『秘密の会合』メンバーの間だけで、『細やかな計画』が進行していた頃。

一月二十四日、日曜日。

生まれた年月日を同じくする二人──京一と龍麻は、十八歳になった。

偶然、同じ日が誕生日だったのだし、今年のそれは十八になる日だし、折角だから何かするかと、言い合ってはみたが。

結局その日、朝から二人が赴いたのは、『例の場所』である旧校舎で、これも中国行きの為ー! と、午後遅くまでひたすら旧校舎にて粘り、その後、ちょろっと新宿の街に繰り出し、京一が欲しいと言っていたCDを龍麻が、龍麻が欲しいと言っていた本を京一が、それぞれ当人の目の前で、極々普通に買い求め、ラッピングもされていないそれを、「んー」と突き出す、というやり方で互い手渡し、プレゼント代わりとし。

王華にての、『ラーメンライス・餃子付き』を『ディナー』として、二人はその日も、龍麻のアパートに帰り、何時も通りコタツに当たって、何時も通りインスタントコーヒーを啜りながら。

「処でさあ、京一」

「んー?」

「折角十八になったのに、車の免許とか取らないんだ?」

「ああ? 免許? ……そりゃまあ、欲しいとは思うけどよ、今、教習所通ってる暇、俺等にゃねえだろ。去年の内から通っときゃ良かったんだろうけど、んな余裕なかったし、思い付きもしなかったしなー。パスポートやビザのこともあるから、合宿の奴とか行ってる間もねえし。その内って奴かな」

侘しい、と言えないこともないのだろう誕生日を過ごした彼等がし始めたのは、十八になった『今日』の話ではなく、これからの話だった。

「……あ、それもそっか。行っとこうかなー、とか思ったけど……四月までに取れるとは限らないか……って、あ! 義母さんに、書類送って貰わなきゃ。忘れてた」

「書類?」

「うん、戸籍謄本とか、あの類い。パスポートないと、ビザって申請出来ないんだよね?」

「って話だったな。劉が言うには」

「だよね。色々面倒臭いから、鬱陶しいことは、劉がコネで上手くやってくれるって言ってたけど、パスポートだけはねー」

「………………それなんだけどよ。ホントに、大丈夫なのか?」

「うん。皆には、未だ内緒にしといてって、中国行きの話打ち明けて、色々の手続きのこととか訊いてみたら、『だったら、わいに任しとき!』って言ってくれた。何でも、封龍の一族ってのは、客家人の一部、なんだってさ。で、客家人ってのは、華僑の三分の一を占めるから、うんちゃらー、って話だった」

「ふーーーん……。じゃ、それに関しては、あいつのこと信用すっか。……親御さんの方は……?」

「家の? ……正直、一寸、義母さんには泣かれた。でも義父さんが、お前は弦麻兄さんの子供だから、しょうがないのかも、って。結構穏便に、認めて貰えたかな。……京一は?」

「流石にこの話切り出した時は、『はあ?』って言われたし、『寝惚けんのもいい加減にしろ、馬鹿息子ー!』とも言われたけど、好きにしろ、の一言で済んだぜ。お前の人生なんだから、お前の好きにしろ、だと。余分なことも言われたな。食い扶持に困って、犯罪者にだけはなるな、とか、一応、生きて帰って来い、とか」

「……余分なことってのは言い過ぎだよ。おじさんとおばさん、京一のこと心配してるから、そういう風に言うんだって」

「………………ま、な」

──十八歳の誕生日、という『今日』も。

今の二人にとっては、『通過点』でしかなかった。

だから、慌ただしく過ぎたこの二週間程の出来事の報告や、自分達のこれからを、あの決戦以前よりも、遥かに具体的に彼等は告げ合って、今日も一日疲れたと、欠伸を始め。

常よりも早いけれど、と、寝支度を整えて、布団に潜り込んだ。

────そんな風に、誠に呆気無く十八の誕生日を二人が通り過ぎた、約一週間後。

龍麻や京一や仲間達は、定例会、と称して、これ又何時も通り、如月の家へと一同揃って傾れ込んで、一月が生まれ月の、紅井、龍麻、京一、舞子を、何処までも一応の主賓として宴会を行った。

『秘密の会合』メンバーが企んだ、パーティーゲームでの罰を装っての、『劉と雛乃を、僅かの時間だけでも二人っきりにさせてみよう大作戦』とか、『醍醐と小蒔に、可愛らしく手を繋ぐ口実を与えてみよう大作戦』も、思いの外上手くいき、宴会は、想像以上に盛り上がったし、醍醐や小蒔は固より、劉も、そして雛乃も、満更ではなさそうな様子だった。

穏やかさと、賑やかさと、暖かさと、心地良さだけが、何時までも、その場を支配し続けた。

………………そう、『戦いの決着』が付いた、一月下旬。

仲間達を包み込んだのは、嘘のような、そして夢のような、『平和』だった。

誰もが望んだモノだけが、彼等の傍らにあった。

『平和』が平和であるが故に引き寄せる、一寸した波紋を、誰も気付くことないまま。

日常に戻りつつある少年少女達の一月は、賑やかに終わった。