そういう訳だから、真相はどうなんだ? と。

何処となく愉快そうに、目だけで笑いながらの醍醐に見比べられても、咄嗟には、京一も龍麻も、返答が出来なかった。

「…………さー、どうだかな。昨日も今日も、チョコは、山のよーに受け取ったしなー」

でも、京一が声を詰まらせたのは一瞬のみで、次の瞬間には、へらっと笑いながら、誤摩化しを彼は告げていた。

「ひーちゃんは、貰ってたみたいだけどなー。昨日、玄関のドアノブに、紙袋が幾つもぶら下がってたもんなー」

「……っ、京一っ! そりゃ、その通りだけどさっ! ……でも、あの紙袋の中に入ってたのは、皆チョコだけだったから、誰からの物かなんて、判らないよ」

「………………ふーん。勿体無い」

「そういう自分はどうなんだよっ! 自分だって、仲間内の誰かから、チョコ貰ったんだろうっ?」

「お前も、正直に白状したらどうなんだ? 京一」

「……まあなー。チョコは、貰ったけどよー……」

醍醐の追求を躱して龍麻へと話を振り、さっさと一抜けをしようとしたのに、二人共それを許してはくれなくて、渋々、京一も又、真実を白状した。

「おお、やっぱり。……で、幾つ? 誰から?」

「ひーちゃんと一緒。家帰ったら、ポストに入ってたって、二つばっか、お袋が渡してくれたけど、相手が誰なのかはさっぱり。チョコしか入ってなかったしな」

「ふうん……。じゃあ京一も、皆の内の誰かからなのか、それとも別口なのか、判らないんだ」

「そーゆーこと。今時、奥ゆかしーよなーーー」

──真実を白状はしたものの。

昨日の出来事が脳裏にこびり付かせている下らない考えを、更に煽るような会話は、これ以上御免被りたく。

再び、へらっとした笑いを浮かべて、京一は有らぬ方を向いた。

……なのに。

「…………ねえねえ、醍醐。仲間内からのだったとして、の話だけど。京一にチョコ贈ったの、誰と誰かな」

「さあなあ。俺には見当も付かんが……。裏密か、高見沢か、藤咲か、織部姉妹か、遠野、の誰かじゃないのか?」

「雛乃さんは劉だと思うよ、多分。……となるとー。裏密さん、高見沢さん、藤咲さん、雪乃さん、遠野さん、の誰かかー。…………藤咲さんとかかなー。でも、案外遠野さんだったりしてね。遠野さん、結構京一と仲良しだし」

「……遠野、か。……うん、有り得るかも知れんな」

そっぽを向いてしまった京一を肴に、龍麻と醍醐は誠楽し気に、『京一にチョコを贈ったのは誰と誰か推理』を始めてしまった。

「アン子の訳ねえだろっ! 大体、あいつは昨日…………。……あー……」

視線は逸らしても、耳を塞いでいた訳ではないから、二人の会話は至極当然耳に届き、思わず京一は声を荒げ、うっかり口も滑らせ、コタツの天板に突っ伏した。

「え、何々? 昨日、遠野さんがどうしたって?」

「…………俺は、何て馬鹿なんだ……。──……昨日、ここからの帰り道に、アン子に尾けられたんだよ……。取材協力しろ、ってな」

「取材協力?」

「……ああ。ひーちゃんが、チョコを、何個、誰から貰ったか、知ってるなら教えろ、って迫られた。んなこと知るかって、突っ撥ねたけど。実際、知らねえし。……だから。昨日、ずーーーーっと俺とひーちゃんの後を尾けてたっぽいアン子の奴にゃ、家のポストにチョコ放り込む暇なんざ、ねえっての。それにっ! 俺とあいつは、決して仲良しじゃねーっ!」

「な・る・ほ・ど。……じゃあ、やっぱり藤咲さん辺り? 大穴で、雪乃さんって線もあるかな」

天板に額を押し付けたまま、口滑らせた己を呪いつつ、ぶちぶち、昨夜の出来事を京一が白状すれば、ふむ……、と龍麻は腕を組み、推理を続ける。

「雪乃は、雨紋じゃねえのか……? ……じゃなくてっ! 俺に判るか、そんなことぉぉっ! それより、そう言うお前はどうなんだ、ひーちゃんっ! 誰からのチョコだったのか、心当たりあんのかっ? 今までずーっと、未だ女の子には目が向かない、とか何とか、言ってやがったくせにっ!」

だから、突っ伏した姿勢はそのまま、京一は、再度声を荒げ。

「何か、今日の京一、機嫌悪いね。どうしたの? 何か遭った?」

「別に、そんなんじゃねえよ。俺が肴になってんのが、気に喰わねえだけ」

「誰だって、自分が肴にされるのは面白くないからな」

「そうだろう? ……っつーことで、俺のことはこっち置いといて。ひーちゃんの話でもしようじゃねえか。……ひーちゃん、結局お前、幾つチョコ貰ったんだ? 誰なのか、見当付いてねえのか?」

「えええ? それこそ、俺のことはどうでもいいってっ!」

そのような風情の彼をじっと見詰め、どうにも、親友の機嫌が良くないと、龍麻は思案気になったが、又もや、はぐらかすように、すいっと向けられた矛先が、自分を的にしていると気付くや否や、あたふたと慌て始めた。

「ふむ。……確かに『公平』に行くなら、今度は龍麻を弄る番だな」

「おっ。判ってんな、タイショーっ」

「……えーーーー…………。ホントに、俺のことなんか、どうだっていいのにー……」

…………だから、龍麻は固より、醍醐も、誤摩化しに誤摩化しを重ねた京一が作り出した雰囲気に飲まれ、『龍麻にチョコを贈ったのは誰達か推理』を始め。

率先して、その話題を引っ掻き回しながら、京一は。

二人には悟られぬように、そっと溜息を洩らした。