「……どーして」

誰かが誰かを好きになること。誰かと誰かが好き合うこと。

それは、複雑な事情が入り込む余地のない、至極単純明快な世界で、好き合う者同士の想い以外、考慮する必要は無い、というのが京一の考え方で、だから彼は、何故、龍麻が難しい顔になったのか、よく理解出来なかったが。

「京一ってさ、ホントーに変なトコ抜けてるよね。頭の回転いいくせに。……『好きだから突き進んじゃえ』は、葉佩君は受け入れられる理屈でも、皆守君には、多分無理だよ」

龍麻は、呆れ目線で京一を睨んだ。

「あの性格だからだろ?」

「うん。あの、どうにもネガティブっぽい性格もそうだけど。──もしかして京一、気付いてない? ……ここの《墓》は、大昔から、《生徒会》が守って来てるんだろう?」

「…………? ああ、皆守は、そう言ってたぜ?」

「んで、《生徒会》は、《墓》を侵す者を排除せよ、が絶対の掟で、彼は、そんなトコの副会長さん、なんだよね?」

「………………らしいな」

「あーもー! 未だ判らないんだ? そうだって言うんなら、葉佩君より以前にここに潜り込んだロゼッタのハンターとかを『行方不明』にしたのは、何処の誰になるんだよ。皆守君達だろう? ……こんなこと、軽々しく言いたくないし、『排除』がどういう意味かも判らないけど、ってことは、皆守君達は、墓荒らしを殺したことがあるかも知れない、ってことになって、更には、このまま行ったら、彼は葉佩君が相手でも、『同じこと』しちゃうかもなんだってば!」

「……そうか……。そういうことになんのか…………」

「ホントに、もー……。何で、そこに目が行かないかなー……」

何処までも声だけは潜めつつの龍麻に耳許で捲し立てられて、京一は、あ、と顔色を変え、やっと、先程から言い続けた『難しい』の意味が、京一にも判ったか、と龍麻は肩を落とした。

「……ん? ってことは、だ。あの墓に埋まってんのは、行方不明になった連中の所持品じゃねえかも、って可能性もあるってことだろ? ………………んんんんん? ……今思い出したけど……、と、なると。あの時、あいつが『墓参り』してたのは……。いや、でも、一寸待て? そうなると……辻褄が合わなくなって来ねえ……?」

「京一? どうしたんだよ」

だが、呆れる龍麻そっちのけで、京一は何やらぶつぶつと一人考え込み始め、一体何を、と龍麻が首を捻れば。

「…………なあ、ひーちゃん」

「何?」

「葉佩と戦った四人の執行委員の内、俺等は、取手と椎名の話しかよく聞いてねえけど……、その二人は、大切だけど、辛過ぎる想い出を手放したいって思ってたトコへ、誰だかに、執行委員にならねえか、って声掛けられた……んだったよな?」

「うん。取手君って子も、椎名さんって子も、その前後のこと、よく憶えてないそうだけど。そんな風らしいよ。失くしてた想い出と想い出の品を葉佩君に取り戻して貰って、二人共、《生徒会》とは手を切ったんだし」

「じゃあ、皆守は……? あいつは何で、副会長にまでなったんだ? あいつが失くしたモノってのは、何だ……?」

彼は、何故、甲太郎は副会長になったのだろう、と言い出した。

「さ、あ……。それは、皆守君自身も忘れてるんじゃ? 何で、急にそんなこと気にするんだ? 京一は」

「いや、な……。何つーか……ホントーーーに、微妙に、なんだけどよ。辻褄が合わねえな、と思ってさ」

「何の」

「葉佩からの又聞きだけど、執行委員だった連中は、校則違反を犯した生徒を処罰したり、《墓》を侵す者を排除することを、どうとも思ってなかったんだろ? 自分達の《力》はその為にあって、使命とやらの為には、《力》を使うことも厭わなかったし、そうするのが当然だって思ってた。……いや、思わされてた、んだろうけど。どっちにしても連中は、執行委員だった間は、その手のことに、良心の呵責を感じたりはしなかった。今は、どうだか知らねえし、自分達が墓荒らしを排除したことも、ひょっとしたら憶えてねえのかもだけどよ。…………ってことは、皆守もそうだ、ってことだよな、理屈から言えば。あいつが、誰かから、墓守になる為の《力》を貰ったってんなら」

「………………そうなるね」

「でも、あいつはそうじゃない。葉佩のことが好きだって、その想いが強いからかも知んねえけど、あいつは、自分の立場や使命と、惚れちまった葉佩が宝探し屋だってことで、悩んでる。悩んでるってことは、いざその時が来ても、本音では葉佩を排除したくねえ、ってことで。…………何でだ? 何でそうなる? ……それに。ひーちゃんも憶えてるだろ? あいつが、『墓参り』してたの」

「うん。憶えてる。ラベンダーの花束は、余り墓参りには向きな花じゃないよな、とか思ったし」

「あの下に眠ってるのが『死体』なら、あいつの『墓参り』は納得出来る。だけど。なら、あそこに眠ってる『死体』は、あいつ等が排除した誰かの死体ってことになるんだろうに。皆守は、そのことを忘れてない。忘れてねえ処か、少なくとも花束手向ける程度は、何らかの思い入れがある。…………辻褄、合わなくねえ? 何故あいつだけ、今までの執行委員達とは、『パターン』が違うんだ? 何であいつは、葉佩を排除しなくちゃならないって悩む? どうして、自分達が排除した奴に、思い入れがある?」

「うーーーーん…………。それは、俺に訊かれてもなあ……」

深い思案の顔をして、京一が次から次へと吐き出す疑問の答えが、龍麻に判る訳もなく。

彼も又、んーーー? と頭を捻り出した。

「俺だって判んねえっての。でも…………何となく、あいつが何で《生徒会》なんかに首突っ込んだのか、それが判れば、その辺のことも解決する気がすんだよ。んで、それが解決しちまえば、葉佩と皆守の惚れた腫れたも、丸く収まる気がする」

「……あ、結局は、京一の野生の勘か。…………でも、京一の野生の勘、結構当たるからなあ……。──とは言っても。相手は野生の勘だし、今一つ漠然とし過ぎてるっぽいからさ。それは、一旦こっち置いといて。……京一、ここら辺でもう一遍、俺達の方向性纏め直さない?」

「方向性?」

「そう。俺達今まで、葉佩君が探そうとしてるモノと、新宿の今のこんな状態に関係があるかどうかを調べるのを、当面の目的にしてたろう? それが判れば、どうして俺が葉佩君のこと気にしまくるのかも判るんじゃないか、って。でも、気が付いたら俺達、若人の恋愛相談窓口になっちゃって、だけど、今更あの二人のこと見捨てられないだろう? なのに、事態はどんどん訳判んなくなってってるから。………………俺達は、この先、どうする?」

「あーーー、その方向性か。……そーさなー…………。先ずは……『若人の恋愛相談窓口』続けつつ、今までよりも、もうちょい、葉佩の宝探しに力貸してみる、ってトコでどーだ?」

「んー……。……その線が、妥当か。遺跡の謎が少しでも解ければ、あっちもこっちも、打開策生まれるっぽいし。……あ、じゃあさ、京一。『知恵袋』に招集掛けてみよっか?」

「『知恵袋』?」

「御門と裏密さん。怪しい現象の専門家」

「……お。なーる……。なら、早速今度の日曜、呼び付けようぜ。丁度、俺等も休みだし。連中もガッコねえし」

「ん。決まり」

二人揃って、無い知恵を絞ってはみたものの、手掛かりが少ない中、彼等に出せる知恵は、野生の勘の域を出ず。

『報告会』の終わり、京一と龍麻は、今後の方針を立て直すと、『援軍』を呼び付けてみることを決めた。