逡巡を繰り返しながらも進めてしまった足は、とうとう、京一の自宅が目前に迫る所まで辿り着いてしまった。

でも、だからと言って、どうする訳でもなく、どうすることも出来ず、京一の両親に対する申し訳なさまで募って、自分は一体何をしているんだろうと思いながら、漸く彼は、元来た道を振り返った。

「………………いたっ! 見付けた、ひーちゃんっっ!!」

「龍麻、探したんだぞっ!」

──と、小さく小さく背中を丸めて、トボトボ、青梅街道の方へと戻り出した彼の背へ、鋭い声が掛かり。

桜井さんと醍醐の声だ、と、ギクリ、身を竦ませた彼は、全速力で走り出したが。

「龍麻君、どうして逃げるのっっ」

「何処行こうってのさ、龍麻っっ」

「龍麻お兄ちゃんっっっ」

どうやら、京一の家の周囲を、手分けして彷徨うろついていたらしい仲間達──葵と亜里沙とマリィに、行く手を塞ぐように立ちはだかられ、ならば脇道、と身を翻した処で。

「追い掛けっこは、終わりにさせて貰うよ、龍麻」

フッと、影から飛び出して来た如月に、乱暴に腕を掴まれ、彼の逃避行は終わった。

「良かったあああ……。探したんだよ? ひーちゃん」

「そうだよ。アパート行ってもいないし……、だから、この辺り手当り次第に探してたんだ、あたし達」

「……あの、えっと……その………………」

「兎に角、行きましょう。ここで話していたら、ご近所に迷惑が掛かるわ」

「そうだな。だが、桜ヶ丘でも……」

「取り敢えずは、中央公園でいいんじゃないかい?」

如月に掴まれたのと反対の腕を、ガシッと醍醐に取られ、前後を少女達に挟まれ、まるで、連行される風に。

逃避行を打ち切られた龍麻はそのまま、新宿中央公園へと引き立てられた。

冬故に早い日没が近くなった、中央公園へ向かえば。

道すがら、醍醐達が激しく取り合った連絡が行き渡って、それ程待たぬ内に、仲間達全員が、息急き切って駆け付けて来た。

……そうして、一同が顔を合わせるなり始まったのは、龍麻に対する、怒濤のような、説教。

座れと言われ、身を小さくして座ったベンチをぐるっと取り囲まれ、それはもう、延々、延々。

片っ端から。

どうして勝手に消えようとしただだの、何で自分達から逃げたんだだの、何処へ行くつもりだった、馬鹿なことを考えたんじゃないのか、だの。

頭ごなしに浴びせ掛けられて。

「御免………なさい…………」

説教が一段落した頃、膝の上で組む風に両手を握り締め、深く俯き、とてもとても小さな声で、ぼそっと彼は皆に詫びた。

「…………で? 結局の処、どうして、俺達からも逃げようとしたんだ、龍麻」

手酷い悪戯をして、こっぴどく叱られた子供のように、囁きのトーンで詫びる彼へ、皆に責っ付かれ、代表の形で醍醐が問い質しを始める。

「だって、それは…………。その…………」

「その? 言いたいことがあるなら、きちんと言った方がいいと思うぞ。皆、気が立っているからな」

「……えっと……。……京一が、あんなことになって……どう考えても、それは俺の所為で……それに、俺の中には、黄龍が……。……だから…………」

「だから、京一や俺達から離れて、一人で何処かへ行こうと思った、という訳か?」

「うん………………」

「……龍麻。お前、少し錯乱してるんじゃないのか?」

「…………っ! そんなこと、ある訳ないだろうっっ。俺なんかが今まで通りにしてたって、皆に迷惑掛けるだけだし……っ。『こんなの』とは、これ以上関わらない方が、誰だって……っ! ………………もう……もう、『こんなの』は、『世界』には要らない、邪魔なモノなんだし…………」

問われたことに、問われるまま、ボソボソ答えてみたら、皆に一様に、深い呆れの溜息を付かれ、龍麻は少しばかり、声のトーンを大きくした。

「……もう、俺なんか………………」

でもそれは、怒鳴り声になるまでは至らず、又、低いボソボソとしたトーンへと戻り。

「あのな、龍麻。お前、その科白を京一の枕元で言ってみろ。絶対に、あいつは飛び起きる。そして、お前を殴るだろうなあ」

やれやれと、醍醐は首を振りつつ言った。

「そんなこと、ある訳…………」

「……なあ、龍麻。丁度、この中央公園で、だった。去年の秋に、ここで俺が、あの京一に説教を喰らったのを、憶えているか?」

「…………うん、まあ……」

「あの時、俺があいつに言われたことを、そっくりお前に言ってやろう。──俺達は、仲間ではないのか? 俺達が、お前にとって何なのか、そんなこともお前には判らなくなったのか? そんなに、俺達のことは信用出来ないか?」

「そうじゃない! そうじゃないけどっ。そんなんじゃ、なくて…………っ」

「…………………………俺などが、解る、と言うのは、酷く烏滸がましいとは思うが、お前の気持ちが解らなくはない。だがな、俺達に迷惑を掛けるとか何とか、そんなのは、俺達にしてみれば、余計な世話だ。そんなこと、思ったこともないのだから」

俯いたまま、顔を上げようともしない龍麻へ、醍醐はゆっくりと、諭すように言葉を続ける。

「だけど………………」

「そうだよ、ひーちゃんっ。ボク達一度だって、そんなこと考えたこともないよ! 何でひーちゃんが、ボク達に迷惑を掛けるのさ。ひーちゃんが何か、悪いことしちゃった訳でもないのに」

それでも彼は、醍醐の言葉を中々受け止めようとしなくて、横から、我慢出来ないと小蒔が口を挟んだ。

「アニキ、醍醐はんや桜井はんの言う通りやで? わい等、そんなん一遍だって思うたことない。それにな、アニキは自分で自分のこと、『世界』に要らへん邪魔なもん、なんて言うたけど、それかて、違うとるやんか。京一はん、言うとったやん。何が遭っても、アニキはアニキやって。……アニキに何か遭ったら、わい等、ごっつう悲しいんやで?」

彼女に続き、徐にしゃがみ込んだ劉も、言い聞かせながら龍麻の顔を覗き込んで、でも。

握り合わせた両手の力を一層増させ、彼は、益々、俯きを深くした。