翌、九月十二日 日曜。

前日、散々っぱら、

「生きてるし、無事だから平気。……なんちゅー、いい加減な連絡寄越したっきり、一年半も行方晦ませおってからにー! アニキも京はんも、酷過ぎるっちゅーねんー! 薄情者のアホンダラーー!!!」

……と。

宵の口、待ち合わせ場所だった新宿駅西口改札での再会を果たすや否や、行き過ぎる人々がギョッとしつつ立ち止まる程泣き喚いた劉に詰られたので。

京一も龍麻も、本当に素直に、彼に言われるまま、北区・王子の如月骨董品店へ足を運んだ。

二人の帰国の知らせを受け、仲間達が、それぞれ忙しい予定をやり繰りして集まってくれることになっている、とも言われてしまったことだし、と。

……実の処、新宿に到着した途端、龍麻が、「原因は判らないけれど、龍脈が変」と言い出し、体調不良を訴えたので、今日の処は大人しくしていたかった、というのが二人の本音なのだが、早々、『龍脈の乱れを原因とする体調不良』を白状する訳にもいかないし、仲間達にも悪いから、と無理を押した。

「皆の衆ー! 薄情モンの二人、引き立てて来よったでー!」

「うわあああ! 本当だ、本当にひーちゃんと京一だ!」

「こーの、薄情者共ー! 一年半も行方晦ませて、何処行ってやがったー!」

────劉に連れられる格好で訪れた、如月骨董品店の佇まいは相変わらずで。

二間続きの座敷では、あの頃、共に戦った仲間達が全員、顔を並べており。

薄情者だの、大馬鹿野郎だの、心配したんだからだの、皆口々に責めながらも、嬉しそうに出迎えてくれたから、二人は、懐かしくて心地良い、幸せな気分を味わった。

五年の年月を経ての、皆の『今』も知れた。

同級生で、真神学園のマドンナだった生徒会長、美里葵は、四年制大学を卒業し、大学在学中に取得した教員免許を引っ提げて、母校・真神学園に現国教師として赴任していたし。

同じく同級生の、弓道部々長だった桜井小蒔は、新宿の歌舞伎町界隈を取り締まる、新宿警察署交通課の名物婦警さんとなっていたし。

二人の親友の一人である醍醐雄矢は、現役プロレスラーとして、大人気を誇る程になっていた。

雨紋雷人は、高校時代から続けていたバンド、『CROW』のギタリストとしてメジャーデビューし、人気ロックギタリストに。

高見沢舞子は、新宿区・桜ヶ丘中央病院の正看護師となり、霊的治療の第一人者である、院長・岩山たか子の右腕に。

藤咲亜里沙は、ドラマの出演も果たすことが決まっている、トップモデルに。

裏密ミサは、母の後を継ぎ、『新宿の魔女』としてプロ占い師に。

紫暮兵庫は、士官候補生として、陸上自衛隊員に。

如月翡翠は、先祖代々続く如月骨董品店の店主として、手広い商売を続け。

アラン蔵人は、某航空会社の、国際線パイロットに。

織部雪乃は、大学卒業後、思う処あり、実家である織部神社を出て、花屋に。

織部雛乃は、双子の姉と同じ大学を卒業後、織部神社の正式な巫女に。

マリィ・クレアは、美里家の養女として暮しながら、皇神学院に通い。

紅井猛は、実業団野球に入団し、日本代表選手の座を掴みつつ、コスモレンジャーとしての活動もこっそり続け。

黒崎隼人は、イングランドのクラブチームに所属する、プロサッカー選手になって、でも、やはりこっそり、コスモレンジャーとしての活動を続け。

本郷桃香は、練馬区の幼稚園の保母となって、やはり、紅井や黒崎と共に、こっそり、コスモレンジャーであり続け。

霧島諸羽は、某有名大学の法学部大学院に進学し、弁護士資格取得の為の、猛勉強中で。

舞園さやかは、高校生アイドルから一皮剥けた、トップアーティストとして、ワールドツアーの準備に忙しく。

劉弦月は、織部雛乃との愛を育みながら、新宿中央公園で、『ひよこ占い』を生業とする占い師に。

壬生紅葉は、暗殺集団でもあった拳武館高校を『卒業』し、M+Mエムツー機関という組織の退魔師に。

村雨祇孔は、アメリカ・ラスベガスに渡り、『カジノ荒らし』の名を欲しいままにするギャンブラーに。

御門清明は、御門家第八十八代目頭領として、宮内庁・陰陽寮の職務を果たしつつ、御門グループ社長としても活躍し。

芙蓉は、御門の秘書を務めながら、何故か、料理教室に通う日々を過ごし。

比良坂紗夜は、舞子と同じく、桜ヶ丘中央病院の正看護師になり。

遠野杏子は、フリールポライターとして一人立ちすべく、天野絵莉の許で修行中。

…………と。

一人一人の近況に丁寧に耳傾け、皆一様に、高校生だったあの頃とは違う、けれど、それぞれが確かに選んだ道を辿っているのだと知って、京一も、龍麻も、嬉しいような、淋しいような、だけどやっぱり喜ばしい、複雑な感慨に浸った。

「……という訳でねー。皆それぞれ、元気にやってるんだ。勿論、ボクも。一年半もフラフラしてた、どっかの誰かさん達と違ってー」

「…………うるせぇ、小蒔」

「何だよ、本当のことじゃないか! ──そんなことよりも! 京一とひーちゃんは、何処で何やってたの?」

長かった『近況報告会』の最後を、小蒔がそんな風に締め、高校生だったあの頃そっくりに、彼女は京一に噛み付き、嫌味を言われた京一も、あの頃のノリのまま返して。

「俺達は、ちょいと、あちこちふらふら……、っと。なあ? ひーちゃん」

至極いい加減に、そして簡潔に自分達のことを語った京一は、龍麻に話を振った。

「……え? あ、ああ、うん。一寸、ふらふらー、っと。中国以外も訪ねてみようって話になったんだ。色んな場所で、修行した方がいいかと思って」

…………だが、龍麻の反応は鈍かった。

話を聞いてはいたらしいが、口調も態度も、何処かぼんやりとしていて。

「龍麻君? どうしたの? 何処か、具合でも……?」

そんな彼の様子に、葵が気遣わし気な顔になった。

「ううん、そんなんじゃないよ。……一寸」

「一寸、って……」

「……時差ボケだよ。ひーちゃん夕べも、体内時計が狂ったー! なんて騒いでてさ」

が、二人のやり取りを眺めていた京一が、明るい調子で嘴を突っ込み、葵達の心配を払拭する。

「時差ボケ? ダーリン達、何処にいたのぉ?」

「エジプトだよ。直行便で帰って来たんだけど、七時間の時差に負けちゃったみたい」

そして、時差ボケ発言に反応した舞子の問いを、さらっと龍麻はいなした。

「時差ボケ、ねえ……」

「案外、繊細なんだね、龍麻も」

「その割には京一は、七時間の時差など、物ともしていないようだけれどね」

しかし、村雨、壬生、如月と言った、京一のかつての麻雀仲間達は、納得を見せず。

「まあ、そういうこともあるのではないですか? 長旅は疲れるものですし」

ぱちりと、白扇を閉じながら御門は、鋭い視線を二人へ向けた。

「酷いなあ。俺は、皆が思うよりも繊細に出来てますー。御門の言う通り、長旅は疲れるしね」

「ま、ひーちゃんだって、俺よりは繊細だから。俺だって流石に、十四時間飛行機乗ってるのは、しんどかったしなー」

が、勘の鋭い男性陣が窺わせる気配には気付かぬ振りをして、龍麻も京一も、空っ恍けた。

……だから、だろうか、それ以降、龍麻の『時差ボケ』に関する突っ込みは消え。

五年振りに、一同が会する再会を果たした仲間達は、明るい会話だけを続けて。