「I never pardon, if you go wrong」

「Ok, Don't be too hard on me, small lady」

「Go along, Ash Storm!!」

ミサや御門に続き、アランとマリィがアッシュストームの方陣を仕掛け、先ず、活路を開いてくれた。

「姉様! ──鳴弦・草薙!」

「おうっ! ──落雷閃っ!」

「もう一発だっ。……落雷閃っっ!」

雛乃が放った聖なる数本の矢に、雪乃と雨紋が技を被せ、柳生へと続く細やかな道を、巫女の法力と邪を払う雷の力で以て織り成した結界にて、守ってくれた。

他の仲間達は、龍麻達と共に、開かれたその『道』を駆け抜けながら、一人、又一人と、『道』を途切れさせぬ為に留まり。

「神に仕えし大いなる力、四方を守護する偉大なる五人の聖天使よ、ジハード!」

「奥義・九龍烈火っ!!」

柳生が直ぐそこに迫ったと見るや、葵と小蒔はそれぞれ『力』を放ち、彼の盾となっていた剣鬼達を焼き払い。

「虎咆!」

それでも尚踏み止まった鬼を、醍醐が吹き飛ばした。

「剣聖! 陽炎、細雪っっ!!」

──仲間達全ての力で開かれた、『道』の先。

開けたその一直線上に一人立つ、柳生宗崇へ向け京一は、正眼に構えた剣先に、必殺の氣を乗せて放ち。

「秘拳、鳳凰っ!」

龍麻も、低く身を沈め、膨れ上がる氣を迸らせる拳で、石畳を強く叩いた。

京一のそれと全く同時に、彼の拳より繰り出された技は、一筋の、紅蓮色の光となって、石畳の上を低く疾り、翼持つ生き物の王である神鳥の、高い鳴き声と共に柳生へ迫った。

「愚かな」

自らを貫かんばかりに迫り来る、紅蓮色の一筋の光を、失笑と共に太刀より振った技で、柳生は相殺しようとし、が、秘拳・鳳凰の威力が霞んだと思えた瞬間、ふわり、と、まるで蛍火のように灯った、白く淡い、けれど爆発的な威力を持ち得る、剣聖・陽炎細雪の光に包まれ。

「うぐっ……」

彼は一瞬、呻きを洩らした。

「…………貴様等……。そうも、死に急ぎたいか! 乱れ緋牡丹!」

ヒトである者達の『力』に、刹那の時でも怯んだこと、その技に、己が身を傷付けられたこと。

……それに、柳生は怒りを露にし、鬼気迫る形相となって、両手で柄を握り直した刀を振り被り、巨大な氣の塊を、彼等へと向けて放出する。

「剣掌・発剄!」

「拳底・発剄!」

しかし、余りにも大き過ぎる氣塊を前にしても、矢面に立った京一と龍麻は怯むことなく、それぞれ奥歯を噛み締めながら、氣を打ち消す為の剄を同時に繰り出し、そのままそこで踏ん張った。

「……誰が、死に急いでるって?」

留まる間もなく技を放ち続けたが為の汗が、だくだくと伝う額を、グイっと左手の甲で拭いながら、それでもニヤリと京一は不敵に笑った。

「寿命は、きちんと全うするつもりでいるよ。……ねえ? 京一」

「おう。俺達にお迎えが来るのは、大往生の時だけだ」

汗に濡れる、長過ぎる前髪をふるりと払って、相棒の癖が移ったのか龍麻は軽口を叩き、減らず口が専売特許の彼の親友も、それに一口乗った。

「ヒトの分際で…………っ」

「さっきから、うるせぇな、ヒト、ヒトって。……ああ、俺達ゃヒトだよ。それがどうした。てめえだって、そもそもは、そのヒトだろうが。寝言は寝て言え、唐変木」

「……そんなこと求めてみても、無理だと思うよ、京一」

ギリギリと唇の端を噛み締めた柳生へ、ケッと京一は呆れたように言い、無理無理、と龍麻はあっさり首を振る。

「おっ。言うねえ、ひーちゃん」

「……陽の器。貴様などにコケにされる覚え、俺にはないぞ」

「コケにしてる訳でも、馬鹿にしてる訳でもない。俺は、思ったままを言ってるだけ。──柳生宗崇。あんたはきっと、夢を見ているんだ。寝ても醒めても消えない、夢の世界にいるんだ。……何で、あんたがそんなことを願い始めたのか、俺には知る由もないし、知りたいとも思わないけど。あんたは、自分だけが望む世界が欲しいって、そんな夢だけを見てるんだ。望む世界を手に入れたからって、何がしたい訳でもない、俺達が眠りながら見る、あの夢と同じ、只の夢。……ううん。只の夢よりも、それはきっと、尚悪い。醒めることのない、叶うことのない、叶っても叶わなくても大差ない、夢見るだけの夢。……あんたは、多分。そんな世界にいるんだ。なのにあんたは、それが夢だって、気付いてない」

「……………………面白いことを言うな、貴様。……俺の望む世界。今正に手に入れようとしている、百数十年の昔から渇望し続けて来た世界。それを手中にすることが、叶うこともなく、醒めることもない夢、だと……?」

「ああ。あんたの考えてること、あんたが望むこと、そんなのは皆々、俺には、只の夢にしか思えない。……だって、そうじゃないか。龍脈の力を手に入れて、陰の黄龍の器を意のままに操って、この街を、世界を、混沌の陰で満たして。……そうして、あんたは何がしたいんだよ。その先に、何を望むんだよ。何で、世界が欲しいと思う? 復讐? それとも、単なる欲望? 世界を手に入れてまで、あんたは何を護るんだよ。何を掴みたいんだよ。あんたの中には、そんなこともないんだろう? だったら、そんなのは、眠りながら見る夢と一緒じゃないか。どんなに細やかだとしても、どんなに小さかったとしても、確かに護り抜きたいモノの為にこうしてる俺達の方が、よっぽど地に足が付いてる。あんたが、『如き』呼ばわりする俺達の方が、あんたより遥かに、生き物としてまともだ」

……穏やか、とも言える顔付きで、真っ直ぐ柳生の瞳を見詰め、思うままを龍麻は告げた。

「貴様……、減らず口を……っっ!」

「減らず口だろうが何だろうが、何度でも言ってやる。……少なくとも、俺達の方が、あんたよりもまともな生き物だ。俺達は、あんたを倒すことが本当の目的じゃない。この街や世界を護ることだって、目的じゃない。単なる手段。俺があんたと戦うのも、この街や世界を護る為にこうしてるのも、護りたいモノを護る為の手段でしかないから。……俺は、何度だって同じこと言うよ。俺達は、夢を食べてるだけのあんたになんか、絶対に、負けない」

だから柳生は気色ばんだが、力強い龍麻の声は続いて。

「……寝ても醒めても、夢だけを食べ続けて、だからてめえは、起きたまま寝言をほざくってか。……だったらいい加減、醒めない夢とやらから、醒してやらなけりゃだなあ。…………てめえは、やり過ぎた。誰にも許されないくらいに。……せめて、高が夢を見続ける為だけに、それを食べ続ける為だけに、てめえがやったこと、てめえが踏み躙って来た沢山の奴等、それに詫びながら、本当に眠りやがれ!」

所詮こいつは、単なる寝惚け野郎かと、唾を吹き掛けた柄を握り直して、京一は再び。

「もう、問答は終いだ。──剣聖・天地無双!」

渾身の奥義を放った。