か、彼は、この集まりの中で最も付き合いの長い友人への労りを見せず、醍醐にしてみれば予想外の発言を投げ付けた。
「さ、桜井とは別に、そういう訳では……っ!」
──発言は、効果覿面で。
「……桜井さんは、以前僕に電話を掛けて来て、編み物の仕方を──」
「──言うなっ、壬生ーーっ!」
やっと、思考停止状態から復活を果たした壬生も、口を挟み。
「ええやんか、醍醐はん。白状したかて」
「そうそう。俺様も聞きたいぜー?」
「……僕も、参考までに」
自分だけが酒の肴にされてなるものかと、残りの三名も参戦した。
「………………………………そ、その……。イブの日にだな、桜ヶ丘に行ったは良かったが、薄情な誰か達はもういなかったから、そのまま俺達は別れたろう……? あの後、何となく、桜井と二人で帰ることになって……一度、桜井の家に寄った後、一寸だけ、あー……茶でも、みたいな話になって……。その時に、その……クリスマスプレゼントだと、セ、セーターを貰った。手編みの…………。……で、でも、それだけだっ! それ以上は何も無いぞっ!」
麻雀の手や、酒を呑む手までも止めて──尤も、約二名を除き、先程から彼等の手は止まりっ放しだったが──、洗い浚いぶちまけろ! と『この面子』に迫られたが為、渋々、顔を真っ赤にしつつ醍醐は、細やか……に打ち明ける。
「……何や。上手くいっとるんやないか、お二人」
「ちぇー。いいよなあ、醍醐さん」
「あの男女が、手編みのセーターねえ……。タイショーはちゃんと、何か返したのか?」
「………………桜井が……パンダが好きだと言っていたから、縫いぐるみを、そのー……」
が、追求の手はそれでも止まなくて。
「……色気がねえぞ、タイショー…………」
「……い、いいんじゃねえか? 可愛くて……」
遊び人二人には、進歩だとは思うが、もう少し色気のある物を、と『駄目出し』をされ。
「そ、そうか? 可愛過ぎたか……? せめて、口紅とか、そういう物の方が良かったんだろうか……」
軽い雄叫びを放って、醍醐は一人、やけ酒に走った。
「…………放っといていいのかい? 醍醐の旦那」
「平気だろ。あれも女を掴む為の試練だ。──続きやろうぜ、続き」
「そうだね。──今夜の借りは、この麻雀で返させて貰う」
「奇遇だね、壬生。僕もそう思っている。……この遊び人達にばかり、愉快な思いをさせてやる義理はない」
誠に珍しく、自ら酒に手を出した醍醐を放置し、一部は麻雀へと戻り。
「……呑もか。雨紋はん」
「…………そだな……」
劉と雨紋は酒瓶を抱き抱え直して。
「いいなーー。俺、麻雀判んないんだよねーー……。これ以上は、酒も一寸、だしなー……」
年相応の、愉快な話が終わってしまったと、龍麻は詰まらなさそうに、ドスリと、京一の背中に遠慮なく、体重を預けた。