互い、腹の中に何やら隠しながら、それでも青年組と少年組がタッグを組んで、三日が過ぎた。

日曜、一緒にテニスをしよう、との明日香との約束を、うっかりすっぽかす失態を犯した九龍は、四苦八苦しつつ彼女の機嫌を取りながら、もう一寸で『JADE SHOP』で武器調達が出来るーーー!! と、『気が向けば』付き合ってやると言った甲太郎を引き摺り回し、資金稼ぎの小仕事をこなす為、日々張り切って遺跡に潜り、「本当に、お言葉に甘えますっ!」と、青年組の部屋へ押し掛け、風呂を借りたり茶をご馳走して貰ったり、としていた。

先週以上に、そんな彼に振り回されることになった甲太郎も、必然的に京一や龍麻との接触が増えて、ほんの少しだけれども、青年組の前では態度より角が取れ始め、青年組は青年組で、格好の玩具を手に入れた風に、九龍と甲太郎をからかい倒し、構い倒し、としながら、警備員の仕事をこなした。

遺跡に目立った変化は見られず、京一や龍麻は感じられる氣も変わりなく。

だが、変化がないということは、進展もないということで、『どうすれば、あの大広間にある、鍵の掛かった扉達は開くのか』が、月曜と火曜を無事に過ごした一同の、専らの話題だった。

…………そしてやって来た、九月二十九日、水曜。

──その日も、九龍や甲太郎は朝から慌ただしかった。

朝の教室にて、いい加減、自分も遺跡に連れて行けと騒ぎ出した明日香の声を抑えようと、迫る彼女にいい加減なことを九龍が答えたら、そうと決まれば、あの、取手の体から出て来た不思議な黒い砂のことを調べに行こうと、情熱滾らせた彼女に、九龍は固より、甲太郎も引き摺って行かれ。

向かった図書室では、明日香が捕まえた月魅に、あわや九龍の正体がばれそうになり。

何とかそれを乗り切り、疲れたからサボると言い出した甲太郎の腕をガッチリ掴んで九龍は授業に戻ろうとしたのに、それでも甲太郎は逃走を計って、故に彼等は一寸した追い掛けっこを繰り広げることになって、『追い掛けっこ』の途中、幽花の落とした美術室の鍵を拾ったり、取手に行き会って音楽室の鍵を貰ったり、黒塚に捕まって、「僕の知らない石の匂いがする」と言い出した彼に、必ず、九龍の『秘密の花園』を暴いてみせると宣言されたり、として。

もう、屋上に行く気力もない、と項垂れた甲太郎と九龍は、大人しく授業に参加して。

「黒塚って、ほんとーーーーーーーーーー……に、石が好きなんだなあ……。石と話も出来るのかー……」

やって来た昼休み、それが終わる頃になっても、九龍は昼食を摂ったマミーズの一席より腰を上げず、少し前に届いた黒塚よりのメールをしみじみ眺めていた。

「あ?」

「ほらほら。メールに書いてある。『さっきは楽しかった。君の近くにいると、何故か石達が特別な話を聞かせてくれるような、そんな気がする』って。……凄い才能だよなあ……」

「それは、才能の一言で片付けていいことか? …………それよりも、九龍。それ、何とかならないのかよ……」

カレーにも付けられるランチセットのコーヒーを飲みながら酷く感心している九龍を、ちらり見た対面の甲太郎は、今度はちらり、九龍の隣の椅子を占めている『物体』を、嫌そうに見遣る。

「何とか……と言われても」

「ほいほいと貰うな、そんなもん」

「えー、いいじゃんかー。折角、月魅ちゃんがくれるって言うんだしー」

甲太郎が嫌がっている『物体』は、マミーズに向かう途中廊下で行き会った、どうも、大好きな古代史に付いて語り合える九龍を気に入ったらしい月魅が、良かったら、と九龍に贈った『ファラオの胸像』で。

「こいつはこいつで、趣ある……と思うよ。………………多分。部屋に飾るのも、まあ一興?」

「お前がそれを部屋に飾るなら、俺は絶対、お前の部屋には行かない」

「えええーーー。何で? 何で? そりゃパッと見、ツタンカーメンの仮面に似てるから、嫌がる人がいるのも判るけど、本物な訳ないんだから。恐がりだなあ、甲太郎は」

「勝手に思い込むなっ! 俺は、センスの話をしてるんだ。それを部屋に飾るのは、どう考えても悪趣味だろうが」

「…………ま、ね」

酷く不機嫌そうな顔付きの甲太郎と、ポンポン、と胸像の頭をリズミカルに叩く九龍は、どうやって月魅は校内に運び込んだのか謎な胸像を巡って騒いでから、奈々子に、コーヒーのお代わりをした。

────で、ホントだって。俺、この目で見ちゃったんだよ!! 夜の墓地で、あの墓守が何か埋めてたんだ。その、棺みたいなのを……」

「棺って……。まさか、あそこって本当に死体か何か埋まってんのかよ」

疾っくに、午後の始業を告げるチャイムは鳴ったのに、授業は? と素朴に問うて来た奈々子を、へらっと笑いながら自習と誤摩化していたら。

「……お。サボりのお仲間発見」

「うちのクラスの奴等だな」

少し離れた席から、二人の男子生徒の興奮気味な会話が聞こえ、彼等は目で合図し合った。

「判んないけど……。何もわざわざ所持品なんか棺に入れなくても……。……なあ、確かめてみようぜ」

「けど、そんなことしたら、執行委員の連中に……」

「大丈夫だって。バレないようにすりゃいいんだから。それより、ホントに死体が見付かったら大スクープだぜ。新聞や雑誌社に情報を売って、一儲け出来るかも……」

「お、おう……」

そのままそっと、同級生だった二人の話に聞き耳を立てれば、彼等の同級生達は、『捕らぬ狸の皮算用』を始め。

「……あいつ等……」

「…………甲太郎。止めてあげたら? 俺には、《生徒会》のこと忠告してくれたじゃん」

「俺には関係ない。お前に忠告した時とは事情が違う。お前は、《生徒会》のことなんか何も知らない転校生だったから、忠告くらいしてやらなけりゃ可哀想かと思ったが、あいつ等はそうじゃない。……痛い目を見ても、自業自得だな」

「ドライなことで。……それにしても、《生徒会執行委員》、か……。鎌治もそうだったよなーーー」

聞こえた話に呻きはしたものの、同級生を止める気は微塵もないらしい甲太郎に、九龍は肩を竦めた。

「そう言えば、お前には未だちゃんと話してなかったな」

コーヒーカップを口に運びながら、《生徒会》と呟きつつ、チロチロ窺って来る九龍の瞳は何かを期待している風で、甲太郎は苦笑しつつ、彼が己に求めているのだろうことを話し出す。

「うちの《生徒会》には《役員》とは別に、《執行委員》ってのがあってな。文字通り、《生徒会》が決めた規則を執行する役目を負ってる連中だ。《執行委員》は一般生徒の中に紛れ込んでいて、誰がそうなのかは判らない。だが、常に俺達を監視していて、いざとなれば、違反した生徒を処罰する、という訳さ」

「へーーーー……。秘密警察みたい。そういう処、碌でもない学園だね」

「判るだろ? 俺が、《生徒会》に目を付けられないようにしろ、って言った意味が。何処に監視の目があるか判らないし、気を付けようもないかも知れないが、まあ、不用意に目立たないことだな」

「……もう、充分過ぎる程、目立っちゃってると思うけどねー、俺も甲太郎も。……二時限目が始まる前だってさあ──

──あれは、お前の所為だからな。お前が、俺と授業に出る、なんて言い張らなけりゃ、あんなことにはならなかったんだ」

「全部俺の所為? 俺だけの所為? 明日香ちゃん以下クラスの皆が、俺が甲太郎のこと授業に引き摺り出すの成功した! って、思わずの拍手喝采で出迎えてくれたのは、全部俺の所為っっ!? 甲太郎が、普段授業に出ない所為だろーっ?」

「……絶対、お前だけの所為だっ」

かつて取手がそうだった、《生徒会執行委員》とは何たるか、を二人は話していたのに、何時しかそれは、午前起こった恥ずかしい出来事に関する口喧嘩に発展し、彼等のそれは、ヒートアップし掛けたが。

「…………ふふふっ」

突然沸き起こった、幼い声の笑いに、二人の口喧嘩は遮られた。