二月二十七日、土曜。

──高校一年組、二年組は兎も角。

仲間達の大半を占める三年組は、それぞれが間近に控えた卒業式や、卒業後の進路に関する準備その他で、誰もが本当はとても忙しく、割ける時間は殆どなかったのだが、それでも無理矢理に時間を作り、『月末のお約束』、如月邸での宴会を執り行うべく、仲間達は北区王子に集まった。

…………全ての者の胸の中に、予感があった。

……否、予感などではない。確信があった。

こうして、仲間達が一堂に会し、楽しいだけの馬鹿騒ぎを繰り広げられるのは、これが最後だろう、と。

桜の花が咲く頃になれば、それぞれ、自ら決めた新しい路を辿り始め。

楽しいことがある度、悲しいことがある度、事件が起こる度、当たり前のように顔を突き合わせて来た自分達が、当たり前のように集うことは、なくなるのだろう、と。

…………これより、何年かが過ぎた時には、例えるなら同級会のように、又、仲間達が一堂に会する機会も、持てるかも知れない。

いや、きっと、持てるとは思うし、持つつもりでもいる。

自分達は、新しい春が来る、時が流れる、たったそれだけのことで呆気無く疎遠になってしまうような、浅い関係ではない。

でも、幾度かの新しい春を迎え、時が流れ、何かを切っ掛けに、再び集うその時。

自分達は間違いなく、『高校生』ではない。

青春の真っ直中を、共に笑い、共に泣き、共に戦い、そうして駆け抜けた、今の自分達では有り得ない。

……『今』、ではない。

だから。

『これが最後』だ。………………と。

その日、如月の家の座敷に集まった仲間達は皆、酒を酌み交わし、少女達の手料理に舌鼓を打ち、馬鹿騒ぎをし、明るく語らいながらも、胸に、そんな思いを秘めていた。

────故に、敢えて。

全ての者が、『三月以降』の話を口にしなかった。

……いいや、出来なかった。

新しい春が来ても、新しい夏が来ても、新しい秋が来ても、新しい冬が来ても。

皆が皆、これまでのように、『高校生』として、繰り返される様々な意味での『日常』を送って行く者であるかの如く。

馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいに他愛無い話を繰り返して、二月が誕生月の、黒崎と、亜里沙と、杏子の三人を祝ってはしゃいだ。

もう間もなくやって来る、『新しい春』の話は、誰もが胸に飲み込んだ。

…………そうして、夜が更け始める頃、夕刻から始まった宴会は、静かにそっと、名残りだけを惜しんでお開きとなり。

上機嫌な足取りで家路へと着きながらも、仲間達は。

皆、胸の中でのみ、そっと、『さようなら』を呟いた。

静かに終わって行く、その年の、彼等の二月と共に。