「……………………はい?」

「ビューティー・ハンターよ、ビューティー・ハンター。さあ、貴方達も呼びなさい。ビューティー・ハンターとっ! ──せーの!」

「ビューティー・ハンター!!」

────そう、アタシの正体は、美の狩人。ビューティー・ハンターっ!! ……と恍惚に語る朱堂に、甲太郎は顎を外し掛け、思わず九龍は朱堂と一緒になって叫び。

「素直に乗るな、馬鹿九龍っ!」

「だって、つい…………。こう……お笑い番組収録のノリっぽいなー、と思ってさあ……」

ドコっと甲太郎は九龍をド突いて、先程の錯乱を棚に上げて咎めて来た彼に、九龍はブーブーと訴えた。

「まあ、いい……。……この変態野郎を捕まえて、とっとと寮に帰るぞ、九龍」

「賛成ー。寒いしねー。甲太郎に引っ付いてると暖かいけどー」

「…………あら? 貴方達、そういう関係?」

「妙な誤解をするなっ!!」

「酷い、甲太郎っ! 俺と甲太郎は、熱くて固い絆でー!」

「…………………………。お前等、何やってんだ?」

「えーーー……と。……文化祭の練習?」

その後も、わあわあきゃあきゃあ、女子寮の敷地の片隅で彼等は騒ぎを続け、そこへ。

何時まで経ってもやって来ない九龍と甲太郎を探しに来たらしい、警備員服姿の京一と龍麻が、猛烈に複雑な顔を拵え、声を掛けて来た。

「あら、そちらのお兄さん達も、イ・イ・オ・ト・コ」

「いい加減、黙れ変態っ! 俺は、こんな下らないことはさっさと終わらせて寝たいんだよっ」

「いやーん、そんな風に言われると、何だかお尻の辺りがむずむずしちゃうわん。うふん」

「……葉佩。皆守。こいつ、おかまか?」

「おーーーー。久し振りに見たー、おかま。『ともちゃん』以来だ」

「アタシは美の狩人、ビューティー・ハンターよっ!」

「蓬莱寺っ。緋勇っ。あんた等、これ以上話をややこしくしないでくれっ!!」

京一と龍麻が加わっても、騒ぎは収まる処か勢いを増して、段々、ぐちゃぐちゃの様相を呈して来て。

「あー……。この、ビューティー・ハンターな彼がですね、女子寮覗きをしてたんで、後のこと宜しくお願いします! 警備員な京一さんに龍麻さんっ! じゃっ、そういうことでっ!」

流石に疲れて来た、と九龍は、事態の収拾を、京一と龍麻に押し付けようと企んだ。

「おかまが、女の裸覗いてどーすんだ?」

「……あ、判った! 京一、彼は女性にしか興味が無いおかまなんだよ、きっと」

「………………ひーちゃん。それ、おかまの意味あんのか?」

「だから……ええと…………おかまなレズの人、とか」

「お前時々、果てしなく天然だよな……」

「アタシはビューティー・ハンターだって言ってるでしょーーーーっ!!」

が、それでも、話は益々こんがらがって行くのみで。

「そこの、阿呆な大人二人っ!!」

「京一さん、龍麻さん、今、そこは問題じゃないです」

「……お。それもそうか。──何が何だかよく判らねえけど、そこのお前、俺達と一緒に警備員室まで来いや」

「あ、そうだった。──君、一寸話聞かせてくれるかな?」

甲太郎と九龍の叫びに、自分達の仕事を漸く思い出した京一と龍麻は、自称・美の狩人を取り押さえようと近付いたけれど。

「ふふん。貴方達にアタシが捕まえられて? ────シゲミ、ダァァァッシュッ!!」

二人の手が伸びるよりも速く、朱堂は駆け出す。

「げっ! 何だ、あいつっ。滅茶苦茶脚速ぇぇっ」

「うわーー、稀に見る俊足っ」

「追っ掛けるぞ、ひーちゃんっ! お前等も手伝えっ!」

「ちっ。仕方無い、手伝うぞ、九龍。──逃すかっ!」

彼の、予想外の脚の速さに驚きつつも、京一も龍麻も走り出し、甲太郎も、全速力で駆け出し。

「おかまの脚力、舐めたらあかんぜよぉぉぉっ!」

「あ、おかまって認めた」

遠離とおざかって行く声のする方角を、九龍も目指した。

寮の裏手の森に朱堂は紛れたらしいと、四人が手分けして彼を探し始めて十分程がした頃、九龍は、甲太郎よりのメールを受け取った。

『早く来い』という件名のそれには、『今、墓地にいる。あの朱堂とかいうおかまを追ってったら、野郎……事もあろうにあの地下の遺跡に続く穴に入って行った。勘弁してくれよ……。俺一人であんな変態と狭い場所に入るのは非常に(←ここ四倍角)嫌なんで、早く来てくれ。待ってるからな』と、甲太郎の心情がとてもよく滲み出ている文面が綴られており。

「うえ? 遺跡?」

呻きつつ、彼は慌てて寮の自室に取って帰って、装備一式を揃えてから、甲太郎の待つ墓地へ駆け付けた。

「京一さんと龍麻さんは?」

「一応メールは打っといたが、未だ来ない」

「……ふうん。何でだろ。一旦寮に戻った俺よりあの二人が遅いなんて、有り得ないと思うんだけどなあ。…………ま、いいや。行こ、甲太郎。あの彼、ひょっとしたらひょっとするかも知れないしさ」

「そうだな。……だが、お前と俺だけで平気か?」

「平気だよ。あの二人も、後から来るかも知れないし。──じゃ、出発!」

何時もの穴の傍らに甲太郎は立っていたが、残り二名の姿はなく、九龍は首を捻ったけれど、向こうは向こうで、色々事情があるのかも知れないしな、と、ビューティー・ハンターを追うことを彼は優先し、ロープを引き摺り出し来て、甲太郎を促し中へ潜った。

「……二人だけで平気かな?」

「連中のこった、大丈夫だろ」

「ま、何なら、後で見に行けばいっか。──それよりも」

「ああ、あっちの方が先だな」

少年達が、穴の中へと消えて直ぐ。

墓地の入口辺りから二人の様子を窺っていた龍麻と京一は、追うでもなく彼等を見送り、来た道を振り返った。

「…………こんばんは。賑やかな夜ですね」

「俺等に、何か用かよ」

隠れていた茂みから抜け出、別の茂みへと二人がそれぞれ声を掛ければ。

「初めまして、だな。……緋勇龍麻。それに、蓬莱寺京一……だろう?」

白いチャイナドレスの上に白衣を引っ掛けた、中国美人が姿を現した。

「劉瑞麗さん、ですね? 中国福建省のご出身だって、葉佩君に伺いました」

「……ああ。────何時も、私の愚弟が世話になっているようだな」

「……………………あー、やっぱり。劉の姉貴か、あんた」

充分に距離を取り、対峙した彼等と彼女は、推測に間違いなかったか、と揃って苦笑した。