仲間達が、珠の力を封じるべく、力を結集していた頃。

「食い止めりゃいいんだろっ? ぶちかますぞ、ひーちゃんっ! ──秘剣、朧残月っ」

「そうっ。時間が稼げればいいっ! 効く効かないなんて、この際関係ないからっ。──螺旋掌!」

「おっしゃ、そういうことならっ! 陽炎、細雪!」

「盾になれば充分っっ。秘拳・鳳凰っ!」

一所に浮かび続ける黄龍へと近付いた京一と龍麻は、己達の技が通用しようがしまいがお構いなしに、立て続けに奥義を放った。

何はともあれ、あの珠達を破壊してしまうのが先決と、技と、己達自身で、黄龍を引き付け続けた。

背後で上がり続ける仲間達の声、繰り出され続ける方陣技が生み出す音、コーーーン……と響き続ける珠達の共鳴、それを聞きながら。

「……踏ん張り所だな。──おりゃあっ、もう一発っ。剣掌・鬼剄!」

「あの、八つの珠を壊せれば、少しは状況変わる筈だからっ。……巫炎っっ」

止まらなくなった汗を無理矢理払って、唯、ひたすらに。

「取り敢えずは、上手くいってるか? 時間稼ぎ」

「うん、そんな感じ」

──力の限り、技を放ち続けて、肩でしか息が出来なくなっても、動くことを止めず。

黄龍を引き付け続けた彼等のそれは、成功しているかのように思えた。

…………しかし。

咆哮を上げることさえ止め、眼前で生み出され続ける彼等の奥義をじっと見詰めているだけの風情だった黄龍が、突如、身を波打たせた。

蛇が、鎌首を擡げる風な動きを見せ、薄く開かれていた両の瞳を、カッと見開き。

黄龍は、あぎとを開く。

そうして、喉の奥より、光の塊を吐き出した。

「くっ……。……ふざけんな、連中にまで当たるだろーがっ!」

「それは……一寸、卑怯……っ! ──円空破っっ」

「奥義、円空旋!」

全てを飲み込むような、目映過ぎる光の塊。

それが、己達目掛けて吐き出されても、彼等は、逃れる訳にも、退く訳にもいかなかった。

何としてでも二人だけで食い止めなければ、珠を抑え込もうとしている仲間達までもが、光の塊に飲まれてしまう、と。

細やかなれど、障壁の役目も果たしてくれるだろう技を、京一と共に龍麻は生んで、襲い来る衝撃に身を固くした、が。

刹那、クイ……っと軽く、相棒に肩を引かれ、バランスを崩し、尻餅を彼は付いた。

その隙に、京一は龍麻を庇うように、数歩前へと踏み出し。

「剣掌・鬼剄っ!!」

再度、彼は技を生み出して、生んだ力を、眼前に迫った光の塊へ叩き付けた。

直後。

親友の名を叫ぶ間も与えられず、龍麻は、音すらない、衝撃だけに満ちた光に襲われ、一瞬、意識を遠退かせた。

が、何とか自ら、自らを引き留めて、光の洪水に包まれた所為で霞む視界の中、ギシギシと派手に軋む、あちらこちらが血塗れの体を引き摺り。

「京一……っ」

彼は、相棒の姿を探した。

「……京一? 京一っっ」

………………求めた姿は、直ぐそこにあった。

背中を丸め、踞るようにしている彼は、眼前にいた。

それに気付き、腕を伸ばして肩を揺すれば。

「………………大丈夫……か……?」

己よりも尚酷い有り様になった京一が、絶え絶えの声で振り返った。

「馬鹿っ! 何で……っ」

「……共倒れになる訳にゃ、いかねえだろ……? 未だ、珠は……」

「だからって……っ!」

「……文句は後で聞く。お小言込みで、たっぷりな……。……俺なら、大丈夫だから。これさえ防ぎ切りゃ、きっと、何とかなるんだ。だから今は未だ、盾の役目、続けねえと……」

「………………そうだね。……でもっ。その代わりっ! 全部終わったら、説教してやるっっ!」

「判ってるって、覚悟してる。──さあ、続きだ、ひーちゃんっ」

「うんっ。もう一踏ん張りするよ、京一っ!」

何故、己を庇うような真似をしたのだと、龍麻は声を荒げたが、共倒れだけは駄目だと京一は真顔で言って、そんな彼に、何も彼もが終わったら説教、と庇われた彼は怒鳴って。

二人は、互いを支え合うように、血に塗れた体を引き摺りつつ、立ち上がった。

…………そして。

もう少し、もう少し、と。

ひたすらに、剣を、体躯を操りながら、黄龍と対峙し続け。

これ以上、どう足掻いても氣を振り絞れぬ限界点を、二人揃って、直ぐそこに見た時。

「陰陽五行の印以て、相応の地の理を示さんっ。四神方陣っ!!!!」

彼等は背後に、四神の宿星持つ四人の仲間の、高い声を聞いた。

方陣技の完成を示す、呪の唱えが終わった瞬間。

ビシッ……と、空間が割れたかのような強く激しい破壊音が幾重にも湧き上がって、その、最後。

パキン……と、何かが砕けて行く音がしたのも。

彼等は、背中の向こう側で。

確かに、聴いた。