──1991年 冬──

──京梧──

〜日本某所 深い山の中にて、雪を見上げながら〜

………………お前は、今も、安らかに眠ってるんだろうか。

──龍斗。

もう一度、地の底に下り立ったあの日から、もう、十一年が経った。

目指した崑崙山に辿り着きはしたが、お前の為になる術は、どうしても見付からなかった。

往生際悪く、それから暫く清国──ああ、今は、中国って言うんだぜ──を彷徨ってはみたが無駄で、今は日本に戻ってる。

……十一年が経っても、未だに俺は、今の世に慣れ難くって、戸惑うことばっかりで。

どうしたらいいか、判らなくなることもある。

たまに、だがな。

如何せん、十一年、だから。

この間、歳の頃は十くらいの餓鬼に出逢った。

……これが又、呆れ返るくらい、どうしようもなく馬鹿な餓鬼なんだ。

てめぇの先生だかが悪漢に絡まれてたからって、己の力も何も顧みず、突っ込んでくような奴なんだ。

しかも、ドタマ掻き毟りてぇ程腹立たしいことに、その馬鹿餓鬼は、俺の血筋みたいでな…………。

……情けなくて、涙が出てくる。

多分、俺の妹の直系だと思うんだが、蓬莱寺の血って奴なのか、京一って名のその餓鬼は、俺みたいな剣術馬鹿でな。

具合の悪いことに、剣才ってのがありやがる。

見付けなけりゃ良かったんだろうが、京一の馬鹿に、剣の才があるのを、俺は見付けちまって…………。

──そういう訳で、うっかり、京一の馬鹿に誘いを掛けて弟子にしちまったもんだから、今、俺はあの馬鹿餓鬼と、山ん中に籠ってる最中だ。

あいつが心底の馬鹿な所為で、来る日も来る日も、怒鳴り合いの喧嘩のし通しで、いい加減嫌気が差してきた。

…………ま、剣の方は見込みあると思うがな。……多少。

多少っても、俺からしてみれば、多少とも言えないくらい、多少、な。

……すまない。

待たせ通して、すまないと思ってる。

何時まで経っても、俺は、お前を迎えに行けずにいる。

もう、あれから十一年が経ったのに。

今日も変わらず、お前は、あんな地の底で独り眠り続けながら、俺を待ってるんだろうに。

…………だが、必ず。

俺の命が尽きる前に、必ず。

…………龍斗。

お前に逢えるのは、何時のことになるんだろう。