「…………………………まあ、な。……ああ、そうだ。俺は、ひーちゃんに惚れてる。それは、胸張って言えるな」

「おーーー! 蓬莱寺さん、潔いー! 男前ー! アニキぃぃ! って呼びたいかもー!」

「お前等にそう言われてもなー……」

────恋人同士。

その言葉を甲太郎が選んだ瞬間、京一の目線も、龍麻の目線も、一瞬泳いだ。

アルコールの力を借りて、頭がパァになることを願ったのに、九龍も甲太郎も、それに気付くことが出来てしまった。

故に九龍は、京一の言葉に握り拳を固めて殊更はしゃいでみせ、自分の方へ押し出された二本目の缶を取り上げて、今以上に馬鹿になりたい、とビールを呷った。

「大丈夫ですよー。お二人がどんな関係だって、俺達の見る目は変わりませんしー。誰にも言いませんしー。…………処でっ! 聞いて下さいっ! 今夜も大変だったんですよっ。遺跡潜ったら新しい扉が開いてて、探索してみたら、まーた巨大化人が出て来て、そいつ、アニメの魔法壷みたいな姿しててーっ」

そのまま、深まって行く一方の酒の力を借り、話を変えた彼は、身振り手振りで、今宵の出来事を青年達へと洗いざらい語る。

「ふうん……。死者は生き返らないことを忘れてた少女、ね。神様でも出来なかったことなのに、甦りはあるって頑に思い込んじゃったその子も、可哀想だなあ……」

「不憫……ではあるな。……まあでも、想い出の品とやらを葉佩に取り戻して貰って、忘れちまってたことも思い出して、死って奴も受け止められるようになったんだから、良かったじゃねえか。救って貰ったって、お前に感謝してたんだろ?」

「……………………ええ、まあ」

迫真の語りが終わり、一息付いた九龍に、龍麻や京一が思ったままを告げれば、今度は、九龍の視線が一瞬泳いだ。

「………………?」

「……それにしても、一寸面白れえな」

不自然に漂う眼差しを見付け、龍麻は不思議そうになり、見えない所で、ツン、と龍麻を突いた京一は、何事もなかったように会話を続けた。

「面白い?」

「面白いっつったら不謹慎だけどよ。何つーか……。自分の支えだった姉さんが、病気で亡くなっちまったことを認められなかった取手って奴が、イザ何とかの神とかいうのが死んじまうまでを語ってた場所を守ってたんだろ? で、死者の甦りを信じた椎名って女子は、てめぇのカミさん生き返らせたかった何ちゃら神が、死者の国までカミさん迎えに行くトコまでを語ってた場所を守ってたんだろ? ちょいと、似てるなー、ってな」

「………………………………え?」

「あ、葉佩君? 京一って結構、野生の勘で物言うから、余り気にしな──

──やっぱり、アニキって呼ばせて下さいっ!!」

話を進める為思い付きで京一が言ったことに、九龍は一瞬、きょとん、と目を丸くし。

次の瞬間、ガタリと立ち上がった。

「九龍?」

「そうか……。……うん、似てる。確かに似てる! でも、えっと、えっと、そうすると……。……あーもー! 頭働かないーーー! むきーーーーっ!」

「落ち着けって…………」

「落ち着い……てないけど、多分落ち着いてるっ。無問題っ!」

いきなり、一人興奮し始めた九龍を甲太郎は黙らせようとしたが、嗜めは空振りに終わり。

「どういうこと?」

黙らせるよりは、語らせた方が静かになる、と龍麻は彼を促した。

「あああああ! それがですねっ!」

「……声のトーンは、落としてね?」

「うっ。すみません……。……えーと。アニキが言った通り──

──アニキは止めろ。頼むから」

「…………京一さんが言った通り、各区画を守ってた鎌治やリカちゃんが忘れてたことと、区画の中で語られてた神話の中の逸話が似てる──要するに、その二つに関連性があるなら。やっぱり、天香遺跡が何処までも、何かの法則に則って建てられてたら、の話ですけど、未だ語られてない神話の続きの逸話のどれかに似た、悩みみたいなのを抱えてる人が遺跡の番人ってことになって、開いてない扉を開け……。…………あれ? でもそうなると、扉を開けてくには、人様のトラウマに踏み込んでかなきゃ駄目ってことか? ……んんん? トラウマが『鍵』な扉? そんなんって、あり? おーやーーー……?」

「だから、落ち着けって言ったろうが、馬鹿が……」

勢い込んで説明し出したものの、九龍の閃きは尻蕾みに終わり、本当に世話の焼ける……、と甲太郎は頭を抱え。

「だってー……。もしそうだったら、この先扉を開くにはどうしたらいいかってことの、手掛かりになるかなって思ったんだもーーん……」

酔っ払いは、拗ねた声で言いながら、テーブルに懐いた。

「……使ってない部屋あるから、布団敷こうか? 朝までに寮に帰ればバレないよね?」

「………………手間掛けさせて、すまない……」

そのまま、ひんやりとするテーブルに懐き続ける九龍に、あーあ、と龍麻は立ち上がり、甲太郎は酷くバツが悪そうに頭を掻いた。

「遠慮すんなって。酒なんか呑ませたのは俺達だし。お前等といると、ちょいと歳の離れた弟が出来たみたいで楽しいしな。………………なあ。葉佩……は半分寝ちまってるか。ま、いい。──皆守」

ダイニングを出て、和室へと行った龍麻を目で追いながら、京一は。

「さっきは、有り難うな」

照れ臭そうに、笑った。

「……いや。俺は、思ったことを言っただけだ。あんた達がどういう関係だろうと、俺には関わりないことだから」

「おーおー。可愛気がねえなあ。そういう時は、思ったことを言っただけ、で止めときゃいいんだっての。お前もちったあ葉佩のこと見習って、ストレートに生きてみな」

「こんな熱血馬鹿の、何処をどう見習えってんだ? あんたは」

「少なくとも、お前よりは素直なトコ、とかだな。…………正直になるってのは、どうしたってしんどい……いいや、しんど過ぎることだけどよ。一旦全部を出しちまえば、その後は、多分楽だ。…………ま、俺も、偉そうなことは言えねえけどさ」

正面から、瞳を捉えて『有り難う』と告げられ、どうしていいか判らなくなった甲太郎は、テーブルへと視線を落とし、憎まれ口を叩いて。

肩を竦めながらも京一は、少しばかり彼を諭した。

「布団敷けたよー。葉佩君、向こう行ける?」

そこに、支度を終えて戻って来た龍麻の声が掛かり。

「…………あー、いけまーす、平気でーす。……すいません、本当にー……」

「ほら、九龍。しっかり立てって」

馬鹿になりたいと、無理して流し込んだアルコールと、連日連夜の探索の疲れと、寝不足が一度に襲って来たのだろう、今にも閉じそうな目をして、ヨロヨロと立ち上がった九龍を甲太郎は支えてやる。

「二人共、お休み。もしも六時に起きる自信が無いなら、寮の方には適当に言い訳しとくよ?」

「それは、何とでもなるから平気だ」

「そっか。……じゃ、お休みー」

「ゆっくり寝ろよー」

「はーーーい。お休みなさーーい……」

「……お休み」

掛け値なしに、自分達を気遣ってくれているらしい龍麻と京一は、九龍の言う通り、悪い連中じゃないのだろう、と。

九龍に倣い、就寝の挨拶を告げた甲太郎は、誠に珍しいことに、ぺこり、二人へ頭を下げた。