「何?」

「どうして、今の新宿の龍脈とかがおかしな状態なのに、あの遺跡が関わってるかもって、お二人は思うんですか? 確かにロゼッタは、化け物とか解放しちゃう結果招いちゃう《秘宝》とか探しますけど、俺が探してる《秘宝》がそういうモノかも知れないっていうのは、可能性でしかないですよね?」

「……言葉で説明して解って貰えるかどうか、とは思うけど。氣、って、知ってるかな。気功とかの、氣」

「…………はい」

「俺達は、氣を操ったり感じたり出来る『力』も持ってるんだ。感じる氣が、どういう種類かも判る。そういう風な、言ってみれば『特異体質』な俺達に言わせると、あの遺跡から感じる氣は、一寸おかしいんだよ。それが理由」

「そうですか…………。……じゃあ、もう一つ。お二人の仲間の、ロゼッタ絡みのことを知ってる人っていうのは、『知ってるだけ』、ですか?」

「あーーー……。……うーーん…………。これ、言っちゃっていいのかな? 京一、どう思う?」

「……ま、いいんじゃねえの? どの道、俺等がした話は他言無用にして貰わねえとなんねえし。──今までの話も、この先の話も、お前の『身内』にも、内緒にしといてくれるか? 葉佩」

「判りました。お二人関係のことは、一切合切オフレコー、ってことで」

「なら、言うけど。……ロゼッタ絡みのことを知ってる仲間は、何人かいるんだ。大抵は、ロゼッタの『色んな意味のお得意さん』……になるのかな。後は、そのー、M+M機関とか、まあ、色々?」

「…………………………えええええええええー……」

酷く真剣な顔付きになった九龍の二つの問いの、一つ目にはスラスラと、二つ目には躊躇いながら青年組が答えれば、宝探し屋の彼は、再び仰け反った。

「お得意様な人達に、M+M機関の人まで……? …………何者ですか、お二人っ!?」

「何だ? その、M+M機関ってのは」

「ロゼッタとは仲の悪い組織。もう一寸具体的に言うなら、法王庁直属のエクソシストの皆さーん、が一杯働いてる所」

「……俺には何が何やら、だが……要するに、この二人やこの二人の仲間の間では、お前を取り巻く環境その他は、公然の秘密ってことか」

「うん、そーともゆー……。……こーたろー、俺、世間様が判らなくなって来たよぅぅ……」

仰け反り、ソファの背凭れに懐き、ジタバタと暴れ、甲太郎に泣き言を垂れ、と九龍は暫し、醜態を晒して。

「でも、まあ……そういうことなら。うん、いいですよ、共同戦線、どんと来い! です!」

負けないっ! と両手で握り拳を固めて立ち直り、青年組の誘いを受けた。

「おい、九龍。そんなに簡単に……」

「何? 心配でもしてくれてるの? 甲太郎」

「……そういう訳じゃない。こいつ等と何をどうこうしようが、お前の勝手だ」

「まーーた、そういう愛の無いことを言う」

「……だから、愛じゃ──

──『愛じゃない』って言いたいんでしょー? 判ってるよー、だ。でも、甲太郎が素直じゃないのも判ってるもんねー。──ほんじゃあ、蓬莱寺さん、緋勇さん、これから宜しくお願いしますっ」

何処まで本当なのか判らない、少々『駆け足』で語られた事情と二つの質問のみで、あっさり決めていいのか、と甲太郎は呆れたが、へーきだよ、と九龍は笑い、京一達へ、ぺこりと頭を下げた。

「こちらこそ。そう言ってくれて、有り難う、葉佩君」

「宜しくな、二人共。……処でよ。今更だが、皆守も葉佩の仲間なのか? あんなトコに一緒にいたから、仲間同士なんだろって、勝手に決め付けちまったけど。お前も、宝探し屋か?」

「俺は、そんなんじゃない」

「あ、甲太郎は、色々あって、俺の手伝いしてくれてるんです。バディって言って、遺跡探索の協力者になってくれて、学園のこととかも色々教えて貰っちゃったりして。助かってるんですよー。だから、甲太郎も仲間です! ……えーーと。それでですねー。早速なんですけど。善は急げって奴でー」

そうして、彼等の共同戦線はスタートし、俺は仲間じゃない、とブツブツ零す甲太郎を尻目に、九龍はソファを滑り下り、床に座り直して『H.A.N.T』を取り出し開いた。

「お二人の話と一緒で、俺の話もオフレコでお願いします。──俺は、天香の敷地内に《超古代文明》にまつわる遺跡があるから、お前が行って来ーい、ってロゼッタに言われてここに来ただけで、あの遺跡に何が眠ってるのか、ぶっちゃけ知りませんっ! 更には、あの遺跡が何なのかも、さーっぱり判りません!」

「……威張るなよ…………」

「しょーがないじゃん、判んないものは判んないし、知らない物は知らないんだからさ」

早速、遺跡に関する話を始めた九龍の開き直り加減に、本当にこいつは馬鹿だ、と甲太郎は益々呆れたが。

「でも、少しだけなら判ったこともあってですね。──あの遺跡はどうも、日本神話に関係があるみたいなんですよね」

ぽんぽんと床を叩いて、「甲太郎もちゃんと聞く!」とソファから下りて来るように促し、彼が渋々床に座り直すのを待って、九龍は『H.A.N.T』を弄り倒しつつ、説明を続けた。

「日本神話だぁ?」

「日本神話って……天照大神が天の岩戸に籠ってどうたら、ってアレ? ……うわー……。京一、寝ないで聞いてられる? 俺もあんまり自信無いけど」

「…………途中で、くたばるかも知んねえ……。ひーちゃん、後は任せた」

激しく苦手で果てしなく無興味な分野の話が始まると知って、京一は目一杯、龍麻もそこそこに、渋ーい顔をする。

「そんなに難しい話じゃないですよー。──未だ、本当に一部分しか俺も潜れてないんですけど、あの中には所々に、文字が刻まれてる石碑があって、それは、神代文字って呼ばれてる、漢字が伝来する以前に使用されてたってことになってる、この国固有の文字で書かれてたんですね。神代文字は、近世以降に捏造された物だ、ってのが定説で、でも偽物って決まった訳でもないんで、一応、とっても簡単なのなら何とか読めるくらいは俺も覚えましたし、ロゼッタに、俺は『素敵お便利』って呼んでる辞書ソフトの神代文字バージョンがあったんで、二度目に潜る前、それダウンロードして来て、俺が読めなかった碑文とか、その他諸々、翻訳してみたんですよ」

「本当に、お前はネーミングセンスがないな」

「……時々、無駄に詩人な甲太郎に言われたくないなー。……じゃなくって、えーと。で、そうしたらですね、遺跡の各部屋に付けられてる名前とか、日本神話に登場する事柄に関係があったんです。因みに、調べられた所は全部、日本神話の冒頭辺りに該当してました。だから、あの遺跡が法則に則って造られてれば、未だ覗けてない場所も、神話に出て来る逸話のどれかになぞらえて造られてる筈です。だとするとあそこは、古代の神殿か何かかなー、って推測か立つんですけ、ど……。…………蓬莱寺さん。緋勇さん。起きてます?」

「……おー。起きてるぞー、何とか」

「ダイジョブ。マダ、ダイジョブ」

「ホントに大丈夫ですか? 続き、行きますよ?」

放っておいたら、絶対に寝る、この人達、と京一と龍麻の様子を窺いつつ、九龍は先を続け。

「でもですね。何かの神様を祀ってあるだけの神殿だ、って考えると、あの規模は一寸大き過ぎる気がしますし、何よりあそこ、化け物が出るんですよ。結構な数、あっちこっちに出ますし、区画の最奥にはラスボスも出ました。神殿を侵す不届き者を排除するには、システムが厳重過ぎです。じゃあ、あそこに出たラスボスも、『墓を侵す者は誰だ』って言ってたことだから、あそこは墓場なのかな、って考えてみたんですけど、そうすると今度は、構造的に首捻りたくなるんです」

「九龍。それは、どういう意味だ?」

三年寝太郎な甲太郎は、こんな話をされれば、青年組よりも遥かに早く船を漕いでいても不思議ではないのに、しっかりとした瞳で、九龍を見た。

「ん? 甲太郎は、あの区画一緒に潜ったから判ると思うけど、あそこにあった碑文は皆、奥へと進む為のヒントみたいなことが書かれてただろう? ……巨大な墓にはさ、大抵、昔のお偉いさんが埋まってる訳さ。俺達みたいな人種に、そういう人達の眠りを妨げられたら、墓なんて面目丸潰れじゃん? お偉いさんの持ち物である、副葬品とか盗まれても一大事。だから、普通は徹底的に隠すっしょ? 後から誰かが入れるようにする必要なんか、何処にもない。本来ならね。なのにあそこは、不届き者を徹底的に排除しながらも、『誰か』を迎え入れるように出来てるっぽいんだよ。でなきゃ、罠の解除方法とか、扉を開ける鍵の動かし方なんて、碑文に書いとく必要無いじゃん。…………要するに。あそこは何の為に建造されたのか、全く読めない場所なんだよねー」

ともすると、京一や龍麻以上に、話に聞き入っていると思える甲太郎の態度を不思議に思いながらも、九龍は先日、「内緒」と隠したことを語った。