運命という言葉を、京一は信じていない。
そんなものが、この世に存在していることも、そんなものに、自分の一生が定められていることも、有り得ないとさえ思っている。
けれど、もしもこの世に運命というモノが存在するとするなら、それは、自らの手で切り開いて進んだ道の果てで、自ら掴み取ったモノを指すのだと。
彼はそう信じているし、又、そう信じたいとも思っている。
龍麻も、又。
運命という言葉を、余り快くは思っていない。
……運命、それは確かに有り得るのかも知れない。
運命は確かに、この世に存在しているのかも知れない。
けれど、運命は『あやふや』だ、と。
望めば望んだだけ、そして臨んだだけ、刻々と移ろって行くモノであると。
彼は、そう思っている。
…………今、自分達がこうしているのは、自らの意思故だ。
細やかでも、どれ程小さく思えても、確かに護りたいモノを護り抜く為、自ら選んだ道の果て、自分達はこうしている、とも。
運命を信じない彼、運命は『あやふや』だと思っている彼、そんな二人は。
確かに、心からそう思っている。
……………………でも。
眼前で、小山よりも尚大きく聳える体躯をうねらせ、咆哮を上げる伝説の生き物に挑もうとしている自分達を、何処か他人事のように眺める、彼等の心の一部分、は。
……思い出していた。
瞼の裏に、『記憶』を甦らせていた。
浜離宮恩賜庭園で、マサキに見せられた、あの絵を。
これが、自分達の未来の姿だ、と宣告されながら見せられた、黄金色の龍と戦う己達が描かれた、あの絵を。
そうして、思い出してしまった、瞼に甦らせてしまった、あの絵の中の己達と、今こうしている己達を、彼等は重ね合わせて。
だけれども。
全てを振り払うように、京一は刀を、龍麻は拳を、それぞれ翳した。
黄龍に挑む二人の後ろ姿を、遠目に見遣りながら。
彼等が、この刹那に想うこと、それを知らぬまま。
一瞬、何かを躊躇う風な素振りを見せて、しかし、思い切ったように、キッと顔を持ち上げ。
ミサは、人差し指を立てた右手を、すっと中空に持ち上げた。
何も無い宙に、『何も無いモノ』で、悪戯書きをするかのように、立てた指先を動かし。
「Eloim Essaim frugativi et appelavi. ──開け、ソロモンの大いなる鍵」
輝く魔法陣を敷くと、彼女は呪文を唱えた。
呟かれた呪が消えた途端、彼女の眼前のみで小さく描かれただけだった筈の魔法陣は、ブワリと広がり、辺りを覆い。
陰の力で満たされた、結界の一種を創り上げた。
「祓ひ賜ひ清め賜ふと申
ミサの敷いたそれに気付き、その意図にも気付き、御門は祝詞を唱え、彼女の『結界』とは真逆の、陽の力で満たされた結界の一種を生み出し、故に。
ミサのそれに触れれば、珠達が生み出す陽の氣は打ち消され、御門のそれに触れれば、珠達が生み出す陰の氣は打ち消される。
……そういう場が、何とかでも出来上がった。
「ひーちゃ〜ん達、ど〜なるのかしら〜……」
「……さあ? 判りませんよ、そのようなこと。──判らないのが未来。私達は、確立された未来を識り得ない。……貴方が、そう言ったのですよ。つい、先程」
敷き終えた自らの呪法を眺めて、うん、と頷いてから、ミサは間延びした声を出し。
御門は、白扇で口許を覆い隠した。
ミサと御門が結界を敷いたその手前では。
「参りますっ!」
「景気良く行こうぜっ!」
雛乃と村雨が、障壁を生み。
「行っくよー、葵!!」
「ええ、頼りにしてるわ、小蒔。──さあっ」
「楼桜友花方陣!!」
──小蒔と葵が。
「今こそ、乙女の力集め、示す時! 妖華三方陣!!!!」
──亜里沙と舞子と芙蓉が。
「演舞・春雷の舞!!」
──雨紋と雪乃が。
「今、必殺の!! ビッグバンアターーーーック!!!!」
──紅井、黒崎、桃香のコスモレンジャー達が。
「行きますよ、紫暮さん」
「応っ! 行くぞ、壬生っ」
「必殺! 武神龍撃陣!!」
──壬生と紫暮が。
「紗夜ちゃん」
「うん、さやかちゃんっ」
「せーの、歌仙・桜吹雪!」
──さやかと紗夜が。
それぞれ、方陣技を放ち、珠達を徐々に一箇所へと追い立て。
「行っくでーーっ! 天吼前刺!」
「旋・三連!」
更に、劉と霧島が、剣圧の壁を拵え。
「東に少陽青龍!」
「南に老陽朱雀!」
「西に少陰白虎!」
「北に老陰玄武!」
「陰陽五行の印以て、相応の地の理を示さんっ。四神方陣っ!!!!」
アランと、マリィと、醍醐と、如月は。
四神の方陣を唱えた。