どれ程の数の剣鬼達が溢れたのかも判らぬ境内に、バラバラと仲間達は散った。

二、三人ずつに分かれ、必ず、誰かが誰かをフォローしながら、行く手を阻む鬼達を、言葉通り、彼等は蹴散らして行った。

……しかし、どうにも、と言いたくなる程その数は多く、唯一人の倒すべき相手、柳生は遠かった。

剥き身の剣を握りつつも、彼等の死闘を、静かに、そして愉快に傍観している風に、柳生宗崇は口許に笑みすら刷いて、石段前に佇み続けていた。

「あんの野郎っ! 涼しい顔しやがってっ。薄ら笑い浮かべてられんのも、今の内だと思えっ!」

立て続けに奥義を放ち、何人かの剣鬼を吹き飛ばして、柳生の許目指して駆け出し……が、直ぐさま、後から後から襲い来る剣鬼達に道を塞がれ、京一は怒鳴り声を上げる。

「剣鬼なんかに、構ってる暇は無いのに……。……あいつさえ倒せれば……って言うか、あいつだけを倒さないと意味が無いのにっ!」

常通り、京一と互いの背を護り合いつつ戦う龍麻も、苛立ちを隠せない風に、呻きにも似た呟きを零しながら、剣鬼を排除し続けた。

でも、それは何時まで経っても終わりを見ない、キリのないやり合いと思え始めて。

彼等は少しずつ、焦りを覚えずにはいられなかった。

──龍脈が彼等へ与えた『力』は、或る意味では無限なのかも知れない。

龍脈がこの世から消え去らない限り、溢れ続ける『力』なのかも知れない。

けれど、その『力』を奮う彼等は、生身のヒトであり。

彼等の戦いの術の根底にある『氣』を練り上げ、それをそれぞれの得物なり拳なり脚なりに乗せ、放ち続ける行為は決して、無限に行えることではない。

やがて、必ず。

限界はやって来る。

…………一月二日、午前零時、という、最初の『タイムリミット』は、疾っくに過ぎてしまった。

次の『タイムリミット』は、『黄龍の器』──陰の器とされた何者かに、龍命の塔が吸い上げた、龍脈の力が注がれ切るまで。

それまでに、何としてでも、柳生宗崇を倒さなくてはならない。

……そう、『時間』は限られている。

奮える『力』も。

────なのに。

「どうしよう、このままじゃ、あいつに辿り着く前に、時間切れが来ちゃうよっ!」

「それは判っている! 判ってはいるが……」

「ええ。相手が、多過ぎるわ……」

息つくもなく矢を番えつつ、余りの敵の多さに小蒔が焦りを口にすれば、醍醐も葵も、どうしようもない、と肩で息をした。

「……ね〜え〜。ひーちゃ〜ん〜。ちょ〜っと、乱暴なこと、してもいいかしら〜?」

と、彼等より少し離れた所から、少々場違いなトーンの、ミサの声が飛んだ。

「へっ? 乱暴なこと……?」

「……おい、裏密っ! お前、何やらかす気だ?」

「う〜ふ〜ふ〜。ミサちゃ〜んの〜、とっておきの秘術、見せたげる〜〜」

超絶オカルト少女が自ら、『乱暴なこと』と例えるそれは何だと、一瞬、己達の置かれた状況すら忘れ去って、龍麻も京一も、ぎょっとミサを振り返ったが、彼女はケロリとしたまま。

「皆〜、退かないと知らないよ〜〜〜。────イェルシャライィムに降り立ちし偉大なる王ソロモンの、小さき鍵に封じられし七十二柱ななじゅうふたはしら。全方角の支配者定める天頂の図より、今解き放たれよ。捧げられしこの地の贄を、悉く屠ること、ソロモン王の望みなり!」

ニタっと笑いながら、中空に指先で魔法陣を描きつつ、呪文を唱えた。

すれば途端、異界の中の宙に、更なる異界の口がパクリと開き、ミサの呪文により召還された、正しく悪魔が、数多、姿を現した。

「これ〜、凄く体力使うから〜、あんまり長くは保たないけど〜〜」

「…………裏密さん……。何者…………?」

「……悪魔って、ホントに召還出来んだな……」

呪法が上手くいったことを喜んでいる様子のミサを横目に、召還された悪魔達が剣鬼達を屠って行くのを、ぽかりと口を開けたまま眺め、凄い……、と龍麻や京一達は、唖然とする。

「馬鹿面を晒している場合ではありませんでしょうに。裏密さんが呼ばれた折角の『援軍』なのですから、この機に乗じて一人でも多く、柳生宗崇の許へ向かった方がいいと思いますよ。──オン・バラ・ダ・バ・ザラ・ダン、四角四堺・鬼邪滅殺!」

そんな彼等へ、御門は溜息を付きながら言って、手にした錫杖にて石畳を一度強く突き、ミサに負けず劣らずの、強烈な呪を唱えた。

「……それも、そうだな」

「驚いてる場合じゃなかったっけ」

シャラリと鳴った錫杖を中心に膨れ上がって、辺りへと散った、強い、魔を折伏する光に、いけない、と龍麻達は我を取り戻し。

「悪魔だろうが何だろうが、手助けは有り難いってな。……道が開けた、今の内だ!」

刀の柄を握り直し、真っ先に駆け出した京一を先頭に、仲間達は剣鬼の隙を突きつつ、柳生へと迫った。

────倒すべき、唯一人の相手。

その者へ、今、決着を付ける為の手は、届きそうだった。