三年生の殆どが自由登校となり、仲間達の中からも、目前に迫ったセンター試験のことで、ぴりぴりする者が出始めた一月中旬。
「少しぐらいなら、カフェインの入った飲料も、酒も呑んでいいよ。お前相手に、未成年だからどうの、なんて言ってみたって、どうせ聞きゃしないんだから。量を考えて呑みな」
と、待ちに待ったお許しを、たか子より京一は貰え、体の調子の方もすっかり元通りになったことだし、修行と資金稼ぎがてら、久し振りに潜るかと、龍麻と京一の二人して、『旧校舎詣で』に勤しみ、龍麻のアパートへ帰ってひとっ風呂浴び、夕飯を済ませた直後。
「あそこの品は全部、如月が引き取ってくれるし。修行場にゃ持って来いだから、色々と都合はいいけどよ。未だに、旧校舎の地下に異界の狭間が眠ってるってのは、ちょいと複雑な気分だな」
「まあね。でも、龍命の塔が消えてなくなった訳じゃないから、仕方無いんじゃないの? 中国行きの資金稼ぐにはバッチリだから、俺はどうでもいいや」
冷蔵庫から缶ビールを取り出しつつ、二人が他愛無い話をしていたら、ピンポーンと、玄関チャイムが鳴った。
「はーーーい」
「お。来たか?」
「うん、多分。──今、開けるからー」
そのような時間の訪問者に、二人は心当たりがあったようで、あっさり玄関へ向かった龍麻は、相手を確かめもせずにドアを開け、京一は、余分にビールを取り出す。
「よう、先生。京一の旦那」
「邪魔するぜー」
連れ立って、龍麻の部屋を訪れたのは、村雨と雨紋の二人だった。
彼等を呼び出したのは、京一と龍麻。
「うーーー、暖けぇ……」
「今日は、寒かったよなー」
ズカズカと入って来た村雨と雨紋が、リビング兼ダイニングの中央にあるコタツに当たって丸まるの待って、取り敢えず、と四名は、乾き物を肴にビールを開け、暫し、どうでもいいやり取りをして。
「で? 用ってのは何だい? 先生」
何の為に俺達は呼び出されたんだと村雨が言い出し、やっと、『秘密の会合』は本題に入った。
「あ、そうそう。あのさ、月末にも又、如月の家で何時ものをやろうって話になってるだろ?」
「それが、どうかしたのかよ、龍麻さん」
「うん。……実はさー、一寸二人にも、協力して貰いたいんだよね」
「協力? 何の?」
「劉と、雛乃さんのこと」
「はあ?」
「劉が、雛乃さんに片想いってことは、二人共知ってるだろう? ……だから気になって、この間の新年会の時、それとなく二人のこと見てたんだ。でも、相変らず劉は、雛乃さんの前では照れちゃうみたいだし、雛乃さんは雛乃さんで、こう……今一つ、そっちのことは疎いみたいだから、これは放っといたら何時まで経っても進展しないなー、って思ってさ。少し、応援してあげようかと、京一と話してたんだよね」
缶ビールと、倹しい乾き物を傍らにしての『秘密の会合』の議題は、劉の片想いに関して、だったようで。
が、龍麻が事情を語り出しても、村雨と雨紋の表情は、きょとん、としたままだった。
「はあ……」
「でね。猛烈にベタベタだけど、今度の宴会で、王様ゲームか何か仕組んで、一緒に買い物行かせるとか、そーゆー風に、二人だけで話をしなきゃならない状況に、劉と雛乃さん、持ってってみるのはどーかなー、と思ったんだけど。………………どう思う?」
でも直後、龍麻がそこまで語った処で、やっと話が見えたと、二人は軽く頷き。
「あー……、まあ、確かに、どーしよーもなくベッタベタだけどさあ……」
「……妥当、っちゃ妥当……か? ……いや、本当に妥当かい……?」
計画に一口乗り掛けているような、謹んで辞退するような、曖昧な態度を見せた。
「まー、正直、陳腐だとは思うけどよ。他に、適当な方法がねえんだよ。劉と雛乃ちゃんって、あんま接点ねえだろ? いきなり、二人纏めて何処かに呼び出すのは不自然だしよ。俺等が固まって行くトコったら、旧校舎くらいしかねえし、けど、あんなトコ、色気もへったくれもねえし。第一、俺等が雛乃ちゃんだけ呼び出した日にゃ、雪乃の奴に何言われっか……」
と、今度は京一が口を挟み始め。
「……まあ、粗方事情は飲み込めたし、どうしてもってんなら、仲間内のことだ、一肌脱いでやってもいいが。……京一の旦那よ。何で、俺と雨紋なんだ?」
「んなこた、決まってんだろ。他の面子、思い出してみな? 醍醐と紫暮は堅物、御門の野郎はこんなことにゃ絶対協力しねえだろうし、如月や壬生が、パーティーゲームをやったことあるとは思えねえだろ? 紅井と黒崎は、『正義の味方』のことしか頭にねえし、アランは、うっかり口滑らせちまいそうだしなー。女共には言えねえし」
「そーそー。そういう訳で、二人に声掛けたって訳なんだ。二人だったら、王様ゲームくらい、嫌ってくらいやってそうだと思ってねー」
「……そりゃ、まあ、な……」
「つーか、健全な男子高校生だったら、一度や二度、そういうことの経験があるのが普通だと思うけどな、俺様」
「………………うん、やっぱり。俺達の人選に狂いはなかったよ、京一! ──だから、二人共協力宜しくー。仕込んだクジとか、一緒に作ってくれるよね?」
…………結局、村雨も雨紋も、龍麻と京一の二人に、丸め込まれてしまった。
故に、その夜は、その後。
「……判った。乗ってやるよ。雨紋はどうする?」
「…………んー、まあ、いいか。俺様も乗るぜ。一寸したゲームだし。強引にどうこうって訳でもないから。二人っきりの時間を、少し作るだけなんだろ?」
「うん、そーゆーことだよ。……劉には、色々迷惑掛けちゃったし、世話にもなったから、細やか……な、恩返しとでも言うか」
「あいつ、ほんっっっ……とに、雛乃ちゃんのこと、好きみたいだもんな」
「それはそうとさ。龍麻さん。京一。劉と雛乃さんの奴だけ仕込むのって、不自然じゃねえ?」
「……あ、そっか。他にも少しは、『わざと』があった方がいいのかな」
「…………じゃあ、ひーちゃん。醍醐と小蒔に、何かさせてみるか?」
「何かって? 宴会は盛り上がるだろうけど、あんまり『過激』なこと指定すると、醍醐、倒れちゃうよ?」
「醍醐の旦那が倒れない程度のことってぇと……。………………手を繋ぐ?」
「かーーーっ! んな罰ゲームの、何が面白いんだよ、村雨さんっ!」
「……タイショーだからなー…………」
京一の酒量に関して、龍麻が口うるさく言ったから、本当に細やかだったけれど、四人は、遅くまで宴会を続けながら、秘かに計画を練った。