それより、数時間が過ぎた頃。

夕刻。

仲間達は名残りを惜しみつつ、一人、又一人、と如月骨董品店を後にして行った。

芸能人である、雨紋や亜里沙やさやかは、分刻みのスケジュールに追われる身だし、醍醐や紅井や黒崎と言ったプロスポーツ選手組も、本当に忙しい身の上で。

時間厳守の職業である紫暮、アラン、葵、小蒔、桃香も席を立ち、祝祭日など関係ない看護師である舞子や紗夜や、やはり祝祭日は関係ない雪乃に雛乃、学生であるマリィや霧島も、又、近い内に絶対会おう! と龍麻と京一に念押しして、帰宅の途に着いた。

……そんな訳で。

広い座敷に残ったのは、家主である如月の他には、京一、龍麻、劉、壬生、村雨、御門、の男性陣と、ミサと杏子と芙蓉の女性三人で。

うん、丁度良い面子だ、と早々に龍麻は、これまで黙っていた『本題』を口にした。

「あのさ。実を言うとね。今回、日本に帰って来たのには、理由があるんだ」

「……そんなことじゃねえかと思ったぜ。先生や京一の旦那が、何の理由もなしに帰って来る訳ねえからな」

すれば、したり顔になった村雨が、如月が振る舞い出した日本酒の盃を摘まみ上げながら頷き。

「で? 何で、急に日本に?」

前振りはいいから、さっさと白状しろ、と如月は二人を突っ突き出して、問われるまま龍麻と京一は代わる代わる、カイロで起こった出来事を掻い摘んで語った。

「ロゼッタ協会…………」

何故、カイロにいたのかの理由は綺麗に省いてみせた彼等の説明に、若干、承服し兼ねる風情を漂わせつつも、話を聞き終えた途端、壬生が、呻くように呟いた。

「壬生? 心当たり、あるんだ?」

「…………ああ。──この仲間内に隠しても、と思って、さっき正直に告げたのだけれど……僕は今、M+M機関という組織で、退魔師をしている、と言ったろう?」

「うん。ヴァチカン直属の組織……だったよね」

「そうだよ。……その、葉佩九龍という少年が属しているロゼッタ協会は、僕達M+M機関とは、敵対関係にあるんだ。ロゼッタ協会は、古代の遺跡に眠る『秘宝』を奪取することを主だった目的としている。彼等が言う処の『秘宝』を得るだけなら、好きにしろ、の一言で済むんだが、彼等の活動は時に、古代遺跡に眠る、魔や怨霊や、鬼や妖怪をも解き放つ結果を招くからね。どうしても、僕達とは折り合いが悪い。……尤も、持ちつ持たれつ、の関係でもあるけれど」

「ふうん……。要するに、盗掘屋? ロゼッタ協会って」

「……そんなようなものなんだろうな。ってことは、あいつは、『何ちゃらハンター』じゃなくって、あー……。……そうそう。トレジャー・ハンターってことか」

「ミサちゃ〜んも、知ってる〜。ロゼッタ協会〜〜」

龍麻達の話の中にあったロゼッタ協会と、己の属するM+M機関は、因縁浅からぬからよく知っている、と壬生が語れば、相変らずの間延びした口調で、ミサが話に混ざった。

「え、裏密さんも?」

「そ〜よ〜。あそこは〜、依頼すればどんな物でも探して来てくれるから〜。時々、魔術に必要な材料とか、お願いしてるの〜。蛇の道は蛇で〜、知ってる人は知ってる協会だから〜、ロゼッタって〜」

「僕も、知っているよ」

ミサが、のほほん、と言い終えれば、今度は如月が言い出し。

「何だよ、お前もか? 如月」

「ああ。……あそこは、うちのネットショップのお得意様だ。協会自体も、協会に所属しているハンター達も、うちの商品をよく買い上げてくれる。輸送手段も、うちの宅急便を使ってくれる上客だよ」

「………………………………。……如月骨董品店のネットショップって……『JADE SHOP』……だよね? かーなーり、物騒な物売ってる……」

「……単なる、商品だ」

「何時から、武器商人になったんだよ、骨董屋……」

彼からも、商売上の繋がりでロゼッタ協会を知っている、と言われ、この仲間内にはメジャー過ぎる、ロゼッタ協会……、と京一と龍麻はげんなりした。

自分達の一寸した意気込みは何だったのかなー……、と拍子抜けして。

「俺は、ロゼッタ協会とやらは知らないが、レリック・ドーンの方は知ってるぜ。べガスにいる時、一度だけ、嫌な噂を耳にした」

そんな風に、やれやれ……、と肩を落とした二人を他所に、今度は村雨が、レリック・ドーンのことを話し出した。

「嫌な噂?」

「ああ。シュミットとかいうジジイが親玉の、かなりヤバいトコらしい。……もう、二、三年前の話になるんだが、べガスで、顔見知りのギャンブラーが殺される事件が遭ったんだ。何だかの余興で、骨董品収集が趣味の好事家と、随分と珍しい物を賭けて勝負することになって、勝負に勝ったはいいが、その所為で、レリック・ドーンって組織の連中に殺されちまったんだと、『裏』では専らの噂だった。レリック・ドーンは、随分と珍しい物──多分、秘宝、とかいう代物を、手段選ばずに掻き集めてるらしいとも、話に聞いたぜ。……この話を聞いた時は、眉唾話だろうよと思ってたんだが……」

「……レリック・ドーンは、かなり過激な組織だ。ロゼッタ同様、僕達とは敵対関係にある、と言える組織で……だが、ロゼッタのような、持ちつ持たれつの関係は皆無なんだ。あの連中は、テロリスト以外の何者でもない。『秘宝』を手に入れることを至上命題としている、厄介なテロリスト共だ。村雨さんが聞いた噂通り、その為になら手段を選ばないし、人殺しも、当然のようにしてみせる。私設軍隊すら組織しているらしい」

数年前、現在の拠点であるラスベガスの裏社会で秘かに流れた噂を村雨が語れば、壬生は、ひっそりとその噂を肯定した。

「………………ロゼッタ協会、M+M機関、レリック・ドーン。その三つの組織のことは、私も承知していますが、それ等がどう在ろうと、蓬莱寺、緋勇、貴方達二人には今の処、どうでも良いことではないのですか? 壬生は固より、私や、如月や、裏密さんは、何かの切っ掛けさえあれば、彼等と衝突することも有り得るのでしょうけれど、貴方達は。……なのに何故、そこまで、その、葉佩という少年に関わる組織のことを気にするのです? …………いい加減、本当の本題に入りませんか。何をするつもりなんですか、貴方達は」

「そうや。御門はんの言う通りや。アニキ等、何考えとるん?」

仲間達の話が一通り出揃った処で、徐に御門は言い出し、劉も、龍麻と京一へ向き直った。

「…………ひーちゃんが、どうしても、あの葉佩って奴が気になるって言い張って、聞かねえんだよ」

すれば途端、京一は、苦虫を噛み潰したような顔になり。

「しょうがないじゃないか。気になるものは気になるんだから。……だから、そのー。ちょーーっとね。そんな素性の彼が、本当に、天香学園に何らかの目的持って転校するなら、様子でも探りに行こうかなー……、なーんて……」

京一の顔色をちらちらと窺いながら、龍麻は、てへっと誤摩化し笑いを浮かべつつ、打ち明けた。