常よりも少しばかり沈んだ声で、「いらっしゃいませ〜」と応対に出た舞子は、落ち着かぬ風情で佇んでいる仲間達に、やっぱりね、という顔付きで微笑みを送ってから。

「本当はぁ、京一君は未だ、面会謝絶だからぁ、お見舞いは出来ないんだけど〜。…………院長先生には、内緒ねぇ?」

バレない内に、早く早く、と皆を手招いて、いそいそ廊下を進み始めた。

「今度はねぇ、ダーリンが、京一君の傍から離れないの……。でも、皆で説得すれば、ダーリンだって──。………………あれ? あれ、あれ? ……ダーリンっっ?」

こそこそっと足早に廊下を進み、辿り着いた別棟の、例の病室の扉をそうっと開いて首だけを突っ込み、中の様子を窺い。

彼女は慌て出す。

「どうしたの? 舞子」

「……ダーリンがいないのぉ……。三十分くらい前かなぁ、ここにいるの、舞子、ちゃんと確かめたのにぃ。……どうしよう、亜里沙ちゃんっ!」

ワタワタと騒ぎ出した彼女へ、何をしているのだと亜里沙が問えば、舞子は、龍麻が消えてしまったと泣き出し。

「お手洗いか何かに、立っただけじゃあ……」

「……食べる物か飲む物を、買いに行った、とか……」

覚えた嫌な予感を振り払うように、小蒔と葵は顔を見合わせたが。

「探そう。一寸席を立っただけならいいが、そうでなければ……」

心にもないことを言ってみても仕方無いと醍醐は言って、仲間達は手分けして、院内や、院近辺に龍麻がいないか探した。

「……いたか?」

「いや、何処にも」

「こっちもや。アニキの姿、何処にもあらへん」

「何処に行かれてしまわれたのでしょうか、龍麻様……」

近くを手当たり次第に探し歩き、が、彼の姿は見当たらないと知り。

仲間達は徐々に、不安の色を濃くした。

脳裏の片隅に浮かぶ嫌な予感が、どうしても、拭えなかった。

「……思い詰める……よね……。黄龍のこととか、京一君のこととか……。あんなことになったら、誰だって思い詰めるわ……。龍麻君、まさか……」

駄目だ、と一先ず桜ヶ丘の正面玄関に戻り、困り果てた顔になった、雨紋や雪乃や劉や雛乃に混ざって、桃香が、ポツっと呟いた。

「そりゃ……そりゃ誰だって、思い詰めるとは思うけど、だからって師匠は、馬鹿なこと考えるような、弱い男じゃないぞ!」

「そうだぞ、本郷。彼は、俺達の仲間、コスモグリーンだっ」

そんな彼女を、紅井と黒崎は強く励まし。

「ミサちゃ〜ん、ひーちゃ〜んが何処に行っちゃったか占ってみる〜〜」

ゴソゴソと、コートのポケットを漁って、ミサは、小さな水晶玉を取り出した。

「何時も霊研で使ってる奴じゃないから〜、きちんとは判らないかも知れないけど〜。──Eloim Essaim frugativi et appelavi.エロイム,エッサイム,フルガティウィ.エト.アッペラウィ………………」

ちょん、と水晶玉を片手に乗せて、ブツブツと呪文を唱え始めたミサは、何やらが映り始めた──としか、彼女を取り囲んだ仲間達には思えない──そこを凝視し。

「………………駄目〜。金色の光しか視えない〜。黄龍か〜、ひーちゃ〜ん〜自身が〜、ミサちゃ〜んの霊視、邪魔してる〜〜」

少しばかり気落ちした風に、肩を落とした。

「ミサちゃんの霊視も、弾き返すなんて……」

「……では、私が試してみましょう。占いの方は、裏密さんには敵いませんが……」

その結果に、杏子は目を丸くして驚き、御門は懐より、碁石が詰まった袋を取り出して、その場に片膝付いた。

小さな袋より無造作に掴み出した碁石を、暫し手の中で弄び、アスファルトの上へ転がして、その行方を彼は見守る。

「……やはり、駄目ですね。意味を成さないことしか出ません。……でも、一つだけ言えることがあります。緋勇か黄龍は、私達が彼を探していることに気付いても尚、行方を晦まそうとしている、と」

出された占の結果に、軽い溜息を一つ零し、やはり駄目だと告げながら、彼は立ち上がった。

「もう一つ〜。ミサちゃ〜んの水晶玉に映った金色の光は〜、結構濃かったから〜。ひーちゃ〜ん〜は、未だ新宿の何処かにはいるよ〜」

ミサはミサで、自身の分身のようなフェルト人形の両腕を掴んで振り回しながら、龍麻は未だ新宿にいる、それだけは間違いない、と言い切り。

「……探そう」

「言われなくとも」

如月と醍醐は、頷き合った。

「先生なら、直ぐに見付かるさ。……俺達ゃ、ツイてるんだから」

「……そうですね。今ばかりは、お前の無駄に良い運に、頼ってみたい気もします」

「一言多い女だな。あ? 芙蓉ちゃんよ」

新宿中を虱潰しに探してでも、と言う彼等に、村雨と芙蓉は言い合いをしながら、それぞれ左右に分かれ。

「あたし、新宿駅行ってみるわ」

「なら私は、西口の、高速バスターミナルの方、行ってみます。行こう、霧島君」

「うん、そうだね、さやかちゃん。……じゃあ、皆さん、又後で」

杏子とさやかと霧島は、駅の方へと走って行った。

「俺は、真神の方へ行ってみる」

「僕も行きますよ、紫暮さん」

「あ、私も行きます」

紫暮と壬生と紗夜は、真神学園方面を目指し。

「姉様、龍山先生の庵へ、伺ってみましょう?」

「そうだな。行くぞ、雛っ」

「ほんなら、わいは、中央公園辺り、探してみよか」

雛乃と雪乃と劉は、西新宿方面へ。

「アラン。俺様達は、繁華街の方、当たってみようぜ」

「Yes.急ギマショウ」

雨紋とアランは、新宿通りへ。

「じゃあ、私達、もう少しこの辺探してみる! 行きましょうっっ」

「おうっっ」

「行くぞ、ブラック、ピンクっ」

コスモレンジャー達三人も、桜ヶ丘周辺へと散って。

「ボク達は、ひーちゃん家、行ってみようよ」

「そうね」

「ああ。どうするにせよ、一旦は自宅へ帰るかも知れない」

「葵お姉ちゃんっ。マリィもっっ」

「あ、待って! あたしも一緒に行くよ!」

「僕も行こう」

小蒔、葵、醍醐、マリィ、亜里沙、如月の六人は龍麻のアパートへ向かい、看護師として京一に付いているのが役目の舞子、もう少し占いを続けてみる、と言ったミサと御門の三人は、桜ヶ丘に残った。